免許更新、涙の講習。
先日、
23回目の結婚記念日を迎えた。
派手なディナーもない。
高級ホテルもない。
あるのは――
妻による「40分間の特別講習」だ。
テーブル越し。
逃げ場なし。
スマホ没収。
私は静かに着席する。
「はい、更新講習はじめます。」
教官は、世界でいちばん手厳しく、
世界でいちばん私を知っている人だ。
今回は、正直に言う。
私の不始末がいくつかあった。
いや、いくつかでは済まないかもしれない。
小さな油断。
小さな慢心。
小さな「まあいいか」。
それが積もると、
赤信号になる。
講習の途中、
妻の声が少し震えた。
私の胸の奥も、
じわりと熱くなった。
ああ、
これはただの更新ではない。
これは
“心の適性検査”だ。
人生は、免許制度。
この世に生まれた瞬間、
まっ白な免許証が交付される。
無色透明。
そこから、
入園。
卒園。
入学。
卒業。
小さなスタンプが押されるたび、
色がほんのりと染まっていく。
薄い青。
淡いピンク。
新緑のグリーン。
ときには、ミルクティ色。
人それぞれ、
染まり方は違う。
失敗の色もあれば、
挑戦の色もある。
嫉妬の色もあれば、
感謝の色もある。
人生とは、
“にじむ”ことだ。
恋は、桜茶からはじまる。
恋愛にたとえるなら――
つきあいはじめは、
淡い桜茶。
ほのかに甘く、
まだ熱すぎない。
1ヶ月ごとに
小さな更新を繰り返す。
ケンカして、
謝って、
また笑って。
そのたびに色が変わる。
そして、ある日。
紅に染まったお茶が出る。
それが――
結婚適齢。
タイミングを逃すとどうなるか?
酸化が進む。
ちょい茶色くなる。
「まあ、そのうち…」が
色を濁らせる。
だから決断は、
熱いうちに。
結婚は、紅(くれない)色を育てること。
うまく結婚できたとしても、
そこがゴールではない。
紅を、
濃くするのか。
淡くするのか。
ときには、
青く染まる茶葉も混ざる。
怒り。
すれ違い。
沈黙。
でも、それもブレンド。
二人で煎れるから、
味になる。
一年ごとの結婚記念日。
それは――
免許更新日。
「最近どうだ?」
「寂しくなかったか?」
「無理してなかったか?」
確認し合う。
無事に更新できたとき、
くすんでいた色が
すっと
鮮やかな“紅”に戻る。
ああ、
これでまた一年、走れる。
そして、青汁色へ。
10年。
20年。
30年。
月日は流れ、
茶葉は深みを増す。
やがて栄養たっぷりの
青汁色に染まる頃。
子どもたちは巣立ち、
家は少し静かになる。
「覚えてる?」
「あの時さ…」
昔話に花が咲く。
じじばばの会話のなかに、
また淡い桜色がにじむ。
人生は、
色の循環。
若さの桜。
情熱の紅。
熟成の深緑。
そして、また桜。
23回目の更新。
講習は終わった。
妻は最後にこう言った。
「ちゃんと、また一年よろしくね。」
「違反点数が重なると実技もあるからね笑」
私は深くうなずく。
更新完了。
有効期限――
来年の今日まで。
世間のご夫婦のみなさん。
免許更新、
うまくいっていますか?
点数は減っていませんか?
違反、見逃していませんか?
人生は、免許制度。
まっ白からはじまり、
色を重ね、
にじませ、
混ざり合い、
やがて一枚の
美しいグラデーションになる。
その色で、
この時代を飾っていく。
私は今日も、
紅の免許証を胸に、
また一年、
走り出す。
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Aメロ:桜茶
Bメロ:酸化
サビ:紅
Cメロ:青汁
ラスト:桜色回帰
