②房子 恐ろしい子(白目)【Netflix映画10ダンス】ーー感想と妄想、覚え書き

※ネタばれあり/話があちこち飛びます/ツッコミあり/考察・レビューではありません/妄想多め
私なりに受け止めた感想です。

感想の続きを書く前に。
どうしても、房子について語らせてください。
映画10ダンス、彼女の存在なくして物語は動かなかった。



「矢上房子は美しい」
「矢上房子になりたい。そう思わせるのが自分の役目です」

杉木に、帝王オブザボールルームに、そんなことを言われてなお、正気を保っていられる女性。
それが、矢上房子。

房子の存在なくして、映画10ダンスの世界観は成り立たない。
存在、というより——犠牲、なのかもしれない。

房子は、素直な器だ。
透明なガラスの器。
そのままの色と温度を受け入れる。
離れて見る者だけが、ガラスの煌めきと、揺らめく液体の調和を味わうことができる。

杉木が、パートナーとして房子を求めているように。
房子もまた、ダンサーとしてのみ、杉木を必要としている。

房子は、おそらく誰よりも杉木のファンだ。
けれど、そこに余分な熱はない。
本当に、ダンス以外の部分はどうでもいいのだと思う。

杉木の趣味嗜好は、「事実」としては知っているかもしれない。
けれど、それは情報を把握しているだけであって、感情を生み出すものではない。

杉木のパートナーとして
「残ったのは、落ちこぼれだった私だけ」

落ちこぼれ、と自らを表する房子。
それはきっと、良くも悪くも、こだわりのなさ。
大きな目標だけを見据えているから、他のものが目に入らない。
邪気のない、純粋な向上心。

ダンスという、個性を求められる世界で、相手の姿によって映すものを変える、磨き抜かれた鏡。

叱咤され、罵倒されて。
パニックで解離した状態でも、即座に反応できるまで、技術を身体に叩き込んできた根性。

ただものではない。
房子。恐ろしい子。

お稽古事で最初に教わるのが「守破離」
まずは、習った型を守り続け、身体に染み込ませる。
疑問も、反発も挟まない。
頭で考えた瞬間に、動きは遅れる。
徹底的に、「我」を削ぎ落とす訓練。

房子は、ダンスに己を捧げている。
我欲を超えて、身体の痛みも厭わずに。

房子にとって大切なのは、
「その先にあるものを見たい」という一点だけだ。

そして、杉木なら、それを見せてくれる。
それは、絶対の信頼。揺るがない。

だからこそ、房子は杉木を平気で追い込める。
共に追い込まれることも、受け入れている。

鈴木ペアとの合同練習。杉木の決定である以上、房子にとっては是非もなく、ただ受け入れるだけ。

そこから先は、
アキのおかんパワーが、房子をも巻き込んだのだと思うけれど。

あのマイペース軍団の中で、唯一、気を使えるのはアキだよね。
気苦労、多いだろうなあ。

そう、房子を「房ちゃん」と呼んでくれる人、今まで、いなかったんじゃないだろうか。

だって、「矢上房子は、みんなの憧れ」だから。
矢上先生。
房子さん。
下手をすれば、房子様。

「房ちゃん」という呼ばれ方。
きっと、とても新鮮だったと思う。

「矢上房子」というアイコンではなく、
ひとりの人間として接してくれたアキ(と鈴木)。

アキは、10ダンスの練習がなければ、
房子の本質に踏み込むことはなく、
「こえー」のイメージのままだったと思う。

鈴木は、たぶん、一対一だったら、
房子にフラットに接することはできなかった。

房子にとっても、いい出会いだったと思いたい。

それはそれとして。

ブラックプールで、鈴木に。
ジュリオのことだけでいいのに、リアナのことまで言ってしまうのは。

杉木がどういう世界に立っているのか鈴木に知らせることが、彼の覚醒に繋がるから。
房子は、鈴木の覚悟を察知して、共犯者として認めたのかもしれない。

ウォッチパーティで語られていた、
リアナと杉木のオナーダンスのあと、
房子とアキは、一緒に食事に行っていた、という話。

二人で、何を話していたのだろう。
パートナーの愚痴でもいいし、
全然関係ない、くだらない話で笑っていてもいい。
房子がダンスに身を捧げた修道女なら、アキは鈴木にだけ発動するキジーツ(呪物)

他の人と踊るなら。
アキは、相手が楽しいと感じるように踊らせてあげることだろう。
でも、房子と組むことは、杉木と比較されること。自分は帝王ではない現実を突きつけられること。

杉木とリアナが踊ったのなら、ジュリオと房子も踊ったはず。

ジュリオはきっと、突きつけられる。
その焦燥感も敗北感も飲み込んで、房子は静かに相手の手を取り踊り続ける。
房子。
恐ろしい子。

鈴木は、アキというキジーツで表現を伝え、アキは、鈴木だからこそ、その能力を発揮できる。
愛情や利害を抜きにして、必要不可欠なペア。

でも、房子は違う。
愛情を求めないからこそ、選ばれたパートナー。
利害が一致した、契約関係。
杉木は房子を皆に憧れられる「矢上房子」にして、房子によって杉木は「帝王」になる。

房子にとって大切なのは、杉木がダンスの高みを目指し続け、それに自分も乗っかること。
自力だけでは到達できないことを、房子は自覚しているから。

だから。
最後に房子は、杉木を鈴木のもとに送り出した。

ざわめきの中、手を取り合いスポットライトに照らされる二人を見て、静かに微笑む房子。

明確に描かれてはいないけど。
でも、あれはきっと、房子の仕業。

杉木は、鈴木と出会ったことで、自分には欠けた部分があることに気がついてしまった。

埋められるのは、足りないのは鈴木の存在。
それを房子も理解してしまった。
だから、杉木に鈴木を迎えに行かせた。
自分が美しく踊ることよりも、鈴木によって完成する「帝王の愛」の方が、房子には大事だったからだ。

信念を貫く矢上房子は、やはり美しい。

佇まいだけで説得力がある。
房子の言動には何の説明も必要ない。そこにいるだけで、納得せざるを得ない存在感。
妄想が止まらない。

演じてくれた石井杏奈さんに、感謝と称賛を心から。
ウォッチパーティでの屈託のない笑い声は、房子なのに房子ではなくて。
それでも。
「それだけなんだよね。房子って。」
房子として生きていたからこその言葉。

杏奈。
恐ろしい子。


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