動画の有効性ってなんだっけ?
動画の仕事に関わっていると、必ずどこかで見かける数字がある。
「1分の動画は、Webページ約3,600ページ分の情報量に相当する」。提案資料でもよく使われるし、動画制作会社のサイトを開けば、ほぼ必ずと言っていいほど載っている。しかも出典がちゃんと添えてあることが多い。アメリカの調査会社Forrester Researchの、James L. McQuivey博士が2014年4月に発表した研究——と。
私もずっと、そういうものだと思っていた。きちんとした研究機関の、博士の、研究結果。動画の力を裏づける手堅いデータだと。
ところが、出典をたどってみたら、話が合わなくなった。
2014年4月の研究は、見つからない
McQuivey博士のレポート自体は実在する。『How Video Will Take Over The World』というタイトルで、Forresterから出ている。ただ、発表されたのは2014年4月ではない。2008年6月だ。6年もずれている。
「2014年4月」という日付を一次資料の側に探しても、出てこない。それなのに、日本語のサイトを見ると判で押したように「2014年4月」と書いてある。たぶん、どこかの一社が書いた日付が、コピペで伝言ゲームのように広がって、そのまま定着してしまったのだと思う。
数字の中身も、調べてみると思っていたものと違った。180万語というのは、実験で測った値ではない。「写真1枚は1000語に相当する」という古い言い回しに、「動画は1秒あたり約30フレーム」を掛けて、さらに60秒を掛ける。1000×30×60で180万。それだけの、いわば言葉のあやだ。McQuivey博士自身も比喩として使っている。
動画推しの数字は、意外と足元が弱い
気になって、ほかの定番も当たってみた。
「脳に届く情報の90%は視覚」。これも出所がはっきりしない。元をたどると1996年の教育書に数字だけ書かれていて、根拠の研究は示されていない。「脳は視覚情報を文字より6万倍速く処理する」に至っては、1982年の雑誌の広告記事が初出で、こちらも裏づけの論文は存在しない。
動画を推すときに使われる景気のいい数字は、並べてみると、意外なほど足元が弱い。
それでも、動画はちゃんと効く
ここまで書くと、動画なんて大したことないのか、という話に聞こえるかもしれない。でも、私が言いたいのはむしろ逆だ。
怪しい数字に頼らなくても、動画の強さを説明する、地に足のついた研究はちゃんとある。
ひとつが、心理学者ペイビオの「二重符号化理論」だ。人は言葉と映像を別々の経路で処理していて、両方を使うと記憶に残りやすい、という考え方。もうひとつが、リチャード・メイヤーの「マルチメディア学習」の研究で、こちらは100を超える実験を積み重ねている。文字と図、音声と映像をうまく組み合わせると、学習の効果が上がる、と示している。
面白いのは、そのメイヤーが「話す人の顔をただ映しただけの動画」はかえって効果が薄い、とも言っていることだ。動画ならなんでも強いわけではない。言葉と映像が、ちゃんと噛み合っているときに効く。
数字より、確かめる癖
動画の力を信じる気持ちは、私にもある。テキストとは伝わり方が違うという手応えも、現場で感じてきた。
ただ、その力を語るのに、出典も日付も怪しい数字を借りてくる必要はないと思う。むしろ、いちばん貼られている数字の出所を一度たどってみるだけで、動画の話はずいぶん誠実になる。
あなたがいつも資料に貼っているあの数字、発表年は合っているだろうか。
