見出し画像

二十歳。自由に憧れて乗った最終電車。

二十歳になって、就職したら……家を出る。

子供の頃から、そう決めていました。


ある晩のことです。


荷造りをようやく完成させました。

持っていくものは、予想以上に少なかった。


数点の着替えと、洗面用具と。

大きめのボストンバッグに、隙間ができるくらいの量でした。


それを抱えて、いざ出発。


「……と、いうわけで。お世話になりました。さいなら」


たまたま。
父に捕まってしまったので、一応挨拶をしました。

父は、唖然としていました。

「突然、なにを言い出してるんだ?」

父の声は、そのときは普段より震えていたかもしれません。

「突然?……母には前から話していたけど?」

「聞いてない!!」

………。

母は、話せなかったのでしょうか?

それとも。

いつものように。
人の話をまったく聞いてなかった?

「じゃ、母に聞いといて。もう電車なくなるから、行くねぇ」

と、出かけようとすると。


「待て!許さないぞ」

と、止められてしまいました。


ハァ……と、ため息をついて。
なるべく、冷静に答えました。

「……ずっと前から、こうしたいって言ってたつもりだけど?」

父の表情は、どんどん凍りついていきました。


「……とにかく。いままでありがとうございました」

荷物を持って、父の怒声を聞き流し。


ガチャン!
そのまま、家を出たのでした。


……なんで。

自分勝手な娘……のような流れになっているのだ?

この件は、かなり前から母の了承を得ていたつもりでした。

父が、急に騒ぎだしたのは……なんだったのか。

誰もいない、静まり返った夜道をずんずん歩きました。

駅まで向かうあいだに。

次々と言葉が浮かんできては。
心のなかで、ぐるぐると回り続けていました。

おかしくね?

なんで私にばっか厳しくするの?

放置してたくせに。

お母さん、味方してくれたんじゃなかったの?

そんな事を思うたび。
安物の、真っ黒なボストンバッグをぐいっと持ち直しました。


乗り込んだのは……たしか、地下鉄だったかなと思うのですが。

実は、あまり覚えていません。

外は、真っ暗でしたし。

電車のドアに写る自分は。
やけに惨めで、カッコ悪かったのです。

とても、見れたものじゃなくて。

ガラガラの最終電車でした。

酔っぱらって、寝ていたサラリーマン。
週末のカップル。

みんな、それぞれドラマがあったのかもしれない。
ただ……そのときは、そんな想像をするゆとりもなかったのでした。


たいした貯金もなく。
高級ブランド品も、なにも持っていない。

ただ若いだけの、イタイ女でした。

そんな女が。

これまた、なにも持っていない。
六畳一間、しかも風呂無しアパート住まい。

そんな男の部屋に転がり込んだ。

それだけのことでした。


アパートは、とにかく古くてカビ臭かったです。
あ、タバコの匂いも染み付いてました。

ドアは木でできていて、端っこは腐っていました。

ロフトがありましたが、どこかの宮殿の入り口みたいにアーチ状になっていました。

トイレは、当然和式です。
あ、一応は水洗でした。

見た目は、完全にボットン便所と大差なかったですけど。

ガス湯沸かし器もないので、洗い物は水で。(笑)

深夜は、隣の住人の麻雀の声まで聞こえてきました。
イビキや、オナラまで聴こえてましたね。

こちらの音も、全部筒抜けだったと思います。

お風呂は、近所の銭湯に通っていました。

「神田川」よろしく、お互いを待っていました。 
たいがいは、自分が待たせていましたけど。(笑)

……まぁ。
とにかくビンボーだけど、楽しい時代でした。

オールで、朝までカラオケに行っても。

友人と、一日中遊んでいても。

飲み歩いても。

誰にも怒られないんですもの。


毎日ワクワクして。
解放感いっぱいでした。

不便さですら、新鮮に思えました。

なにかがぶっ壊れるたびに、ゲラゲラ笑い転げていました。


そんな風に、暮らしていると。

父のことよりも。
母のことを、ときどき思い出したりして。

なぜだか、胸がチクッとしました。


あんなに、自由を求めていたのに。
どうして、そんな気持ちになってしまったのか。

いまでも、理由はよくわかりません。



あれから、30年以上の月日が経ちました。

いまは、家や生活、家族に恵まれて。
それなりに、どうにかやっています。


でも……。

ふとしたときに。

あのときの不自由でもあり、自由でもあった頃が。

なんだか……堪らなく懐かしく、切なくも思えたりするのです。

風呂無しぼろアパートでの、ビンボー生活。
それなりにハードでしたよ。(笑)

もしも。
いま、一人暮らしが出来るとしたら。

トイレはともかく、お風呂だけは外したくないですね。☹️🥹

おしまい。♬


★『ちび創作大賞』
今回は、カワムラさんの企画に参加させていただきたく、昭和の青春時代エッセイを書いてみました。

★『あなたにとっての自由とは』
あかねさんの担当するテーマです。
あまり……自由とは?という答えにはなっていないかもしれませんね。😅


にゃんちーさん、大変お手数をおかけします🙇
いつもありがとうございます🥹










いいなと思ったら応援しよう!

徒然なるままに…チゲ鍋妄想150%♀ もしも気が向いたら、お願いします🙇✨ 家族の食費と、画材代などにありがたく使わせていただきます🙇✨ 嬉しいな🎵嬉しいな🎵