【MEMBER'S VOICE #10 金沢慧】スポーツという文化を起点に、多様な価値観が認められる社会を創りたい
私たちSports X Initiative(SXI)の一番の特徴ともいえるのは、メンバーの多様性です。実績に限らず、事業開発、ブランディング・マーケティング、各種制度設計、データアナリティクスなど、多様な専門性を有したSports Xのアルムナイメンバーを、リレー形式でご紹介させていただきます。
金沢慧(Kei Kanazawa)
◎経歴
福島県立白河高校 → 学習院大学経済学部経済学科 → 筑波大学大学院体育研究科 → スポーツデータを扱う会社 → マッチングプラットフォームの会社
◎私にとってSports X Leaders programとは…
「スポーツの価値を追求する秘密結社」
無意識にプロトタイプを創り続ける
※Sports X Leaders Program 2019 最終発表での一コマ
ぱっと見、爽やか風なのですが、中身は狂気です。
普通でいたい願望が強いのですが、普通のことは身体が拒絶します。
情報を積み上げて整理して、矛盾点を突くのが得意です。
新しいアイデアを思いつくことが最大の喜びです。
得意なことだけやる傾向があります。良く言えば、ひとつのことを突き詰めます。
これらの特性を生かし、「調査・分析」「プロトタイプ創り」「メディア対応」の仕事を行っています。価値のタネを拾い、深く興味を持って調査し、さまざまな形で世に発表するというサイクルを、無意識のうちに繰り返しています。
今年で12年目を迎えている社会人生活の中で、毎年、何かしらの新規案件や新規事業創りに関わっています。0から1を創る中でも、誰かの「こうしたい」というちょっとした願望のタネを拾って膨らまし、1に近い状態まで持っていくことが得意です。
野球やデータをモチーフにし続け、一歩ずつステップアップしていく

高校までは野球部に所属し、白球を追っていました。大学では経済学を学び、筑波大学大学院体育研究科で地域スポーツクラブの経営について研究した後、スポーツデータを扱う会社に入社し、主にコンテンツ制作、野球のアナリスト、ナレッジ開発の業務を行っていました。
小学校5年生のとき「日本シリーズでイチローを封じた野村ID野球」の裏側を探るドキュメンタリーがあり、イチローを封じるためにデータを用いたことが詳細に報じられていました。「将来、こんな仕事ができたらいいな」と初めて思ったのはその時です。大学時代にアルバイトをしたことがきっかけとなって、結果的にはスポーツのデータを扱う会社に就職し、アナリストとして仕事をすることになりました。
約10年間在籍後、2018年11月に転職し、現在はマッチングプラットフォームでの「レコメンド企画、データ分析、システム開発」のディレクションを行っています。転職先はスポーツとは関係のない仕事なので、スポーツ領域の仕事については独立する形をとり、複業として野球の分析やスポーツカンファレンスの企画・運営などの活動を継続しています。
14年を経て変化した「夢」
※野球小僧2006年6月号(白夜書房)から引用(名前が「彗」となっているが正しくは「慧」)
これは初めて雑誌に署名が載ったときのプロフィールです。2006年、大学3年から4年にかけての春、雑誌『野球小僧』(白夜書房)に企画を売り込み、センバツ高校野球の現場レポートをしていました。斎藤佑樹(早稲田実、現日本ハム)、坂本勇人(光星学院、現巨人)、前田健太(PL学園、現ツインズ)らの活躍を野球小僧のブログでレポートした結果、雑誌の記事としても取り上げられることになりました(このときの野球小僧の編集担当はNHK-BSで放送している『球辞苑』に出演されているキビタキビオさんでした)。
初めて世に出るプロフィールなので、後々から振り返られるように大きなことを書いておきたいと思い「スポーツ文化から新しい経済学を生むのが夢」と書きました。
14年経った今、これを書き直すと「スポーツという文化を起点に、多様な価値観が認められる社会を創ることが夢」と表現するのが良さそうです。SXI理事の桜井雄一朗さんが自身を「一貫して見えない価値に興味を持つ男」と表現していますが、この発想と似ていると感じています。
「見える価値」を蓄積できる人に対する猛烈な憧れはありましたが、あくまでも無いものねだりだったなと感じます。
直感的に面白そうなことをやり続ける
出版物に署名記事が入るのは2006年の春が初めてでしたが、webでの野球コンテンツの制作と発信は前年夏から始めていました。『All About』というキュレーションサイトの企画にて、阪神園芸で整備員のアルバイトをしながら甲子園現地レポートを書き、がむしゃらに書き続けた結果、優勝。「野球で食える」という大きな成功体験でした。
これまで私がやってきたことをざっと振り返ると、下記になります。
【野球アナリスト】
・キュレーションサイトのアマチュアライターコンテンストで「甲子園大会での整備員日記」を連載し優勝(2005年)
・野球専門誌でのライター活動(2006年~2009年)
・データ分析記事の執筆(2009~2019年)
・専門誌等の取材対応(2009~2018年)
・データ配信、取得の運用体制の仕組み化(2010~2011年)
・ゲームパラメータおよびコピー開発(2010~2012年)
・球団編成向けの分析レポーティング、システム開発監修(2011~2018年)
・R&Dプロジェクト立ち上げ、実験的webサイトのリニューアル(2012~2018年)
・TV番組の監修、出演(2012~2020年:30本程度)
・統計関連学会連合大会での研究発表(2012~2015年)
・TV、ラジオ、web配信の中継での解説(2014~2018年:約20試合)
・選手の総合評価指標の開発(2014年)
・セイバーメトリクス書籍企画、執筆(2014年)
・試合結果シミュレーターの開発、運用(2014~2018年)
・投球軌道のトラッキングデータの分析書籍の企画、執筆(2015年)
・VRを用いた野球体験システムの監修(2016~2017年)
・MLB春季キャンプでの最新技術活用状況のレポーティング(2018年)
【スポーツアナリティクスのエバンジェリスト】
・学生向けスポーツデータ分析コンテストの監修、運営、審査員(2011~2017年)
・各種カンファレンスでのスポーツデータ活用事例の講演(2013~2020年)
・スポーツアナリティクスカンファレンスの企画、運営、登壇(2014~2020年)
【ビッグデータ活用のディレクター】
・マッチングプラットフォームでのレコメンド施策の企画、データ分析、システム開発のディレクション(2018~2020年)
【イベントのプロジェクトマネージャー】
・スポーツを起点とした都市型フェス「HiVE」創り(2019~2020年)
※現在webカンファレンスを企画中
自分が直感的に興味を持ち、面白そうと感じたことに没頭し、プロトタイプを創り続ける。という人生です。
SXLPで「森」を捉える能力をつけたい

