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炎症とうつ病──気分が沈む「もうひとつの原因」

うつ病の原因といえば、長年「脳内のセロトニン不足」と説明されてきました。しかし近年、それとは異なる新たな視点が浮上しています。脳そのものではなく、体の中の「炎症」がうつ症状を引き起こすのではないか、そんな可能性が浮上しつつあります。

「炎症」でなぜ気分が落ち込むのか

風邪を引いた時のことを思い出してみてください。熱っぽく、身体が重く、気分までどんよりするのは、免疫がウイルスや細菌と戦うために「サイトカイン」という物質を大量に放出するからです。

このサイトカイン、実は炎症が慢性的に続くと普段から分泌されやすくなります。その代表が「IL-6(インターロイキン6)」という物質。これが多いと身体だけでなく脳にも炎症の信号が伝わり、気持ちが沈んだり、やる気が出なくなったりするのです。

「炎症によるうつ(うつ病/抑うつ/抑うつ状態)」の因果関係が証明されつつある

遺伝子を使った面白い調査があります。生まれつきIL-6を放出しやすい体質の人とうつ病の関係を調べたところ、IL-6が高い体質の人ほど、人生のどこかでうつ病を発症する確率が明らかに高いことがわかりました。一方で、うつ病になったことでIL-6が増える証拠はあまり得られませんでした。

つまり、「炎症がうつを引き起こす」という方向の因果関係が強く示されたのです。

炎症が高いタイプには「抗炎症薬」が効く?

炎症とうつが強く結びついているなら、炎症を抑える薬がうつ症状を改善できるかもしれない。その可能性を検証する研究も急速に進んでいます。

代表的な研究が、消炎鎮痛薬のセレコキシブを使った試験です。うつ病患者の血液検査をして、炎症反応(CRP)が高い人を選び、通常の抗うつ薬にセレコキシブを追加すると、炎症のない人に比べて明らかに症状が改善されました。

また、複数の研究結果をまとめた解析(メタアナリシス)でも、炎症を抑える薬を使うことで、気分の落ち込みが改善することが確認されています(抗炎症介入の付加効果はプラセボ比 SMD −0.57と中等度ではありました)。

ただし、炎症が低い人に使ってもあまり効果がないため、「炎症が強いうつ病患者」に特に有効だという結果でした。

脳の炎症(神経炎症/neuroinflammation)を止める最前線

さらに進んだ研究も始まっています。関節リウマチで使われる薬(JAK阻害薬トファシチニブ)をマウスの実験で使ったところ、脳内の炎症が抑えられ、脳の健康を保つ因子である「BDNF」が増加、うつ状態が改善することが分かりました。

まだ人間への実用化は遠いですが、炎症をターゲットにした治療がうつ病の新たなアプローチになる期待が高まっています。

「炎症性うつ」という新たな病名の誕生?

こうした研究成果を受け、「炎症性うつ病」という新たな病名を作り、診断や治療を明確に分ける動きも出ています。

課題は、どのように簡便な血液検査で患者を見分け、どこまで抗炎症薬を一般的な治療として認めるか。今まさに医療の現場で議論が行われています。

私たちが今できることは?

では、もしあなたが今、気分が沈みやすく、慢性的な疲れを感じているとしたら、どうしたらよいでしょう。

まず、自分の体内で炎症が起きていないかを血液検査で調べることです。慢性的にCRPやIL-6が高い場合や、痛みを伴う持病(関節炎や慢性疼痛など)がある場合には、主治医と相談して抗炎症薬の併用を検討する価値が十分にあります。

また、毎日の生活習慣──特に十分な睡眠、適度な運動、加工食品を避けるなど──は、身体の慢性的な炎症を抑えるのにとても効果的です。こうした日々のケアで、心にかかった靄が晴れるかもしれません。

あなたの落ち込んだ気分、その原因はもしかすると脳ではなく、体の中にあるのではないでしょうか?

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