高知文学学校での講義「今期の直木賞について話そう」2024/9
過去自分が文学学校で行った講義のレジュメです。
この時は初めての講義で、もう一人の方と二人で行いました。時間の関係で6作の中から2作ずつ選び、資料も担当作も分け、私はロマンスとさざなみドライブについて話しました。
第171回直木賞受賞作品 ツミデミック 2024/9/18資料
作者 一穂ミチ氏
1978年大阪府生まれ 関西大学卒 46歳 兼業作家 覆面作家
2007年「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー 以降ボーイズラブ作品を中心に作品を発表
2022年 初の一般文芸作品『スモールワールズ』が吉川英治文学新人賞を受賞『スモールワールズ』で165回直木賞候補『光のとこにいてね』で168回直木賞候補 直木賞候補3度目で受賞
『ツミデミック』について
題名 パンデミックと罪をかけあわせた造語
感染症の世界的な流行の中で起こり得る犯罪をモチーフに、それに翻弄される人々を描いた6つの物語が収められている。
パンデミックとは……感染症の世界的大流行
選評 (オール読物9・10月号より抜粋)
☆京極夏彦氏
表題はパンデミックに翻弄される日常とそこから生まれる罪をあらわしているのだろうが、必ずしも感染爆発に依拠しなければ成立しない物語ではない。安定した筆致は評価に値する。
☆角田光代氏
犯罪をテーマにした短編集で、どの小説も見事に技巧がこらされていて、どれも色合いが異なり、なおかつ現実味を失っていない。
☆宮部みゆき氏
直木賞の歴史に新型コロナウイルスを記録することができました。パンデミックによって「変わってしまった」「失われてしまった」「歪んでしまった」日常を描いた六つの短編を集めた本書を読む多くの方々は、登場人物たち誰かの物語の上にそれぞれご自身の体験を重ね、またそれぞれの「消化」や「昇華」のけりをつけた上で、今後も記憶し続けることでしょう。
☆三浦しおん氏
一穂氏の小説はうますぎるがゆえに、よさを言葉で説明するのが難しく、ただ感じ、味わうほかないのだが、登場人物になりきり、自分とは全く異なる人の日常を生きたかのような、圧倒的な没入感を私は覚えた。
☆浅田次郎氏
思わず膝を打つ短編集であった。文章はよく
研がれて余分がない。視点者の内面を文学的に書いているのはこれだけと言ってもよかろう。つまり、小説らしい小説であった。
☆林真理子氏
コロナ禍が所々にもちいられているがその加減の良さが作者の技量を示している。
☆高村薫氏
コロナ禍を背景にしながら、念入りに作り上げられた技巧的な短編集。
☆桐野夏生氏
コロナ禍中にあったことを中心に書かれた短編集なので、この物語は特別な状況の証左でもある。全体的に薄い味付けである分、この作者のさらりとしつつもこくのある旨味がよく出ている。
〇個別に評価
「燐光」 唐突な幽霊話で全体の香期をおとしているようで残念 林真理子氏
「特別縁故者」 秀逸 桐野夏生氏
「祝福の歌」 盛り込み過ぎでは……と思いかけたものの~ 角田光代氏
〇ツミデミック作成過程
「小説宝石」各号の特集をお題として一作ずつ書いていった。コロナ禍を統一テーマにすることも三篇目から意識しはじめた。
題名 特集名
一話目 「違う羽の鳥」 〈繁華街エレジー〉 2021年11月号
二話目 「ロマンス☆」 〈「出会う」物語〉
三話目 「燐光」 〈帰郷〉
四話目 「特別縁故者」 〈お金と人〉
五話目 「祝福と私」 〈隣人と私〉
六話目 「さざなみドライブ」テーマなし、自由に
☠特別縁故者
●あらすじ
息子がある日聖徳太子の一万円札を近所の老人からもらってきた。その老人の家に入りこみあわよくば特別縁故者になろうと願う。ある晩その家の前に不審な車が停まり……。
●時期 コロナ最盛期後3年 12月~1月
●登場人物 卜部恭一(うらべ)無職 割烹店解雇後職を転々
朋子 コールセンターとコンビニ掛け持ちで家計を支え
隼 小1
佐竹 75歳 謎の老人
実は「なごみ亭」和食ファミレスチェーン前社長
●コロナによる影響
恭一 職を失う。料理人として働こうとするがコロナで切られる。
朋子 生活苦から借金。 20万が120万に膨れ上がる。
恭一の問題と罪 佐竹のたんす貯金をこっそり覗く。
自分の人生がうまくいかないことを他人のせいにする。
●描かれている犯罪
半グレが佐竹を襲い金を奪おうとする/佐竹の家政婦が半グレに情報を流す(家政婦も生活苦から?)
