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日本の強みである現場の知恵を最新技術で共有する

先日、日本経済新聞の報道で、DMG森精機と産業技術総合研究所が工作機械の故障予知を行うAIを共同開発するという記事を読んだ。

このAIは2028年までに日本国内の中小企業へ提供される予定だという。

このニュースを目にしたとき、僕の頭の中に浮かんだのは、技術の進化に対する期待感と同時に、自身の過去の苦い記憶だった。

実は数年前、僕は某社に対してこれとまったく同じ構想を提案し、そして見事に却下されている。

結果として、その会社は今、業界内で完全に後発に回ってしまった。

新しい技術やアイデアが社会に実装されるタイミングとは一体何なのだろうか。

今回は、最新の故障予知AIが日本の製造業にもたらす変化を解説しながら、僕の過去の失敗体験から得た教訓について詳しく考えてみたい。



数年前に僕が提案し、見事に却下された未来

数年前、僕は某社に対して、工場で稼働する機械のデータをリアルタイムで収集し、AIを用いて故障の予兆を検知するシステムを導入すべきだと提案した。

その内容は、今回のDMG森精機と産業技術総合研究所の取り組みと根幹においてまったく同じものである。

僕は多数の資料を用意し、この技術がいかに将来の製造業に不可欠になるかを熱心に説明した。

しかし、その提案が通ることはなかった。


なぜ提案は却下されたのか。

当時の彼らにとっては僕の提案が少し早すぎて、システムがもたらす具体的な価値を実感として理解できなかったのかもしれない。

あるいは、僕の話を聞いてくれた担当者には、これほど大規模な新しいプロジェクトを社内で通すだけの権限がなかったという可能性もある。

そして何より、僕自身の提案能力が不足していたという事実は否定できない。


いずれにせよ、その会社でプロジェクトが動き出すことはなかった。

そして現在、業界内で似たような技術の導入が次々と進む中で、彼らは明確に後発企業となってしまった。

技術のトレンドを見誤り、波に乗り遅れることの代償は極めて大きいという事実を、僕はまざまざと見せつけられることになった。


熟練の職人技をデータ化する故障予知AIの全貌

僕の個人的な失敗はさておき、今回ニュースになったDMG森精機と産業技術総合研究所の取り組みは、日本の製造業が抱える深刻な課題に対する極めて直接的で有効な解決策となる。

一言で言えば、これまでベテランの職人の経験頼みだった機械の故障を見抜く力を、AIを活用して誰でも実践できるようにするというものだ。


これまで、工場の現場で機械の不調を事前に察知するのは、長い年月をかけて技術を磨き上げた熟練の技術者だった。

彼らは機械が発するかすかな音の違いや、振動のわずかな変化を感覚的に捉え、長年の勘によって故障を未然に防いできた。

しかし、少子高齢化が進む現在の日本において、現場を支える職人の数は減少し続けている。

高度な勘と経験を持つ人材の引退が次々と迫る中、同じレベルの判断を新しい世代や経験の浅い作業員にすぐさま求めることは現実的ではない。


機械が突然停止した場合の被害は、想像以上に甚大である。

工場全体の生産ラインがストップし、納期の遅延や不良品の大量発生につながれば、企業にとって莫大な経済的損失となる。

既存の分析システムを用いて機械の監視は行われてきたが、システムが異常を知らせる頃にはすでに手遅れであることが多く、小さな部品が劣化していく微細な予兆までを正確に見抜くことは極めて困難だった。

だからこそ、人間の限界を超える精度を持ったAIの力が必要とされているのである。


膨大な稼働データから異常の予兆を正確に検知する

では、このAIは具体的にどのようにして機械の故障を見つけるのだろうか。


鍵となるのは、日本国内の50社から100社の中小企業から集められる約1,000台分の工作機械の稼働データである。

電流、油圧、工具の回転数、温度変化など、機械が動く際に発生するあらゆる物理データを匿名化して収集する。

工場のデータは各社にとって機密性の高いノウハウの塊であるが、国の研究機関である産業技術総合研究所が間に入ることで、安全にデータを集結させる体制を構築している点が非常に優れている。


そして、集められた膨大なデータをAIに学習させる。

AIが学習するのは、正常に稼働している時の膨大なパターンと、故障に至る過程で生じるわずかなノイズである。

これにより、AIはいつもと違う数値の変化を極めて正確に検知できるようになる。

人間の耳や目では捉えきれない微細な異常の兆候を、数千に及ぶパラメータの相関関係の中から自動的に弾き出すのだ。


この技術が完全に確立すれば、機械が致命的な故障を起こして完全に停止してしまう前に、今のうちに部品を交換すれば直るという具体的なタイミングをAIが事前に教えてくれるようになる。

事後対応ではなく事前対応が可能になることで、突発的なライン停止を根本から防ぎ、工場の稼働率を大幅に向上させることができる。


中小企業への普及と製造業の生産性向上

このニュースが持つ最大の社会的な意義は、この高度なAIシステムが日本の中小企業に広く提供される点にある。


現在、高度な機械学習のモデルを用いたAIシステムを自社で独自に開発するには、莫大な資金と専門的なデータサイエンティストが不可欠である。

資金力や人材確保に課題を抱える多くの中小企業にとって、自前でAIを構築することは事実上不可能に近い。

しかし、DMG森精機という世界的なトップメーカーと産業技術総合研究所が開発したシステムを、中小企業が安価に利用できるようになれば状況は一変する。

日本の製造業の裾野を支える多くの中小企業において、生産性が劇的に向上する可能性を秘めているのだ。


また、国は現在、AIを用いて物理的な機械やロボットを賢く制御する分野を国の戦略として強力に推進している。

仮想空間のデータ処理だけでなく、現実の物理世界から取得したデータを用いて最適化を行うこの取り組みは、まさにその実用化を目指す先進的な事例となる。


日本の強みである現場の知恵を最新技術で共有する

この一連の取り組みにおいて最も僕が素晴らしいと感じるのは、日本の強みであるものづくりの現場の知恵を、AIという最新技術でデジタル化して共有するという明確な思想が存在していることだ。


これまで、熟練の職人が持つ高度な技は、その個人の頭の中や身体の感覚にのみ存在する暗黙知であった。

それは言語化やマニュアル化することが極めて難しく、長い時間をかけた徒弟制度のような形でしか次の世代へ継承することができなかった。

しかし、機械から取得できるあらゆる物理データをAIという新しい技術を用いて解析することで、その暗黙知を誰でも利用できるデータという形式知に変換することが可能になる。


僕たちは、職人の技がAIに奪われると悲観的に考えるべきではない。

むしろ、このままでは確実に失われてしまう貴重な技をAIの力を借りて保存し、さらに他の会社や将来の世代へ引き継いでいくための前向きな取り組みなのだと捉えるべきだ。

それこそが、日本のものづくりのDNAを未来へ残すための最も現実的で強力な手段となる。


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