ヴァイブラフォンのような人生。

楽器の個性と編曲の話をしましょう。なお、今回の主役はヴァイブラフォン、ビブラフォンと呼ばれることもありますね。


まず最初に、(歴史的に見て)ジャズの楽器編成は画期的なものだった。もともと西洋クラシック音楽の室内楽の楽器編成は、ヴァオリン2本に、ヴィオラとチェロである。これにクラリネットやピアノを招いたりもする。それに対して、ジャズはドラムス、コントラバス~エレクトリック・ベースを土台に、ピアノやサキソフォン、あるいはエレクトリック・ギターを加えることが多い。スウィングしなけりゃ意味ないですからね、クラシックでは日陰者のドラムとベース、はたまたサックスもギターもジャズではスターに躍り出る。


そんなジャズにおいても、かつてはヴァイオリンやクラリネットもひかえめに活躍したものだし、果てはハーモニカ、なかには明田川荘之さんのようにオカリナを導入した人さえいる。おもえば20世紀の前半はエレクトリック・ギターでさえも(ジャンゴ・ラインハルトのような例外もありつつも)おおむねバック・メンの楽器だったもので、花形のひとつに躍り出たのは20世紀後半のこと。


さて。興味深いのは、鉄琴の親分みたいなヴァイブラフォンの位置である。ヴァイブラフォンはジャズ・エイジと呼ばれもした1920年前後にアメリカで生まれた楽器です。ミルト・ジャクソンが在籍したモダン・ジャズ・クァルテット(MJQ)とゲイリー・バートンの印象が強すぎて、ぼくていどのジャズ・ファンは他の奏者をおもいだせない。にも関わらず、フランス映画のヌーヴェル・ヴァーグの時代には、いくらかヴァイヴラフォンの聴き覚えがあるし、イタリア映画のなかで聴いた記憶もあるような気がする。また、1990年代の渋谷系が流行らせたレトロなお洒落映画音楽のなかにもときおり登場したものだ。ヴァイブラフォンはジャズのなかでは、マイナー・メジャーな楽器という位置かしらん。


ヴァイブラフォンはこんな楽器です。二段に並べられた金属製の音板はピアノの鍵盤と同じ配列であり、3オクターヴを演奏することができる。ヴァイブラフォン奏者は、2本、ときには4本の、毛糸を巻きつけた玉を持つ棒(マレット)を両手に持って、メロディや和音を奏でる。並んだ音板の下には金属製の長短の音響管が並び、凝ったことに電動モーターでファンを廻し、速度を調節しつつ、共鳴管の蓋を開いたり閉じたりして残響の加減を操作する。また残響のカットは、右足で踏んだり離したりするペダルによってもなされる。


きのうぼくはアケタの店で、宮野裕司(アルト・サックスと曲によってフルート)、有明のぶ子(ヴァイブラフォン)、小太刀のばら(ピアノ)、増田涼一郎(ギター)のクァルテットを聴いた。編成にベースもドラムスもいないところがぼくの興味をそそる。演奏曲目はジェリー・マリガンやジム・ホール、ブラジルのピアニストの曲、増田涼一郎さんの曲などで構成された。仲のいいメンバーによるリラックスした(いっけん)コンサヴァティヴに見えかねない演奏ながら、ただし、サックス、ギター、ヴァイヴラフォンがユニゾンでジグザクに動く複雑に入り組んだメロディを揃って演奏するときなど、ぼくは息を飲んだ。しかも編曲が、けっして和音で埋めることなく、むしろ各楽器が平行して奏でるメロディ(線)が自由に交差する、風通しの良いもの。なお、ヴァイヴラフォン奏者の有明のぶ子さんは華やかなソロを演奏するのみならず、バックにまわったときに内声を添えたり、和音の装飾音をさりげなく演出したり、ソリストの奏でるメロディにオブリガートを加えたるするのが巧い。


他方、いささか割を喰った印象があるのはピアニストの小太刀のばらさんで、ヴァイブラフォンとピアノはこのクァルテットのなかで役割がかぶるので、彼女は華やかで才能ある作曲家=ピアニストであるにもかかわらず、あえていくらかサイドメンの役割についたようにも見えた。


演奏家の人生はどこか担当楽器に似てくるもの。そしてぼくは想像する、ヴァイブラフォンのような人生を。それはいったいどんな人生なのだろう?


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