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#18 「今日」のために「わたし」を見つめて-カネヨリマサル『今日の歌』感想-

カネヨリマサル『今日の歌』(2021)

カネヨリマサルは大阪府出身の女性スリーピースロックバンドだ。瑞々しく恋や愛を表現していて、例えるならレモンソーダのように甘酸っぱくて突き抜けていくような爽快感がある。
『今日の歌』を知ったのは、アニメ『Sonny Boy』の劇中歌で流れていたからだ。力強いギターやドラムのサウンドがあるのに爽快感があって、優しくて自分自身に言い聞かせているようなボーカルが印象的だった。女性の視点から、自分自身には誰にもさゆうされない揺るぎないものがある、ということを感じたのも引き込まれた理由だ。
楽曲の冒頭の歌詞がとても印象的だ。

イントロでは、勢いよくギターが流れてきて止めるようにドラムが入る。冒頭のAメロ部分はドラムとベースがメインになって、落ち着いた雰囲気で誰かに語りかけるようにこの歌詞が歌唱される。どんなことがあっても、それがたとえフィクションに出てくるような「魔法」であっても心は「あげない」し「奪えない」。冒頭のこの歌詞の部分から自分には揺るぎないものがあるのだ、と感じさせられる。
そして、この楽曲からは自分のことを信じたり、感情を大切にしようとしたり素直でいたい、という思いが感じられる。前半のBメロと後半のBメロの歌詞部分にこのことが現れていると思う。

「わたし」が主語になっているところや、「目の前を信じること」、「悲しみを悲しんで」という部分からは自分に素直でいることを大切にしようとしていることを感じる。
自分に正直でいるからこそ愛している相手から、自分から遠ざることを決めようとしている思いが感じられるのも印象的だ。前半と後半のCメロの部分で同じフレーズが繰り返されている。

私は恋愛経験が豊富にあるわけではないけれど、恋と愛がどのように違うのかはおおよそ理解している。恋が相手のことを受け入れずに、一方的に自分の思いを伝えることなら愛は相互関係で自分の気持ちも伝えるし、相手がどのように思っているのか相手のいいところや嫌だと思うところを許容しながら関係を築いていくことだろう。自分もいいところや嫌なところを見られるわけだけど、それでも相互に思いやることが愛だと思っている。楽曲の世界観では、相手のいいところや嫌なところも含めて受け入れようとする愛はあるけれど、相手からは愛を受け取れていないことが伺える。「染まったわけではない」とあるように、どこか相手に渡せない揺るぎないものがあるのだと感じる。
後半にかけて、自分のことを見つめていく思いが濃くなっていくのを感じる。後半の大サビの前のサビの部分。

「光になって沈めた心を見つけたい」とあるように、自分の中で隠してきたような思いをしっかり見つめたいと言う思いが感じられる。大サビの部分でもでてくるように「ちゃんと」という言葉がポップで可愛らしさがあって、一見すると「自分のことを見つめる」という重苦しい雰囲気のある世界観だけど、軽やかな感じがあるのが印象的だと思う。
軽やかな印象は後半の大サビでとても強く感じられる。後半のサビの部分でギターの音があるけれど抑えられた雰囲気から大サビにかけて音量が大きくなって開放感があるからより爽やかな雰囲気も感じられる。大サビの歌詞の部分。

「風になりたい」という言葉からは自由に表現したいという思いを感じる。また、「ちゃんと」別れをして自分を信じて歩んでいく、「今日を吹くのだ」と言う言葉からは、まるで風が吹き抜けていくように進んでいきたいという思いを感じる。最後にかけて「ちゃんと」自分の気持ちに素直になって、さよならを告げている。「今日の歌を歌えるから」はわだかまりのあった気持ちにさよならを告げて新しい一歩を進もうとする晴々としたような明るさがある。自分の中で相手に執着してしまうようなもどかしい葛藤する思いがありながら新しい一歩を軽やかに踏み出そうとしている雰囲気があって聴いた後は心地がいい。
この楽曲を最初聴いた時、誰かに自分の気持ちを伝えているような感じがあったけれど、先に書いたように、この楽曲は自分自身に言い聞かせているおまじないのような歌だと思う。誰かにどう思われたいか、というよりも自分はどうしたいのだろうか?と自分自身を見つめて、一旦、答えが決まったなら前に進んでみよう、そういった思いが感じられる。なんというか、自分に正直でいて必要なら別れを告げて明るく進もうとする姿が表現されているのは嬉しい。だって、多くの場合、相手にどう見られているのか、愛しているのに愛されないもどかしい気持ちを抱えたまま、離れたくても離れない愛憎が絡み合った姿が表現されているらからだ。もちろんそういった表現も好きだけれど、この楽曲のように葛藤がありながらも軽やかに明るく進んでいってほしいと願わずにはいられない。この楽曲は「わたしの意思表明だ」、そんなことを感じさせられる。


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