①受け取ったよ【Netflix映画10ダンス】感想と妄想、覚え書き

※ネタばれあり/話があちこち飛びます/ツッコミあり/考察・レビューではありません/妄想多め
私なりに受け止めた感想です。



なんとなく。
めずらしく、誰もリビングにいない土曜日の朝。
遅めの朝食をとりながら、久しぶりにテレビをつけた。

特に見るものは決めていなかった。
ただ、普段チャンネル権がないから、こういう時くらいは、と。
予告を見て気になっていた『10ダンス』の再生ボタンを押した。

冒頭。
感情が読み取れない女性に、淡々と化粧を施す男性。
機械的で、無駄のない動き。回廊を降りていく。

――なにこの、贅沢な耽美画面。

畳みかけるように、オナーダンスからボールルームダンス、ラテンダンスの紹介。

正直に言うと、この時点まで私は勘違いしていた。
勝ち上がっていくダンサーのドキュメンタリー映画だと思っていたのだ。

え?
ちょっと待って?
違くない?

これ、イメージ映像とか、そういうレベルじゃないよね。

ここでようやく気づく。
ダンサーが役を演じているのではなく、俳優がダンサーを演じているのだと。

うわ、やばい。
思わず一時停止を押した。

なんとなくで観たら、もったいない。
集中できるよう家事を終わらせ、
丁寧に淹れた紅茶をポットに満たして。
日常を切り離し、「観る」モードへ。




杉木。横顔が美しい。年齢不詳。
圧倒的な美には、野暮な説明など不要。
すべてを凌駕し、そこに君臨する。

対する鈴木は、小物や服で自由な雰囲気を纏っている。
「センスと体格だけは」って、それ挑発のつもり?
いや、めちゃくちゃ褒めてるし。
一度断られてるのに、それ言うために待ち伏せしてたの?

わざわざ火をつける杉木。
そして、のせられてしまう鈴木。

OKを引き出したあと、絶対うれしいはずなのに、すました顔。
情熱を内に抱え、それでも洩れてしまう嬉しさ。

鈴木の後ろにあるの、あれ例のポンティアックだよね。
バレーサービスだとしても、ホテルの人も、こんな車を運転できたら嬉しいだろうな。

その車を運転しながら、鈴木は無意識を言語化してしまう。
認識したことで、意味を持つ存在になる。
頭の片隅に、もう杉木の居場所ができている。
なかったことには、できない。



一夜明けて。
アキ、慣れてるなあ。
ここに至るまで、いろいろあったんだろうと思わせる“おかん”っぷり。

目を覚ました鈴木が、横にいる女性の頭に手を伸ばすところ。
個人的萌えツボ。
無意識の仕草で人を翻弄する、本当に人たらし。

で、彼女たち。
来るときは鈴木が車に乗せてきたとして、帰りはどうしたんだろうね。
なんにしても、アキ、おつかれさまです。



「むかつくんだよ!」の場面。

ウォッチパーティでの土居さんの
「うわあ、やだあ。」
とても健全な反応だと思った。

芸術を志す人は、感性を最優先するから、エキセントリックな振る舞いにも寛容なのかと思っていたけれど。
そりゃそうだよね。
芸とはいえ、ひとりで生きているわけじゃない。

鈴木も、
「大きい声出すな!」と言ってくれるアキがいるから、
安心して情緒不安定をみせられるのかもしれない。



杉木ダンススタジオ。
「30分の遅刻ですよ。」

杉木、ずっと楽しみに待ってたんだろうな。
どうやって初回の待ち合わせをしたのか分からないけれど。

約束した相手が来ないとき。
最初は苛立ち、次に不安になり、
最終的には、無事に来てくれただけで嬉しくなる。

杉木は、それらすべてを飲み込み、ダンスに集中していた。

この人の行動原理は、すべてダンスに結びつく。
不安も、怒りも、期待も、絶望も。

すべてを内包した、揺るぎないホールド。

「悲しきホールドロボ!」
「ホールドしちゃうぞ♡」

WPの町田さんの前フリと、
応えてしまう土居さん。
出演者同士の関係性が垣間見えて、和む。

鏡越しに伸ばされる手。
王様と俺様。

ここから、ふたりが手を取りあうことで、物語が始まる。

「俺の体を見ろ。」
そこで脱ぐんだ。

房子は驚いているけれど、アキは平然としている。
バレエダンサーやモデルにとって、肉体は道具に過ぎない、と聞いたことがある。
淡々と鍛え、淡々と整え、必要な場面では羞恥心を介在させない。

