海のない街の波音 [第13話]
第13話 山本ミチの証言
六月の雨は、降る気なのかやめる気なのか、相変わらずはっきりしなかった。
「いい? 刑事さん。」
山本ミチは、ラケットを杖のように持ち替えた。
「まず、真知さんが消えた。次に旦那さんが消えた。そして葵くんも消えた。」
ミチはコートの向こうを見た。
「これはね、三角関係……ではないわね。」
刑事が顔を上げる。
「違うんですか」
「違うわよ。三角関係なら、もっとLINEが動くもの!」
ミチはきっぱり言った。
「でも真知さんは携帯が止まってたのよ。つまり連絡網が死んでる。ここが第一の謎ね」
刑事は黙ってメモを取る。
「第二の謎。旦那さん。」
ミチは声を潜めた。
「あの人、女相手に強打する男よ。つまり器の小さい男なの。小さい男ほど、大きな事件を起こすのよ!」
「根拠は?」
「七十六年生きてる勘よ!」
刑事はペンを止めた。
「第三の謎。葵くん。」
ミチは反対側のコートを見た。
「いい男はね、消える時もきれいに消えるの。」
「それは推理ですか?」
「観察よ!」
ミチは胸を張った。
「葵くんについては塩見さんに聞くといいわ。何度も飲みに行ってるもの。男はね、お酒が入ると、自分の弱いところを、ちょっとだけ見せるのよ。」
刑事がうなずく。
「では塩見さんという方に、、、。」
「待ちなさい。」
ミチはラケットで刑事の前を制した。
「この事件の鍵は、ボールよ。」
「ボール?」
「真知さんはね、いつもボールを拾っていた。散らかったものを、そのままにできない人なの。」
雨が少し強くなる。
ミチは転がってきたボールを一つ拾い上げた。
「片づけに行ったのよ。」
刑事のペンが止まる。
ミチはボールをボールかごへ放り込む。
「見つかったら伝えて」
「何をですか?」
「ボール拾いは私がやっとくから、もう自分のことを優先しなさいって。」
刑事は静かに手帳を閉じた。
「伝えておきます。」
雨のコートに、
一球だけ黄色いボールが残っていた。
