縦ロールのヘソ毛
ヘソ毛が生えている。
信じられないぐらい太く長く、黒々としている。
ムダ毛界のボスといった佇まいだ。
これまで気づかずにのびのびと生やしてしまった私にも責任はある。きっとノンストレスでマイペースに栄養を蓄えて、太く長く伸びていったのだろう。天然ウナギのようなしなやかさと、養殖ウナギのような存在感を併せ持った、ハイブリッドヘソ毛。いま、ヘソ周りのムダ毛の中で、異様な存在感を放っている。さてどうしようか。抜くか、そのまま成長を見守るか。2択に絞られた。
よし、抜くか!
決心した私は、爪の先でハイブリッドヘソ毛をつまみ、力を込めた。抜けろ!と念じて引っ張ったところ、ヘソ毛は抜けずに爪の先から脱出した。
丈夫なのにも程があるだろう。
思わずヘソ毛に突っ込む私。
ところがヘソ毛はびくともしない。
それどころか、爪の先で擦られたおかげで、ロール状になった。しかも、方向が縦だ。縦ロール。縦ロールのヘソ毛が今、私のお腹で産声を上げた。
縦ロールの毛といえば、マリーアントワネット。「ベルサイユのばら」という漫画で、見事な縦ロールを披露している王妃だ。皆様もご存知のことだろう。世界史で必ず登場する人物だ。そんな美しいフランスのお姫様と私のヘソ毛に、まさかの共通点が生まれた。
やった!
と思うわけがない。
いくら見事な縦ロールをキメているとはいえ、ヘソ毛はヘソ毛だ。ヘソ周辺に生えるムダ毛でしかない。たとえラスボスのような佇まいがあろうが、マリーアントワネットとお揃いの縦ロールだろうが関係ない。憎きヘソ毛。撃つしかない。
もう一度気合を入れて、爪の先でヘソ毛をつまむ。そして、一気に引っ張った。すると、ヘソ毛はスンとあっけなく抜けた。私の大勝利である。毛抜きを使えば確実に抜けたのを、あえて指先で抜いた無謀なる挑戦。それでも私は勝った。根こそぎ抜いてやった。ムダ毛界のラスボスを、ようやく倒したのだ。
こうして私と縦ロールのヘソ毛との戦いは、幕を閉じた。
と、ここまで書いてみて思うことがある。
世間の女性は、どうヘソ毛と向き合っているのだろうか。
お腹を守ってたら、永遠にバレないヘソ毛。
服を脱がなければ、存在を知られないヘソ毛。
10代や20代のうら若きころだったら、ちゃんとケアをしていたかもしれない。好きな人の前でひょっこり生えてるヘソ毛なんて許せないから。デートの前のムダ毛ケアはエチケットだと言わんは分かりに、あらゆるムダ毛を撲滅していたに違いない。
しかし、今。
子育てと仕事と日常生活に追われ、ヘソ毛のへの字すら思いを馳せられない日々を送っている。パートナーとの関係も、ヘソ毛ごときでキャーキャー騒ぐほどのものでもないから、ますますケアを怠ってしまう。
忘れられたヘソ毛。
こう書くと、哀愁さえ漂う。
ところが、ヤツらはしぶとかった。
周辺のヘソ毛から1本だけ選抜して、太く長くたくましく育った。抜こうとしても抜けず、縦ロールになってでも抵抗した。その根性は讃えたい。
こうやってネタになったのだから、ヘソ毛供養は済んだとも言えよう。立派な戦いぶりであったぞ。