●〈現代用語と若者言葉〉
スマホ/インストール/漫画アプリ/麻雀アプリ/イージーモード/ツイッター/タイムラン/アカウント/ライフハック/バズり狙い/ツイート/ニュースサイト/スクロール/充電ケーブル/ヤクルト1000/LINE通知/プラス怒りマーク/ガチギレ/使ってナンボ/ヒモ状態/メルカリ/スマホ決済/追い一万円/デリバリー/ハッピーセット/家庭内ニート/チクる/マジで/アイコン/タップ/コルセン/アマプラ/SPY×FAMILY/借りパク/PCR検査/半グレ/キャッシング
☠ロマンス☆
●あらすじ
イケメンデリバリーの配達員を偶然目にした百合は、毎日注文を繰り返しエスカレートしていく。やがて思いもかけない出来事が……。
●時期 パンデミック少し過ぎ?
●登場人物 雄大 美容師
百合 専業主婦 英文事務職 出産で退職
さゆみ 4歳 幼稚園
ミーツデリ 謎のイケメン配達員 / Takuya
隣人 耕平君ママ(大石さん) / 息子 耕平君 小4
●流れ
不満➡他のもので転用➡自己正当化➡犯罪を犯す
①不満
●ずっと前からくすぶっていた不満 仕事とお金のこと
〇娘を保育園に預けて仕事続けたかった。
子どもが小さいうち家にいてほしいと言われ仕事をやめた。
それなのに働けとせっつく。
〇子育て丸投げ
〇マンションの頭金700万自分が出したのに細かい支出で怒る。
●細かい不満
約束事を守らない
〇食卓ではスマホをいじらない→破る
〇食事中はテレビ禁止→破る
やさしくない言動
「楽だよな、主婦って」「手抜きが癖になったら困るからな」
疲れてるから/大変だから/接客業だから 我慢していた
②転用
イケメンの配達員に会いたい デリバリーにハマる/ガチャに勝利したい/ガチャを引き当てたらやめようと思う。イケメンが来るまでは終われない。
③自己正当化
デリバリー利用 食べ物買って喜んでるから良いこと
睡眠導入剤を使い娘を眠らす 眠りが浅いから薬に助けてもらう 良いこと
④犯罪を犯す
テーマ 罪を犯す前に罪の萌芽がある
蓄積された不満が一線を越える瞬間/パンデミックに出遭わなかったらこうはならなかったかも
パンデミックによってあぶりだされた百合のマイナス要因
夫に対する不満/何かにハマりやすい性質/孤独(ママ友できない)/義母への不満➡爆発
?謎 イケメン配達員は実在したのか?
〈現代用語と若者言葉〉
ハーネス/リアルで/キレる/パンデミック/やばくない/ステイホーム下/フードデリバリーサービス/ゲリラ的な/マウント取る/ライフプラン/LINEブロック/ピリつく/リプレイ/イケメン/マジ/食いつき/ハードルあげる/アプリ/回し者/アプリストア/検索バー/ケンタッキーフライドチキン/ケンタ/ベタな/アイコン/ガチャ/ソシャゲ/ハマる/課金/星5/レアキャラ/ゲット/ログインボーナス/CGブルーライト/スワイプ/濃厚接触者/ダイエットサプリ/ルーティン/LINE ID/レビュー/ウェブ明細/逆切れ/丸投げ/バグ/完無視/アプデ/キモい
☠さざなみドライブ
●あらすじ
一緒に死にませんかというネットでの呼びかけに応じで集まった5名。死に場所に向かう。道中各々の死にたい動機を語る。到着するとそこには先客が。気分をそがれ今回中止と決まるが恐ろしい企みが……。
●時期 コロナ最盛期3年後
●出会った場所 ネット空間(ツイッター)
●登場人物 自殺志願者5名
●死にたい仲間の条件 パンデミックに人生を壊された人
●望み パンデミックの悲劇としてSNSで拡散されること
●性別 アカウント名 実名 職業 死にたい理由(本当? 嘘?)
