手のひらで、宇宙をひとかき
朝、玄関を出た。
空気が頬に触れた。冷たくも暖かくもない、ただ4月のフツーの気温だった。
畑の方から、煙が漂ってきた。
焚火だと、すぐわかった。今どき、ご法度のやつだ。
でも、とがめる気にはなれなかった。
その香りに、三十年以上前の朝に連れ戻された。
枯れ葉が燃える匂い。白い煙が空へ溶けていく、あの静かな風景。
心が、自然と穏やかになっていた。あの頃は。
気がつくと、手で煙を払っていた。
煙がねじれた。
その瞬間、空気そのものがねじれるような感覚になった。
ゆっくりと、目線を上に向ける。
空が、青かった。
説明のいらないスッキリした青さだった。
その奥を、なんとなく想像した。
大気圏の向こう。昼なのに真っ暗な宇宙。
誰にも届かない、静かな場所。
もしかして今、わたしは宇宙をかき混ぜていたのだろうか。
わたしの手の一払いが、どこまでも伝わっているとしたら。
懐かしさに浸るでもなく、どこかへ急ぐでもなく。
たった一払いが、宇宙の果てまで届いているかもしれない朝。
あなたも今日、何かをかき混ぜましたか?
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