黒字リストラが始まったら、若手はあえて「会社に残る」という選択肢を持て
最近、業績が好調で黒字であるにもかかわらず、希望退職を募る企業が増えている。ご多分に漏れず、僕の会社も希望退職を募っていた。
投資家から見れば、不要な人材を整理して組織の代謝を促すような印象を与え、利益水準も上がるため、株価が上昇する要因になるかもしれない。不要な事業や部門を切り離し、成長分野へ資源を集中投下する「選択と集中」は、経営戦略として正しく映るからだ。しかし、中の社員からすれば、リストラをしている将来不安な会社にしか見えないのが現実だ。昨日まで一緒に働いていた先輩や同僚が、ある日突然会社を去っていく。その背中を見送るたびに、社内には言いようのない閉塞感が漂い始める。
一定以上の年齢層がターゲットになって辞めていく一方で、若手社員たちもまた「この会社はやばいのではないか」と悲観し、自ら去っていくケースが多い。「沈みゆく船からは早く逃げた方がいい」と、転職エージェントに登録を始める同僚の姿を見るのは、決して珍しい光景ではなくなっている。
みんなが辞める時こそ、あえて残る
実は僕自身も、希望退職の募集がかかった際、冗談半分で手を挙げたことがある。もちろん年齢が対象外であったため、上司から怒られて終わったのだが、退職金が割増でもらえるなら辞めてもいいとすら口にしていた。
冗談はさておき、実際に希望退職が始まると、社内には動揺が広がる。会社自体が弱体化するのではないか、人員削減によって一人当たりの業務量が増え、結果としてブラック企業化してしまうのではないか。さらには、会社の業績がさらに悪化し、僕たちの給料まで減るのではないかと心配し、会社の将来を悲観して辞めていく若手は少なくない。実際に、僕の同期も何人か会社を去っていった。彼らは口々に「この会社にはもう期待できない」と言い残していった。
しかし、こういった状況下で僕が個人的にどういうポジションを取るかといえば、会社に残るという選択をする。
みんなが外に出ていくタイミングでは、あえて残る。逆に、みんなが「この会社はイケている」と思って入社してくるようなタイミングであれば、1回離れてもいいと考えている。大衆とは逆の動きをするのが僕の基本スタンスだ。人が群がる場所には競争が生まれ、パイの奪い合いになる。しかし、人が去っていく場所には、誰も見向きもしない手付かずのチャンスが転がっていることが多いからだ。
ライバルが減り、ポジションが空くという圧倒的メリット
なぜこのような逆張りをするのか。理由は単純で、社内のライバルが減るからだ。
企業において出世競争のライバルとなるのは、主に自分と年齢が近い「プラスマイナス5歳」の世代である。この世代は、これまでの経験値やスキルセットが似通っていることが多く、同じようなポジションを巡ってしのぎを削る関係になりやすい。そして、希望退職やリストラの波に乗って自ら辞めていく若手の中には、他社からも良い条件で迎え入れられる優秀な層が多く含まれている。彼らは自身の市場価値を正確に把握しており、より良い環境を求めて機敏に行動するからだ。
残った側からすれば、彼らがいなくなってくれたおかげで、競争相手が劇的に減るのだ。これまでなら、優秀な同期や先輩に隠れて目立たなかった実績も、ライバルが不在となれば相対的に高く評価されるようになる。これは今後のキャリアを考える上で、非常に有利な状況と言える。言い換えれば、不毛な出世競争をショートカットできる「ファストパス」を手に入れたようなものだ。
会社を使って「やりたいこと」を実現するために
ライバルが減ることを喜ぶのは、決して強い出世欲があるからではない。ポジションが空き、自分のやりたいことができるようになる確率が飛躍的に上がるからだ。
世の中には、会社にぶら下がり、ほどほどに給料をもらって生活できればいいという人もいる。決められた業務をこなし、定時で帰宅してプライベートを充実させる。それも一つの立派な生き方だ。しかし、僕のように「この会社のリソースを使って何かを仕掛けてやろう」と考えている人間にとっては、社内でのポジションが不可欠になる。会社の看板、資金、顧客基盤、蓄積されたデータ。これらを自由に活用できる立場にならなければ、本当に面白い仕事はできない。
自分のやりたいことを具現化するには、決裁権を持つ人間を味方につける必要がある。どんなに素晴らしいアイデアがあっても、それを実行に移すための予算と権限を引き出せなければ、絵に描いた餅で終わってしまう。しかし、入社したばかりの新入社員がいきなり役員に直談判に行くのは、普通の会社では至難の業だ。階層という壁に阻まれ、声すら届かないのが関の山だろう。
ある程度のポジションに就くことで、決裁権者へのアクセスは格段に容易になる。会議の席で直接意見を述べる機会が増え、日常的なコミュニケーションの中で自分の考えを伝えることができるようになる。立ち話レベルで「今度こういうことをやってみたいんです」と提案し、「いいじゃないか、やってみろ」と言ってもらえれば、面倒な社内稟議すら不要になることもある。
つまり、ポジションを得るということは、自分のやりたいことを実現しやすくなるということと同義なのだ。優秀な同世代が抜けてくれたおかげで、そのポジションにたどり着くまでの道のりは極めて簡単になったと言える。今までなら何年もかかっていたかもしれないステップアップが、数ヶ月で実現してしまう可能性すらあるのだ。
ピンチをチャンスに変える生存戦略
もし皆さんの会社で希望退職やリストラが始まり、「この会社はやばい」と不安になったとしても、少し立ち止まって考えてみてほしい。焦って転職活動を始める前に、今の会社で本当に自分がやりたいことはできないのか、もう一度冷静に見つめ直してほしい。
そういった状況に陥った時こそ、あえて残る側に回ることで、自分の社内ポジションを劇的に良くできる可能性がある。 組織が混乱している時こそ、主体的に動き、リーダーシップを発揮する人材が求められる。そこで存在感を示すことができれば、会社の再建を担う中心メンバーとして引き上げられるチャンスもあるはずだ。
一時的に給料が下がるリスクはあるかもしれない。人員削減の影響で業務負担が増えることもあるだろう。しかし、会社にぶら下がるのではなく、自ら仕掛けて利益を出せる人間であれば、下がった給料は後からいくらでも取り戻せる。むしろ、危機的状況を乗り越えた経験は、あなた自身の市場価値を飛躍的に高めてくれるはずだ。
会社に残るか、別の会社に移るか。迷った時には、「あえて会社に残り、空いたポジションを狙う」という選択肢を、積極的に検討してみてもいいのではないだろうか。周囲のノイズに惑わされず、自分自身のキャリアにとって何がベストな選択なのか、自分の頭で考え抜くことが何よりも重要だ。
