やっぱり三谷幸喜さんが好き
どうも、まろん亭奏字と申します。
今回もお付き合いいただければと思います。
さて、三谷幸喜という脚本家の方がいらっしゃいます。
一時期、私にとっては「神様」のような方でした。
ただ、ある時期からちょっと三谷さんの作品から心が離れていた時期がありました。
今回はその三谷幸喜さんの映像作品を時系列順にお話させていただき、なぜ彼の作品に魅せられ、なぜ心が離れていったのか考えてみたいと思います。
「振り返れば奴がいる」(1993年)
私が三谷さんの名前を最初に知ったドラマでした。
主演は織田裕二さんと石黒賢さん。
織田さん演じる司馬という医師と、考え方がまったく違う石黒さん演じる石川先生が都内の総合病院で激しいバトルを繰り広げるという医療ドラマです。
とにかく司馬先生演じる織田さんがほとんど笑いません。
傲慢で、金のためになんでもやり、患者やその家族の気持ちなんて無視するというダークヒーローです。
たまに笑ったかと思ったら、たいていライバルの石川先生を出し抜いてやった時とか、大金を手に入れた時くらいです。
でも、黒いロングコートと黒いハイネックのニット、それに黒いパンツという全身黒尽くめでキメた司馬先生がかっこいいんですわ。
それにしてもムチャクチャなドラマでした。
手術中、司馬先生がメスで石川先生の手を切るなんて衝撃的なシーンもありましたね。
「ブラックペアン」もなかなかムチャクチャでしたが、このドラマに比べたら可愛いものです。
とにかく雰囲気がカッコいいドラマでした。
ザ・フジテレビという感じですね。
あと、ケースワーカーを演じている佐藤B作さんが病院の屋上で、サックスだかトランペットだかを吹くシーンがあって、そのシーンがやけに印象に残っています。
この時だけ、ちらっと司馬先生の人間らしさが垣間見れるんですよね。
このドラマで私は三谷幸喜という人の存在を知り、「この人、すげえ」と衝撃を受けました。
「警部補・古畑任三郎」(1994年)
ご存知、田村正和さんがちょっと変わり者の刑事を演じているミステリードラマです。
当時、「刑事コロンボ」を知らなかった私は、犯人が最初からわかっていて、刑事がどうやって犯行を起こしたか推理して犯人を追い詰めるという構成に驚きました。
毎回、犯人役として多彩なゲストが登場することでも有名ですね。
一番印象に残っているのは、古畑の同級生を演じていた津川雅彦さんですね。
SMAPがSMAP自身を演じているスペシャルドラマもストーリーはともかく印象的でした。
今見ると、ちょっと複雑な気持ちになりますが。
「王様のレストラン」(1995年)
舞台は小さなフレンチレストラン。父親が亡くなり、腹違いの兄と店を切り盛りしていくことになった元サラリーマンの素人オーナーを筒井道隆さんが演じてらっしゃいます。
兄の範朝(のりとも)役は西村まさ彦さん。傲慢だけど気が小さく、セコくてでも憎めない支配人という、西村さんお得意の役どころ。
そして、そのレストランの救世主として現われる伝説のギャルソンが松本白鴎さん。当時は「松本幸四郎」というお名前でした。
その立ち振る舞いはまさに腕利きのギャルソン。
でも、仕事を離れるとちょっとお茶目で不器用なところも見せるチャーミングな役どころでした。
ヒロインは山口智子さん演じるシェフと、鈴木京香さん演じるバーテンダー。
山口さんはかっこよかったですね。
鈴木さんは支配人の愛人で、オーナーにも好意を寄せられています。
この政子と山口さん演じるしずかは性格が真逆なため、ライバル関係なんですが、この2人の間に少し友情が芽生える第5話「奇跡の夜」が一番好きな回ですね。
他にも、小野武彦さん演じる給仕長とか、白井晃さん演じるソムリエとか、欠点もあるけど魅力的な登場人物だらけのこのドラマ。
レストランの店内だけしか描かれないのもそうですが、各話で1人1人にスポットがあたるのも演劇的です。
松本さん演じる千石にボロクソに言われるパティシエ(演じているのは、同じくサンシャインボーイズ出身の梶原善さん)が奮起する回とか、小野さん演じる給仕長が奥さんに「支配人をやっている」とウソをついたせいでみんなが振り回される回とか。
40歳の若さで亡くなってしまった伊藤俊人さんもギャルソン役で出演されています。
三谷さんは何かのエッセイで、舞台上演中、出演者の1人が舞台から落ちてしまったのを伊藤さんの機転で切り抜けたという話を書いていて、それがずっと印象に残っています。
「ラヂオの時間」(1997年)
三谷さんの映画初監督作品。
ラジオドラマの制作現場が舞台になっている話で、大勢のキャラクターがわちゃわちゃしながら次々と起こる問題をなんとか切り抜けるという三谷さんお得意のパターンです。
とにかくゲストが豪華。
