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東京の牧場--とてもおいしいジェラート屋

東京にも、牧場がある。
その事実だけで、少し呼吸がゆるむ。
東京という名前から、私たちはつい、速さのほうを思い浮かべてしまう。
けれど東京の西、瑞穂町には、別の時間が流れていた。

人口3万2000人ほど。
新宿から電車でおよそ1時間。
西多摩エリアにある、静かな町だ。

連休の合間、東京の牧場に行ってみようと妻と話した。
東京イコール「大都会」とは無縁の「牧場」に以前から行ってみたかった。

大型店舗が並ぶ道を少し外れる。
それだけで、景色の音量が下がる。
住宅道路を車で進むと、のぼり旗が風になびいていた。
その前に、シルバー人材センターのおじさんが「満車」の看板を持って立っている。

ああ、遅かったか。
そう思った。

すると、その看板がくるっと回った。
入れますよ、という合図だった。

駐車場は1台だけ空いていた。
たったそれだけなのに、幸運をつかんだようで、少しうれしい。
休日の気分というのは、案外そういうことで決まるのかもしれない。

牧場がやっているジェラート屋には、30分待ちの列ができていた。
長い列なのに、ぴりぴりしていない。
1歳、2歳くらいの子どもを連れた家族が多くて、
その隣には、おじいちゃん、おばあちゃんがいる。
三世代で並ぶ列は、見ているだけで心が緩む。

この写真は、ちびっ子を連れた家族の顔が写ってしまったので、お客さんを削除しました。その結果、閑散とした写真になりました。実際は私のところまでビッシリ行列ができていました。

私の前にいた2歳くらいの男の子が、こちらを向いて、太ももをぺちんと叩いた。
お母さんが、すぐに「すみません」と言う。
でも、なんだか笑顔になった。
小さな子どもは、ときどき人と人のあいだにある薄い壁を、簡単に越えてくる。

若いカップルもいた。
小中学生くらいの女の子たちもいた。
外で顔を向き合わせてアイスを食べている人。
喫茶コーナーでアイスの批評している感じで座っている人。
みんなそれぞれなのに、どこか同じ顔をしていた。
少しだけ、おいしさにビックリした顔だ。

やっと店内に入っても、まだ混んでいた。
注文してから受け取るまでにも時間がかかる。

妻が受け取ってきてくれて、喫茶コーナーで食べた。
でも、まわりには立って待っている人がたくさんいた。
まわりが気になって、気づいたら食べ終わっていた。
写真も撮り忘れた。

最近は、何かあると、すぐ写真を撮る。
残しておきたいからだ。
でも、本当に感動したときほど、撮ることを忘れるのかもしれない。

ジェラートは、おいしかった。

カップにのった三角形の山。
甘すぎない。
固すぎない。
やわらかすぎない。
口に入れると、まろやかで、冷たさだけが先に立たない。
牛乳の気配がやさしく残って、体にすっと入っていく。
食べたあとに、口の中の爽やかさと静かな満足が残った。

こういうおいしさは、初めてだった。
舌を驚かせるというより、気持ちを落ち着かせる味だった。

食べ終わってから、ヤギのいるコーナーへ行った。
子どもたちがはしゃいでいる。
高い笑い声が風にまざる。
その声は大人が抱えていた小さな緊張をほぐしてくれるようだった。

思えば、私たちはいつも、何か大きな出来事で元気になろうとしている。
旅行とか、買い物とか、わかりやすいごほうびとか。
もちろんそれもいい。
でも、人の心をほんとうに休ませるのは、もっと小さなものなのかもしれない。

1台だけ空いていた駐車場。
見知らぬ子に叩かれた太もも。
写真を撮り忘れるくらい急いで食べたアイス。
子どもたちの声。
そういう断片が、帰り道になってじわじわ効いてくる。

幸福は、特別な一日という顔をして来ない。
たいていは、少し風が吹いて、少し運がよくて、
隣に誰かがいて、口の中に冷たいものがすっと溶ける。
そのくらいの姿でやってくる。

家に帰ってからも妻と牧場の話で盛り上がった。

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こちらに清水牧場の紹介があります。


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