「胡蝶の夢」「南柯の夢」「盧生の夢」
「胡蝶の夢」という話が『荘子』「斉物論」篇十三にある。
原文
昔者莊周夢爲胡蝶。栩栩然胡蝶也。
自喩適志與。不知周也。俄然覺、則蘧蘧然周也。
不知、周之夢爲胡蝶與、胡蝶之夢爲周與。
周與胡蝶、則必有分矣。此之謂物化。
書き下し文
昔者荘周夢に胡蝶と為る。栩々然として胡蝶なり。
自ら喩しみて志に適へるかな。周たるを知らざるなり。 俄然として覚むれば、則ち蘧々然として周なり。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。此を之れ物化と謂う。
訳文
以前のこと、わたし荘周は夢の中で胡蝶となった。喜々として胡蝶になりきっていた。
自分でも楽しくて心ゆくばかりにひらひらと舞っていた。荘周であることは全く念頭になかった。はっと目が覚めると、これはしたり、荘周ではないか。
ところで、荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、いずれが本当か私にはわからない。
荘周と胡蝶とには確かに、形の上では区別があるはずだ。これが物化(区別すること)というものである。
夢と現実、自分と他者、生と死といった区別は本質的なものではなく、すべては変化し続ける「万物斉同(ばんぶつせいどう)」の境地にあるという荘子の哲学を表す。
松尾芭蕉は「栩々斎(くくさい)」という俳号を用いるほど『荘子』を愛した。「胡蝶の夢」に深い感銘を受け、次の句を詠んだという。
君や蝶 我や荘子が 夢心
(きみやちょう われやそうしが ゆめごころ)
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