この頃の三谷さんの「勢い」を感じますね。
コンクールで受賞し、主婦から突然、脚本家に転進した女性を鈴木京香さんが演じているのですが、周囲の「思惑」に振り回される彼女を見ていると、クリエイティブな現場あるあるのオンパレードで笑いつつ共感してしまいます。
ちょい役だけどトラック運転手を演じている渡辺謙さんが印象的。
あと、布施明さん演じるラジオ局の編成部長がいいですね。
「合言葉は勇気」(2000年)
三谷作品の中ではマイナーなほうだと思いますが、役所広司さん、香取慎吾さん主演のこのドラマも大好きで、シナリオ集も持っています。
舞台は山梨県にあるという設定の架空の村。
違法な廃棄物処理場の建設を止めるため、香取さん演じる役場の職員が、役所さん演じる売れない俳優を弁護士に仕立てて村を救おうとする話です。
江戸時代、「南総里見八犬伝」という小説がキャラクターのモチーフになっていて、24年後、役所さんがその「八犬伝」の作者、曲亭馬琴を「八犬伝」という映画で演じられているというのが面白い縁ですね。
この作品でも魅力的な登場人物がたくさん出ていて、元オリンピック選手で村の出身者でありながら、敵側のキーパーソンを演じている國村隼さんとか、敵側の弁護士を演じている津川雅彦さんが印象に残っています。
「新選組!」(2004年)
私の好きな新選組を、私の好きな三谷さんが書かれている大河ドラマということで、毎週楽しみに視ていました。
主役の近藤勇(新選組局長)を演じていたのが香取慎吾さん。
今まで近藤局長といえば、コワモテの俳優さんが演じられることが多かったのですが、このドラマでは明るくて若々しい近藤を香取さんが爽やかに演じてらっしゃいます。
そして、私の推し隊士、土方歳三は山本耕史さん。
最初はちょっとピンと来なかったんですが、真面目で神経質そうなところがなかなかのトシ感でした。
のちに土方を主人公にしたスペシャルドラマ「新選組!! 土方歳三 最後の一日」も制作され、これもなかなかいいドラマでした。
「THE有頂天ホテル」(2006年)
三谷さん、3作目の映画監督作品。
この作品からちょっと三谷作品の見方が変わってきました。
舞台は大晦日のホテル。
さまざまなトラブルが起こる中、役所広司さん演じる副支配人が奮闘するという話です。
伊藤四郎さんをはじめ、西田敏行さん、オダギリ・ジョーさんなど、豪華な俳優さんがたくさん出演されています。
物語自体は「王様のレストラン」同様、三谷さんお得意の閉鎖された空間でのドタバタ劇で面白かったんですが、キャラクターの描き方が「ちょっと嫌だな」と感じたんですね。
それを一番感じたのが、原田美枝子さん演じる元妻に、副支配人の新堂が見栄を張ってウソをつくんですが、それを元妻が見破るというシーン。
同じパターンを「王様のレストラン」で、小野武彦さん演じるギャルソンが妻と子に「俺は支配人なんだ」とウソをつくというシチュエーションでやっているんですが、「王様~」に比べるとなんか嫌な感じに描かれているんです。
そういうドギツさは今までの三谷作品でも描かれていたんで、もしかしたら、自分の気持ちの問題なのかもしれません。
でも、当時はそれが三谷さんの性格の悪さというか、底意地が悪いところが顕れているように思えて、この作品以降、だんだん三谷作品から心が離れていきました。
「ザ・マジックアワー」(2008年)、「ステキな金縛り」(2011年)も映画館で観ていますが、どちらもノれませんでした。
「清須会議」(2013年)
自分の中で「三谷離れ」が進む中、少し持ち直したのが、織田信長の遺臣である柴田勝家と羽柴秀吉の権力争いを描いたこの映画です。
ここでも役所広司さん演じる勝家がひどい扱いを受け、その描き方に三谷さんの悪意を感じてモヤモヤはしたんですが、今までの監督作品の中で初めて「映画っぽい」と印象に残っています。
考えてみると、「有頂天~」もこの映画も主演は役所さん。
「合言葉~」でも役所さんは出演されていましたが、あちらはメインが香取さんなので、もしかしたら、三谷さんが描く役所さんのキャラクターに自分が合わないだけかもしれません。
役所さんは上手い役者さんですからね。
三谷さんが描く人間のいやらしさや情けなさをあまりにもリアルに演じすぎて、そこに拒否反応を起こしていたという可能性はあります。
そして、次の監督作品、「ギャラクシー街道」で完全に私の心は三谷作品から離れていってしまいました。
「記憶にございません!」(2019年)
三谷作品から心が離れていた私を再び引き戻してくれたのが、この映画です。
主演は中井貴一さん。
記憶をなくした総理大臣を演じてらっしゃいます。
三谷さんらしい皮肉や人間臭さを残しつつも、鼻につく毒っぽさは緩和され、「やさしい眼差し」を感じました。