この図は自分が2019年度のSports X Leaders Program(SXLP)に入る際に提出した内容です。
ただ目の前の面白いことに飛びつき続けた一方で、近年は行き詰まりも感じ始めていました。一言でいうと「物事を俯瞰して捉える能力が圧倒的に足りていない」という焦りでした。
面白そうな個別事例に飛びつき、0から1まで創るのですが、その後の継続性がない。プロトタイプとしてはある程度評価されているはずなのに、本格的に展開されたり、事業開拓への展開がなされたりする影響力を持てない。まず、この課題に対して「システムデザインマネジメント」を学ぶことが役に立つのではないか?と考えました。
複雑な物事を複雑なまま捉える

これは最終発表の際に使ったスライドのひとつで、日本プロ野球創成期の「顧客価値連鎖分析」をしたものです。紺が事業の経営主体、赤が最終消費者を意味しています。
当時のチームの母体にはすべて新聞社と鉄道会社が絡んでおり、紺で示した「報道メディア(マスメディア)」と「オーナー企業」がほぼイコールであることがわかります。チーム自身は営利目的の事業体とはあまり捉えておらず、むしろ、そのことでスポーツの持つ気高さ、純粋さのブランドイメージを保とうとしています(これは、高校野球の甲子園大会を開催する構造にもほぼ当てはまります)。また、オーナー企業からある程度の独立を保ったリーグの統括機能は存在しません。

一方のメジャーリーグでは、1919年にブラックソックス事件という大きな八百長問題が発覚して以降、チームのオーナーに対しても罰則を与えることのできる「コミッショナー」に大きな権限を持たせるようになりました。また、チームのオーナーは日本のようなマスメディアや大企業は少なく、個人企業が多いため、必然的にチームそのものの収益性は求められています。
この後、TVと放映権、選手会とリーグの労使交渉、webでの映像配信などさまざまなターニングポイントを経て現在の姿がありますが、この構造の違いは、今なお、日本プロ野球とメジャーリーグの大きな差となっています。
どちらの形が良いかは一概には言えませんが、自分はプロスポーツが自立した存在として自らのありたい姿を自由に創造する主体であってほしいと願っており、リーグ運営母体に経営の主導権がある形が望ましいと考えています。
スポーツという文化には歴史があり、さまざまな価値を見いだすステークホルダーが存在します。自分は複雑な事象の一部分だけ切り取って、面白そうなところ、そしてできそうなところをプロトタイプ化していた傾向がありました。しかしSXLPを通して俯瞰する思考法を学ぶことで、ディテールばかりに気を取られることなく、複雑な物事の全体像を捉える癖がつき始めていると感じています。
なによりも、似た熱量を持つ仲間ができることが財産

思考法を学べること以上に、SXLPの最大の醍醐味は仲間との出会いです。参加する前は、ここまで深くお互いに自己開示をし、熱意を分かち合い、ともに切磋琢磨できる仲間と出会える場だとは思っていませんでした。
今年はコロナ禍で人と深くコミュニケーションを取る機会が制限されていますが、この仲間がいることで救われた部分も大きいです。10年後、20年後に向けて、スポーツの価値をともに変えていきたいと思う仲間との出会いが、SXLPの最大の財産だと考えています。
今後はSXLPの規模もさらに大きくなり、組織の運営自体が複雑で難しいものになっていくと思いますが、ここにはその状況を楽しみ、自らを変えていくメンバーがそろっています。
この熱量に共感し、主体的に行動する「スポーツ産業の中の人」を増やしていきたい。そして、世間の認識するスポーツの価値が変わっていくところを見続けていきたい。そんな思いが強いです。
多様なメンバーが発するメッセージのどこかに引っかかるものがあったならば、ぜひ、このSXLPの取り組みに足を突っ込んでいただきたいと思います。
(文:SXLP2期/金沢慧)
