見出し画像

ツツジの蜜は、秘密の味だった。

ツツジが競うように咲いている。

春が来ると当たり前のように咲いているから、今まで目を止めることもなかった。でも、今年はなぜか、濃い色のツツジに目を奪われる。

幼いころ、家の近くに同じ色のツツジが咲き乱れていた。友達から「蜜が甘くておいしいよ」と教えてもらって、2人でぺろぺろ蜜を舐めていたこともあったっけ。今は毒性のツツジと見分けがつかないから、避けた方がいいという。あのころだってもしかしたら、毒の強いツツジがあったかもしれないと思うと、春の遊びも命懸けだ。

濃い色のツツジに目を奪われるのは、子どものころの思い出があるからかもしれない。無邪気に蜜を吸っていたあのころは、ツツジが怖いものだなんて知らなかった。怖いものといえば、お化けと怒った両親ぐらいだった。

ある日、実家のマンションの植え込みのツツジの蜜を、友達と味わっていた。お花の蜜が味わえるなんて、アゲハ蝶にでもなった気分だった。いい気持ちで遊んでいたところに、仕事から帰ってきた母と出くわした。

「やめなさい、ばっちい(汚い)から」

吸っていた花を取り上げられ、家に連れ帰らされた。そして、外のお花は汚いかもしれないから、蜜を吸ってはいけないと注意された。でも、ツツジの蜜がおいしいって、父も言っていた。大人が言うんだから大丈夫だろうと思って、友達と遊んでいたのに。「お父さんもおいしいって言ってたよ」と伝えたら、母の怒りは最高潮になった。

「お父さんは余計なことを教えるんだから!」

私のせいでここにいない父まで怒られている。そんなにツツジを吸うことがダメなのか、ずっと疑問だった。甘くておいしいし、別にお腹が痛くなったりしないから大丈夫だと思っていた。綺麗なお花が汚いってどういうことだろう。幼い私には理解できなかった。

でも、年齢を重ねるうちに私も友達もツツジを舐める遊びはしなくなった。そのまま時は過ぎ、大人になった今、なぜかツツジの蜜のことを思い出したのだ。

今なら、母の言うこともわかる。確かに、公共の場の花を勝手に摘んではいけない。それに、農薬を使っている可能性もある。冒頭に書いたように、毒性のツツジだってある。でも、当時の私からしたら、おやつ以外に甘いものを見つけてラッキーだっただけだ。

わが子たちには、そういう遊びを教えていない。花は摘むものではなく見るものだと、小さなころから教えていたからだろうか。花を摘んで蜜を吸う遊びをやっているのを見たことはないし、聞いたこともない。

安全性のことを考えると、それでよかったと思う。これからも、教えるつもりはない。

幼いころのツツジの蜜は、甘くてうっとりするようなおいしさだった。でもそれは、怒られるスリルと隣り合わせの非日常だったからおいしく感じたのかもしれない。

だから、この甘さは、私だけの秘密にしておこう。

いいなと思ったら応援しよう!