そこにはお子さまも生まれ、親となった三谷さんの心境変化もあったのかもしれません。
久しぶりに「僕の好きだった三谷幸喜が帰ってきた」というような気持ちで楽しく拝見させていただきました。
「スオミの話をしよう」(2024年)
2025年現在の三谷監督最新作です。
この作品も映画館に観に行きました。
というか、考えてみると、自分は三谷さんの監督作品をすべて映画館で観ているんですよね。
もしかしたら、私がすべての映画を映画館で観ている唯一の監督かもしれません。
長澤まさみさん演じるスオミという女性が姿を消し、彼女の元夫たちが一堂に会してその行方を追うというミステリーじたてのコメディーです。
第一印象は「うわっ、舞台っぽい」でした。
今までも三谷さんの作品で舞台っぽいものはたくさんありましたが、セリフ回しがここまで舞台感のあるものってなかった気がします。
本当に舞台に役者が出てきて、暗転して次の幕が始まって・・・・・・みたいな感じの映画でしたね。
「THE有頂天ホテル」から「ギャラクシー街道」までの三谷映画って、もしかしたら「主人公のイタさ」が心が離れていった原因なのかもしれません。
「王様のレストラン」や「合言葉は勇気」も結構、各キャラクター、それなりにイタかったんですが、舞台っぽい群像劇ということで、客観的に観れてそれほど気になりませんでした。
でも、舞台と違って、劇映画はどうしても主観的になりがちです。
三谷さんがどんどん映画的手法を極めていくに従って、イタさが前面に押し出され、共感性羞恥みたいな感じになっていったんじゃないかと思います。
そういう意味では、「スオミ」の西島秀俊さん演じる草野はイタさのカタマリみたいなキャラクターで、それどころか他の元夫たちもなかなかのイタさで、言ってしまえば「イタいヤツらの見本市」みたいな映画です。
ただ、演劇的な撮り方によって、観客はそれを客観的に見ることができて、共感性羞恥みたいなのをあまり感じずに済むんですよね。
「俺は舞台人なんだ」という三谷さんの開き直りとも言える原点回帰がイタさを消臭し、長澤さんの魅力も相まって、自分的にはかなり好きな作品です。
なぜ今回、こんな文章を書かせていただいたかというと、ふと急に三谷さんが1993年にお出しになったエッセイ集「オンリー・ミー 私だけを」を読み返したくなって、久しぶりに本を開いたからです。
この本に収録されている、月間「カドカワ」に寄稿したCHAGE&ASKAのライブレポート(という名の小噺)は、自分が今まで読んだ中で一番笑った文章です。
改めてこのエッセイ集を読み返してみると、三谷さんがいかに意地の悪い人なのかがよくわかるんですが、同時にその意地の悪さって自分にもあるなあと気づきました。
傘の先を後ろに突き出しながら歩く人の傘にわざと当たってみせて、相手の申し訳なさを誘い、反省を促すとか、自分もよくやりますし。
だから、三谷作品に感じていた「嫌な感じ」って、そこに自分自身を見ているような居心地の悪さだったのかもと思いました。
また、この本には三谷さん自身も結構、イタい人だったということが書かれております。
だから、もしかしたら「THE有頂天ホテル」の新堂の描き方は、底意地の悪さではなく、「自嘲」だったのかもしれませんね。
というわけで、今回は「なぜ自分が三谷さんの作品に惹かれながらも心が離れていき、また好きに戻っていったか」というお話をさせていただきました。
それでは、また。
「振り返れば奴がいる」
1993年1月放映開始
日本ドラマ
脚本: 三谷幸喜
出演: 織田裕二、石黒賢、千堂あきほ、松下由樹、西村雅彦、佐藤B作、中村あずさ、鹿賀丈史
「警部補・古畑任三郎」
1994年4月放映開始
日本ドラマ
脚本: 三谷幸喜
出演: 田村正和
「王様のレストラン」
1995年4月放映開始
日本ドラマ
脚本: 三谷幸喜
出演: 松本幸四郎、筒井道隆、山口智子、鈴木京香、西村雅彦、小野武彦、梶原善、白井晃、伊藤俊人、田口浩正
「ラヂオの時間」
1997年公開
日本映画
監督: 三谷幸喜
出演: 唐沢寿明、鈴木京香、西村雅彦
「合い言葉は勇気」
2000年7月放映開始
日本ドラマ
脚本: 三谷幸喜
出演: 役所広司、香取慎吾、鈴木京香
「新選組!」
2004年1月放映開始
日本ドラマ
脚本: 三谷幸喜
出演: 香取慎吾
「THE有頂天ホテル」
2006年公開
日本映画
監督: 三谷幸喜
出演: 役所広司
「清須会議」
2013年公開
日本映画
監督: 三谷幸喜
出演: 役所広司、大泉洋
「記憶にございません!」
2019年公開
日本映画
監督: 三谷幸喜
出演: 中井貴一
「スオミの話をしよう」
2024年公開
日本映画
監督: 三谷幸喜
出演: 西島秀俊
