「ほら、あの足の速かった子」
実家に帰った際に立ち寄った地元のスーパーで、同級生にばったり会った。
「あれ?久しぶり。」
「おぉ、久しぶり。」
お互い、少し白髪が増えた。
でも声を聞くと、不思議とすぐにあの頃に戻る。
野菜売り場の前で立ち話が始まった。
「そういえば、この前、〇〇ちゃんに会ったよ。」
「〇〇ちゃん?」
「ほら、あの足の速かった子。」
その一言で、顔が浮かんだ。
運動会のリレー。
いつもアンカー。
バトンを受け取ると、みんなが大きな声で名前を呼んでいた。
転んでも泣かなかった子。
いつも半袖だった子。
「あぁ、覚えてる。」
「今は二児のお母さんだって。」
「あの子がお母さんかぁ。」
なんだか信じられない。
運動会ゴールテープのその先で
笑っていたあの子は母になっていた
「じゃあ、△△君は?」
「ほら、背の高かった子?」
「あぁ、今でも背が高かった。」
二人で笑う。
「□□ちゃんは?」
「絵の上手かった子。」
「今はデザイナーらしいよ。」
「それっぽいなぁ。」
「そういえば、先生も元気らしいよ。」
「あの、すぐ怒る先生?」
「いや、すぐ泣く先生。」
「あぁ、そっちか。」
話していると、次から次へと名前が出てくる。
まるでアルバムをめくっているみたいだ。
思い出は名前じゃなくてその人の
小さな特徴ひとつで開く
気がつくと三十分も話していた。
買い物かごには、まだ何も入っていない。
「じゃあ、また。」
「うん、また。」
手を振って別れた。
歩きながら思った。
何十年経っても、同級生は同級生なんだな。
社長になった人もいる。
おじいちゃんになった人もいる。
遠くへ引っ越した人もいる。
それでも会えば、
足の早かった子。
背の高かった子。
絵の上手かった子。
みんな、あの頃のままだ。
そして、きっと私は今でも、
「あの、いつも本を読んでいた子」
なんだろう。
それも、なんだか悪くない。
歳を取り肩書き増えていったけど
同級生にはただのあの子だ