男 動物園の冬 毛利 ? 全財産を失くす/妻がおかし
幹事66歳 なセミナーにはまり借金離婚
男 あずき金時 遠藤三雄 俳優 緊急事態宣言中の宴席
中年男 が炎上/仕事干される
女 マリーゴールド ? 看護師 感染者と接触していると
病原菌扱い/怒り→無気力
20代後半に見える
女 毛糸モス ? 中一 醜形恐怖/マスクを外す
若い少女 12歳 のが耐えられない
男 ★キュウリ大嫌い ? 売れない作家 パンデミックを自分がお
語り手 こした責任をとる/自分の
人生に耐えられなくなった
●動物園の冬 デマの罪 極端な考えを流布する コロナに付随するデマ/悪徳商法 妻が反ワクチン派の主張にかぶれる。電波/水/波動/食物→金銭の搾取
一見して詐欺に見えない詐欺。納得して金を払っているため立件不可能。
何が正しいか間違っているかわからなくなる。惑わされる。
●あずき金時 顔が見えない不特定多数による罪
大衆のバッシング/魔女狩りじみた糾弾/イカれた正義感/ノリで叩いただけバッシングには加担していないがじくじくした罪悪感で胃が痛む。いじめを見て見ぬふりする人間も同罪だっけ?〈キュウリ大嫌いさん〉
●マリーゴールド 自分さえよければの罪
マスク薬局の前に行列/高額転売が横行
エッセンシャルワーカーに対する偏見→自分がうつされたくない
●毛糸モス パンデミックを良かったと思う罪
リモートで人と会わなくて済むのが嬉しい、
ずっとこうならいいと思ったのが終わって絶望
●キュウリ大嫌い 他者に責任を転嫁する罪
小説の中で現実が上手くいかない憂さをはらす。自分の人生が上手くいかな いことの攻撃性を他者や社会に向ける。空想の世界の中でだが内心の罪。
物語最後のオチ 法的に罪に問われる犯罪者。悪意のある人間の罪。罪の自覚のない人の怖さ。
テーマ 社会における不特定多数の罪/忘れるということの罪
罪とは何か?
罪 規範や倫理に反する行為をさす(法律/宗教/日本史用語あり)法律用語→犯罪、宗教用語→天つ罪(神道)三業(仏教)原罪(キリスト教) ウイキペディア参照
参考 「罪の文化」と「恥の文化」
アメリカの文化人類学者ルースベネディクトが『菊と刀』の中で提唱した文化類型。人間の行動を決定する基準が絶対的な基準か相対的な基準かという点。「罪の文化」は欧米文化を指しキリスト教の影響で神の戒律を守らないと罪の意識を持ち、道徳は絶対的な標準とされている。個々人が良心による内面的な罪の自覚に基づいて行動を律する。「恥の文化」は日本文化を指し、他者の非難や嘲笑を恐れて自らの行動を律する。他人の目という相対的な基準で行動を決定しており、露見しなければ恥ではなく思い煩うことはない。
忘却は罪ではないか?
ウイルスそのものにではなくパンデミックとそれを取り巻く社会によって魂を殺された人の描写
パンデミックが落ち着いて社会が元通りになっても残る傷
傷ついた人々
〇人間性の地金があらわになって誰も信じられなくなった 244p
〇今後出会うすべての人を疑ってかかると思うときつい 245p
〇世界って一皮剥けたらこんなに醜悪なのかって、とても見てらんない 245p
パンデミックに陥ったことにより現れる人間の本性と罪性。
〈現代用語&若者言葉〉
ツイッター/アカウント名/個別DM/ドタキャン/鬼好き/タグ/構ってちゃん/ネットニュース/フラストレーション/バッシング/ハッシュタグ/#/魔女狩り/コンプこじらせ/イカれた/アンケ/圧感じる/粘着される/子ども部屋おじさん/ニューノーマル/ワクチン/mRNA/クラスター/ヤフコメ/なる早/バタフライピー/デートレイプドラッグ/ありとかなしとか/ノリ/SNS
☆彡忘却しないために
パンデミック社会的影響のふりかえり
コロナに自分がかかる恐怖/死の恐怖/偏見/差別/村八分/生活苦/経済的不安etc.
