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清少納言、ネットに出現。ネットは、をかし


 今の世には、身分もない人、官位もない人、名を明かさぬ人まで、日々思うことを書いて、世の人に見せる場所がある。

 たいそう不思議なことである。

 昔なら、紙を手に入れることさえ難しい者が、朝の空の色や、夫への腹立ち、猫の寝顔、食べた菓子のことまで書いている。しかも、それを遠い国の人が、たちまち読むという。

 これは、をかし。

 名高い人が書いたものより、名も知らぬ人の文章のほうが、はっと心に残ることがあるのも、をかし。病む親を世話する人が、夜中に湯を沸かしながら書いた短い言葉など、立派な学者の長い話より、よほど胸に迫る。

 昔は、身分の高い者の哀しみばかりが歌になった。今は、店で客に叱られた者も、子どもの弁当を作る者も、職を失った者も、自分の一日を書き残す。

 人とは、これほど多くのことを思いながら、黙って暮らしていたのかと驚く。

 されど、すべてがよいわけではない。

 朝起きた、珈琲を飲んだ、今日も頑張ろう、と毎日書く人。昨日も同じであったのに、今日もまた見せる。誰に頼まれたのであろう。

 「詳しくは言えないけれど、悲しいことがありました」とだけ書き、人から「大丈夫ですか」と尋ねられるのを待つ人。詳しく言えぬなら、初めから黙っていればよい。

 自分の美しさを見せたいのに、「髪を切りました」と言い、顔を大きく写す人。「こんな私でも」と言いながら、褒め言葉を百ほど待っている人。たいそう分かりやすい。

 また、他人の失敗を見つけるや、見知らぬ者が大勢集まり、正義の言葉を投げつけるのは、あさまし。宮中の女房たちの噂話でさえ、もう少し顔を隠してしたものである。

 とはいえ、私も人のことは言えない。

 腹の立つ男のこと、気の利かぬ者のこと、春の明け方の美しさなどを、好きなように書き散らしていた。それを千年後の人まで読んでいるというのだから、まことに恐ろしい。

 もし、この小さな板を与えられたなら、私はきっと、一日に何度も書くであろう。

そして、「ただ心に浮かんだことを書いただけです」と言いながら、誰が読んだかを、夜ごと確かめるに違いない。



ネットという所

SNSは、夜が良い。一日の務めを終えて、あるいは終えぬまま、布団にもぐりこんで開く画面。あの青白い光の中、まだ起きていたい気持ちと、もう眠らねばという思いとがせめぎ合う、ちょうどその境目の時間。指先だけが勝手にスクロールを続けているのは、なんとも言えず良いものである。

昼間のタイムラインは、どこか忙しない。人々が働きながら、片手間に世間話をしているような騒がしさがある。それに比べて、深夜のタイムラインには、妙な静けさと本音とが漂っている。誰も彼も、少し正直になる時刻なのかもしれない。

朝、目覚めてまず画面を確かめる人の、あの真剣な顔つきといったら。昨夜のうちに何が起きていたかを、戦の後の物見のように確かめているのだ。

にくきもの

既読の印はついているのに、返事の来ないこと。日が暮れ、夜も更けて、それでもまだ来ない時。

自分の投稿には見て見ぬふりをしながら、他人の投稿にはこまめに「いいね」をつけている人。見ていないはずがあろうか。

軽い冗談のつもりで書いた一言が、見知らぬ大勢に取り囲まれ、責め立てられること。今の人はこれを「炎上」と呼ぶそうだが、まさに家に火がついたような騒ぎになる様は、実に恐ろしい。

今まさに面白いところを見ている動画に、突然割り込んでくる広告。しかも一度見た広告が、何度も何度も現れる。話の腰を折られるようで、心底うんざりする。

誰かとの内緒のやり取りを、断りもなく方々に見せて回る人。文というものは、書いた本人と受け取った本人だけのものと思うのだが、今の世はそうでもないらしい。

うつくしきもの

小さな生き物の動画。子猫が箱に入ろうとして入れず、それでも諦めず、何度も体を押し込もうとしている様子。

言葉を覚えたての幼な子が、たどたどしく何かを話している声。

年老いた犬が、飼い主の帰りに気づいて、ゆっくりと尻尾を振る、その様子。

心ときめきするもの

深夜、思いがけず、同じ趣味を持つ者だけが集まっている、小さな片隅のような場所を見つけた時。そこでは誰も声を荒げず、ただ好きなものについて静かに語り合っている。

自分と同じことを考えている人が、この世のどこかに確かにいると知った瞬間。会ったことも、名を知ることもない相手であるのに、なぜか心が近づいたような気がする。

「いいね」の数が、一つ、また一つと増えていくのを眺めるひととき。誰が押したのだろうと想像を巡らせるのは、まことに愛らしい。

好きな相手の投稿に通知が灯る、その瞬間。何をおいても真っ先に開いてしまう、あの慌てぶりよ。

すさまじきもの

丹精込めて書いた長文に、誰からも何の反応もないこと。

自慢げに投稿したのに、思っていたよりずっと少ない「いいね」しかつかぬ時。

「入力中」の表示が現れては消え、消えては現れ、結局のところ何の返事も来ないこと。

何十枚も撮り直して、ようやく一枚を選んで載せたというのに、次の日にはもう誰もそのことを覚えていない。

書き添えて

思うに、昔は文を一つ送るにも、墨を磨り、紙を選び、届くまでに幾日もかかったものを。今は指先ひとつで、瞬く間に千里の彼方まで届くという。まことに便利になったものだ。ただ、心の通う速さまでもが、本当にそれほど速くなったかどうかは、また別のことのように思われる。

深夜、画面の光だけを頼りに文字を打っている、名も知らぬ誰かの指先を思う。迷うように、急ぐように動くその指先を思い描いていると、ふと、笑みがこぼれる。

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