プロフェッショナルに徹する姿は、ただただ美しい。
ありがとうございます。

そして、この鏡越しの場面。
カメラマンは、どうやって撮影しているのだろう。

音も、光も、装飾も。
こだわり抜いたうえで、余分な情報を徹底的に削ぎ落とした、ストイックな画面。
贅沢で、妥協がない。



アキと房子の会話。

「先生は、名もなかったわたしを、ここまでにしてくれた。
だから私は、先生のリードに身を委ねて、ついていくだけ。」

WPでの石井さんの
「それだけなんだよね。房子って。」
核心を突いた一言。

房子が杉木に言われた
「誰よりも美しく踊らせてあげます。」

これ、嬉しいより、怖かったんじゃないだろうか。
ガラスの靴を履かせてもらっても、自動的にお姫様になれるわけじゃない。

その場で美しくあるためには、
日頃の節制と努力が必要になる。
美しい女性として扱われるに足る自分であり続けるために。



ダンスも、バレエも、アイスダンスやフィギュアも。
女性にスポットライトが当たりやすく、
男性は「支える側」「引き立て役」と見なされがちだ。

でも、主役を輝かせるためには、引き立て役が不可欠だ。
照らす光が必要になる。

伊集院光が、爆笑問題・田中を評した
「よく切れる刀には、それを収める鞘が必要」
まさにそれ。

パートナーが誰であれ、
自分と組む以上、その場で最も美しく踊らせる。
美しい存在として完成させる。

それが、杉木の手腕であり、プライド。



そんな相手に
「俺の操縦どおり動いてろ。」

戦略的に積み上げてきた杉木のメソッドと、感性を枠組みに押し込める鈴木。

性質も、やり方も違うのは仕方ない。
でも、そこは杉木が一番こだわっているところ。

ホールドされたら、もう逃げ場はない。
拷問に等しい状態での立ち姿。
微かに震える指先が、美しい。



この映画は、音楽の使い方が本当に素晴らしい。
微かなノイズが、無音の空間を際立たせる。

靴音。衣擦れ。
流れるような杉木の言葉。
吐息と、呼吸音。

そして、鈴木の脳内に流れ出すワルツ。
満ちてゆくドナウ。

WPで竹内さんが
「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、という感じ」
と言っていたけれど、本当にそれ。

お姫様になっちゃった。

「なっちゃったんだね。」
「なっちゃった自分に、びっくりしてる。」



価値観を根底から揺さぶられる瞬間。
キャパオーバーで、思考が追いつかず、呆然とする。

鈴木は、自分のやり方で結果を出してきたからこそ、この体験が深く刺さったのだと思う。

新しい世界を知ること。
限界を越えること。
怖いけれど、同時にワクワクも大きい。

1+1が10になる世界線。
この関係は、何を生み出していくのだろう。



食事の場面。
互いの立場、生きてきた世界を確認するように。

二人は、生活を知る前に、身体の芯に触れてしまった。
ダンスは装うもの。究極の非日常。

繋がった掌を手繰り寄せ、
空白を埋めるピースを探しながら、
距離が縮まっていく。



杉木への思いを、素直に口に出す鈴木。
笑顔で受け止めるアキ。

本当にいい関係だと思う。
ここに至るまで、相当大変だったんだろうな。
主に、アキが。



大会直前に電話をかけてくる杉木。

もう、それは、好きじゃん。
しかも無意識。

房子に時間だと呼ばれても、
鈴木の呼びかけには応じてしまう。

「早く帰って来いよ。」

目の前の試合より、
鈴木と目指す世界のほうが、輝いて見えている。

WPでの
竹内さん「エッロ」
町田さん「嬉しくて溢れちゃった」
自分たちを客観視できている感じが、とても良かった。



「俺って、あいつにとって何なんだろう。」

関係性を考え始めた時点で、相手を特別扱いしているということ。
まだ、鈴木は気がついていない。
思いを酒で流し込み、
溜息を煙に変える。



そして、「クリスマスの奇跡」。

「ダンサーを広いところに置くと踊り出す」というポストをXで見た。

特性なのか、職業病なのか。

冒頭のシーンに繋がる「謎の女」の話。杉木のホールドに向かうときの、
房子のきゅっとした右肘が好きだ。



紳士であることを求められる世界で、
「紳士とはほど遠い」自分が、
最も紳士的だと評価されたこと。

冷酷非情を隠す仮面となったホールド。
それは、積み上げてきたメソッドを否定するほどの傷。

同じフィールドのダンサーには言えない。
自分を称賛する人たちにも見せられない。

杉木にとって鈴木は、
初めて、立場を理解してくれる相手だったのだと思う。



「つまんねえ。」

慰めが欲しいわけじゃない。
共感もいらない。
でも、切り捨てられるのは違う。

言葉が足りないのは、
すべてを身体で表現するダンサーだからこそ。



無音の世界に、ざわめきが戻る。
衝動のままに走り出す杉木。

電車の中の鈴木。
「いやなら、やめても」

また、火をつけた。

ロマンチックなキスシーンなのに、
感情をぶつけ合う、殴り合いのようにも見える。

同じ力量、同じ感情。
遠慮なくぶつけ合える幸福。

でも、哀しい。完全には伝わらない。
魂が同じでも、肉体は別だから。

だからこそ、理解したいと願う。
祈りに近い感情が、尊い。

「俺は、死神を倒す天使になる」
好きという言葉を使わずに、愛を伝えている。
相手の存在を、傷ついた魂ごと受け止めるという宣言だ。

「そんな傷、あんたにはかすり傷でしょ。
遠慮せずに、全力で倒してやるから」

杉木に傷をつけられるのも、倒すことができるのも、自分だけ。
その重荷を、引き受けるという覚悟。

「やっぱり、あなたは僕の憧れ」

“やっぱり”という言葉。
自分の価値観も、生き方も変えてしまうほどの圧倒的な存在。
神様に出会ってしまった、という確信。

もう、覚悟を決めるしかない。


10ダンスのBLは、BIG LOVE。
ジャンルはどうでもいい。
主題は、そこじゃない。

私は、関係性に尊さを見る。

太陽と月。
刀と鞘。
突破型の天才と、現実に落とす参謀。

ひとりでも立てる。
でも、もうひとりがいることで、影響は何倍にもなる。

相手を活かすために、自分の枠を変える。その覚悟が。思いの強さが。

アキと鈴木。
房子と杉木。
アキと房子も。

互いを尊重し、自分の枠組みを変えることを恐れない。



本気は、人の心を揺さぶる。
私も、揺さぶられたひとり。

本気に応えたくて、
本当に久しぶりに、文章を書いている。

続きは、また今度。



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