見出し画像

とりあえずロボットを入れるという大きな罠

昨今、あらゆる現場で生産性向上や人手不足解消のために自動化が叫ばれている。少子高齢化が進み、製造現場を支えてきた熟練技能者の退職が相次ぐ中、解決の切り札として最新のロボットの導入を急ぐ企業は多いはずだ。しかし、とりあえずロボットを入れさえすれば、魔法のようにすべてがうまくいくのだろうか。答えは否である。現場の課題を直視せず、準備不足のまま進める自動化は、むしろ新たな問題を生み出し、現場を混乱させる原因になる。

村山省己氏の「ロボットによる工場自動化教本」は、自動化を成功に導くために、僕たちが導入の前に何を考え、どう行動すべきかを極めて具体的に教えてくれる一冊だ。本書を読み進める中で僕が強く実感した、真の自動化に必要なプロセスと実践的なアプローチをまとめてみたい。


とりあえずロボットを入れるという大きな罠

僕たちは、最新のテクノロジーを目の前にすると、ただロボットを入れて自動化すれば現在の問題はすべて解決すると考えがちである。経営層からのトップダウンで、ロボット導入そのものが目的化してしまうケースも少なくないだろう。しかし、現状の工程が最適化されていないままロボットを導入してしまうと、無駄な作業までそのまま自動化してしまうという致命的なミスを犯すことになる。


手作業時代の非効率な動きをロボットに高速でやらせたところで、ライン全体の生産能力は決して向上しない。自動化したあとにさらに工程の最適化が必要になり、結果としてロボットに無駄な作業をさせていたことに後から気づくのだ。最悪の場合、せっかく導入した高額なロボットが現場の足手まといになり、最終的に捨てることになって本末転倒である。だからこそ、企画段階から綿密なシミュレーションを行い、ロボットを入れる前にまずは人間による工程の最適化を行う必要がある。


本書でも、ムダな作業をロボット化するとムダな投資になります。儲かる自動化になりませんと明確に警告されている。ロボットのポテンシャルを最大限に引き出し、本当に儲かる自動化を成功させるためには、自動化という華やかな工程の前の、泥臭い準備こそが最も重要なのだ。


ロボット導入前に人間がやるべき徹底的なスリム化

では、具体的な準備とは何か。自動化のレイアウトを設計する前に、まずは人間が工場内の無駄を見つけ出し、徹底的に排除することが求められる。


たとえば、部品を一定量まとめて作ってから次の工程へ運ぶロット生産のままロボットを入れても、工程の間に無駄な仕掛り在庫の山ができるだけである。仕掛り在庫があふれれば、保管スペースが無駄になり、必要な部品を探す手間も増え、不良品の発見も遅れてしまう。そのため、まずはロボットを入れる前に人間が工程を根底から見直す必要がある。


具体的には、部品を1つずつ順番に処理していく1個流し生産へと切り替え、モノの停滞や待ち時間をなくすような、徹底的な作業のスリム化と標準化が不可欠である。人間が知恵を絞り、最も合理的で無駄のないモノの流れを作って初めて、ロボットはその真価を発揮できる土台を与えられるのである。


安易な投資を防ぐ企画段階のシミュレーション

人間の手によるスリム化と並行して、企画段階からシミュレーションを行うことも絶対に必要である。現場のよくある失敗として、ロボットを複数台入れてしまったが、実は1台でよかったというケースが挙げられている。なんとなく不安だから、あるいは予算があるからといって、初期検討が不十分なまま安易にロボットの台数やスペックを決めてしまうのは非常に危険である。


このような事態を防ぐため、本書では事前の検証を強く推奨している。


ひとつは3D動作シミュレーションの活用である。専用のソフトを使い、ロボットの動作スピードや待ち時間、周辺機器との干渉、モノの流し方をパソコン上の3D空間でビジュアル化して検証する。ランダムに部品が流れてくるような複雑なラインでも、このソフトを活用することで、本当にロボットが3台必要なのか、配置を工夫すれば1台で間に合うのではないかと、適正な台数を導入前に確実にはじき出すことができる。


もうひとつは、タイムチャートによる検証である。設備とロボットの一連の動作を1秒単位のタイムチャートに落とし込み、定量的に試算して確実な計画を練り上げる。これにより、ロボットがただ待っているだけの無駄な時間を可視化し、ライン全体のバランスを最適化することが可能になる。



事前検証がもたらす劇的な費用対効果

こうした地道な検証作業は時間がかかるように思えるが、本書の演習事例では、事前のシミュレーションとタイムチャートによる試算と改善を徹底して行った結果が鮮やかに紹介されている。


当初はロボットが3台必要だと思われていたラインが、シミュレーションを通じた緻密な検証によって、実は1台で十分に目標生産量をクリアできることが判明したのである。これにより、ロボット本体はもちろん、周辺装置や制御盤も含めた2台分の莫大な費用を丸ごとカットできた。それだけでなく、設置スペースの削減、立ち上げにかかるプログラミング時間の短縮、さらには将来のメンテナンス費用の抑制にもつながっている。


結果として、投資額を大幅に削減しつつ、投資当たりの生産性を2、3倍に引き上げることに成功している。事前のシミュレーションがいかに重要であり、企業にどれほどの利益をもたらすかがよくわかる、極めて説得力のある事例だ。


ただ機械やロボットを買ってくるだけの自動化は、最終的に工場内で使えない高い機械を無駄にする悲しい結果を招く。自動化の主役はあくまで人間であり、ロボットは僕たちが整えた最適な環境で働くプレイヤーにすぎない。

導入前に人間による工程の極限までの最適化を行い、シミュレーションによって確実で無駄のない計画を立てること。これこそが、僕たちが本当に儲かる自動化を成功させるための絶対条件である。現状の生産ラインや業務プロセスに課題を感じている人、これから自動化プロジェクトを立ち上げようとしている人にとって、本書は実用的な知見と具体的な手順を惜しみなく与えてくれるはずだ。

#読書感想文 #工場自動化 #ロボット導入 #生産性向上 #業務改善 #自動化の罠

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集