「 帯に短し襷に長し 」

買ったばかりのロングカーディガンが自転車に巻きこまれた。
つんのめるように自転車が止まった時、一体何が起こったのかわからなかった。
慌てて自転車から降りると、私から細長く見覚えのある生地が帯のように車輪に向けて繋がっているではないか。
ビリビリビ。乾いた裂ける音を聞きながらタイヤに絡まった一方を引っこ抜こうとする。
りんごの皮を切らずに、どれだけ長く剥くことが出来るか。あれに似ているな、と思う自分の能天気さを現実に連れ戻したのは、背後から乗るはずだった電車が通り過ぎる音を聞いた時だった。
定刻に間に合わないことを職場に電話して、とにかく自転車からカーディガンを引っ張る。
うんとこしょ、どっこいしょ、ってこれどこかで見た光景。通学途中の子供たちは、不思議そうに私を見て行った。
晒素材のロングカーディガンは形も色もとても魅力的で、マネキンに着せられたそれを見て、購入したものだった。羽織れば風に泳ぐ感じも気に入り、晒にはこんな使い方もあるのだな、と発見していたところだった。
ビリビリビ、あの音を思い起こすと晒ならではの事故の結末。他の素材なら、ここまで潔く破れはしなかっただろう。
修復して目を瞑れば使える範囲、そうはいかなかった。確かに足下まであった丈は袖だけ残したショルダー丈になっていた。
帯に短し 襷に長し
職場に着き、事情を話すと、怪我はなかったか心配してくれた。(みんな何ていい人なんだろう)
心配してくれた曇顔を何とかしたくて、
「大丈夫です。私は! でも、お気に入りがこんな形になりました」
袖の部分だけ残ったカーディガンと裂けた残りの生地を手品のように手提げカバンからするする出して見せた。
曇顔が今度は呆気にとられて
「そんなこと、なる?」
「ごめん、面白い」
みんなでケラケラ笑った。
帰っておっさんに見せたら、
「これ、新しい何かになるんちがう?」
(どこまでポジティブな人だ。)
子供たちは、袖だけ残った様子に
「こうゆう服やと思ってもらえるん違う?」
(思ってもらえるかーい。)
かく言う私も、リメイクしてベルトにでもするかな、と内心思っていたところだ。
マイナス思考に占領されていた私は、プラス思考にまで鍛え上げてもらったのか。環境のチカラはすごい。
やっぱり素敵だ。
マネキンが着ているロングカーディガン。買ったばかりのものを又買うなんて惜しい。ショーウインドーの前を行ったり来たり。おっと、これもどこかで見た光景だ。
同じの買おうかな。お店の人が事情を知り、残念がってくれた。「もうちょっとしたら少し安くなりますよ」そう付け加えてくれた。「残っていたらいいですね」とも。
中庸。その時あったらまた選ぼう。共布のベルトを添えて、もひとつ素敵に仕上げるんだ。
帯に短し 襷に長し。役に立たなく見えたって、物は考えよう。

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