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「シビル・ウォー」を見てパオロ・バチガルピを映画化して欲しいと思った

だいぶ前に「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024)を観賞して、「ふん。まあまあかなぁ」という感想だった。
というかこの映画を見ている最中ずっと、面白いとか面白くないとかいうよりも、『パオロ・バチガルピの「神の水」を映像化すれば良かったのになあ』ということしか考えていなかった。


パオロ・バチガルピって?

アメリカ人SF作家。大学卒業後中国で生活、その後帰国してweb関係の仕事をしつつ、作家活動を開始。
2009年に発表した長編デビュー作品「ねじまき少女」が2大SF賞であるヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞する(ダブル・クラウンと呼ばれる)偉業を達成。

「ねじまき少女」はエネルギーが枯渇した近未来のタイを舞台にしたSF小説。設定が珍しくて新鮮。ちなみにタイトルのねじまき少女とは人造のセックスアンドロイドのことで、劇中では日本人(というか日本製)の設定。まぁ、日本人のイメージっていえばこんなもん。ここにも書いたけど。

個人的には、バチガルピの五感をフルに使った文章が好き。私は別にSF小説にすごく詳しいってわけではなくSF読んでたってだけなんですが、どっぷりSF小説に入り込めなかったのは、世界観を表現するのに視覚のみに頼りがちっていうところ。
でもバチガルピは五感をフルに使って空気感を伝えようとしている。ただ視覚的にもとてもイメジャリーであり、そこも映像化と相性が良い気がする。

神の水とは?

バチガルピが2015年に発表したSF小説。
近未来のアメリカ南西部。水資源が枯渇しがちだったこの地域で、巨大な水源であるコロラド川の利権を巡ってネバダやカリフォルニアなど複数の州が対立。その中でテキサスは早々に弾かれ、テキサス州民は難民として他州で底辺生活を送っている。
そんな状況で女性ジャーナリスト、水問題に関わる工作員、難民の少女などがこの地の水にまつわる巨大な謎に迫っていく。

「シビル・ウォー」との共通点は、メインキャラの一人が女性ジャーナリストであること。アメリカ国内の内戦をテーマにしていること。

劇中で女性ジャーナリストを演じるキルステン・ダンストのドライな演技は、「神の水」の女性ジャーナリストとかなりイメージが被る。

そして内戦に関しては・・・
「シビル・ウォー」は、肝心の内戦問題がすごくフワッとしている印象。
カリフォルニアとテキサスによる西部勢力とフロリダ同盟が大統領に反発して内戦状態になっているらしいんだけど、イマイチ切迫した感じに見えない。殺し合いとか残酷な場面もあるんだけど、ちょっと距離を感じる。

おそらく監督のアレックス・ガーランドはハードな戦争モノをつくりたいわけではないんだと思う。どちらかといえば当事者というより客観的な視点から、映像を扱う身として「記録する覚悟」的なものを中心に捉えたかったのかなという気がする。
「神の水」を読んでなかったらそれはそれでアリ、とすんなり受け入れられた気がするんだけど・・・

「神の水」は複数視点の物語で、その中でもテキサス難民の少女の視点がとても印象に残っています。彼女は家族を亡くし、マフィアの末端の末端で水を売りながら、売春をしている仲間の少女と共に何とかやっているという、非常に過酷な状況を生きている。

それに加えて、この作品は「水」というシンプルな、しかし人間が生きていくのに不可欠なものを中心に据えているというのが重要。
普段「もし水がなくなったら?」と考えることはあまりないと思う。でも実際にそれが起きれば大変なことになる。多くの人が死に、路頭に迷う。そして実際、この状況は現実世界のアメリカ南西部で起こってもおかしくないらしい。
こんな状況下で、難民もジャーナリストも工作員も名もなき市民も生きるか死ぬか、発狂寸前の高ストレスな環境下で必死にあがき続ける。
こんな切実な体験を読者として共有しちゃったからには、「シビル・ウォー」がすごく呑気に見える。代わりに「神の水」が見たかったなーと思っちゃうんですよね。

映像化して欲しい短編

ヒッチコック曰く、映画化するのは短編小説が尺的に丁度良いらしい。
「神の水」は登場人物削ればギリいけるんじゃないかな。「ねじまき少女」は絶対に長い。やるならドラマシリーズになっちゃう。
幸いなことにバチガルピは短編集も出してます。そのタイトルは第六ポンプ

特に私が好きなのは、表題作品でもある「第六ポンプ」。未来の世界、人間の文明がすこーしだけ退化した世界で、勤め先の下水処理場でポンプ相手に格闘する主人公の、ゆるいような激しいような日常を描く作品。特に印象的なのは、主人公が目の当たりにする荘厳なポンプのイメージ。これすごく映像で見たいな。
他にも映像化したらすごくトリッピーになりそうなシーンもあるし、この作品はバチガルピには珍しくシュールなユーモアもあってとても楽しい。

映画化は多分とても複雑なプロセスだろうし、名だたるSFの名作で映像化されていないものもたくさんある。でもいつかバチガルピ原作の映画が見れますように!

追記:この記事を書いたあとにカルフォルニアでトランプ政権に対する大規模なデモが起こり、バチガルピの映像化よりもアメリカ内戦のドキュメンタリーの方が先に作られちゃうんじゃないかと思う今日この頃。

それではこの辺で。



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