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今日のごはんのCO₂⑧人はなぜ行動を変えるのか― 筑波大学 学食プロジェクトの実証 ―

第8回 今日のごはんのCO₂ 
ー 食からはじまるカーボンニュートラル ―


「今日のごはんを選ぶ」

その何気ない行動が、少しだけ変わる瞬間があります。

それは、強制されたときでも、教えられたときでもありません。
今回紹介するのは、筑波大学で行われている「食×CO₂」の取り組みです。
これまで企業の社員食堂やCSR活動の中で進められてきた本シリーズの中でも、この取り組みは少し異なる位置づけにあります。
それは、「教育」と「実証」が交差する場であるということ。
そして何より、学生自身が主体となって設計したプロジェクトであるという点です。


「行動を変えさせる」のではなく、「引っかかる」をつくる

このプロジェクトは、カーボンニュートラルをテーマとした学際的な研究・実装の一環として始まりました。
その中で位置づけられているのが、「学食」を舞台とした行動変容の実証です。

筑波大学の学食で提供される各メニューのカーボンフットプリント(CFP)を表示することで、
環境への負荷を見える化し、
学食利用者が「食の選択」を通じて、
環境に配慮したライフスタイルを考え、
行動に移すきっかけとなることをねらいとしています。

ただ、このプロジェクトが目指しているのは、特定の行動を促すことだけではありません。
むしろ大切にしているのは、食を選ぶ場面の中で、環境について考えるきっかけをつくることでした。
それは、誰かの中に何かが“引っかかる”状態をつくることでもあります。

『環境に良い行動をさせるというよりも、
誰かの中に引っかかって、自分で選んでもらえればいいと思っていました。』

この考え方が、プロジェクト全体の設計に大きく影響しています。


変化は「2年目」から始まっていた

この取り組みは、2023年から段階的に進められてきました。

2024年度は、レシピのCO₂排出量算定などをSuMPOが担い、
プロジェクトの基盤づくりが進められました。

そして2025年度以降、大きな変化が起きます。
筑波大学の学生自身が、これまでの取り組みを強化し、
さらに算定や設計に関わるようになったのです。

その取り組みは、「与えられるもの」から「自分たちでつくるもの」へと変わっていきました。

その結果、学生たちの関わり方にも変化が生まれます。
そして、その変化は「伝わり方」の工夫へとつながっていきました。


簡単ではなかった「見えないもの」を扱う難しさ

もちろん、この取り組みは簡単なものではありませんでした。

例えば、レシピのCO₂排出量を算定するためには、
食材ごとのデータを一つひとつ紐づける必要があります。

・データベースに存在しない食材
・調味料の代替選定
・調理工程の違い

さらに、料理経験の少ない学生にとっては、
「この食材は何に近いのか」という判断自体が難しい場面もありました。

『食材を一つひとつ調べる作業がとても大変でした。』
『調味料の置き換えも、かなり悩みました。』

それでも試行錯誤を重ねながら、
「説明できる精度」と「現場で回る形」の両立を目指していきました。


行動は「情報の置き方」で変わる

特に印象的だったのは、学生たちがこだわったのが
「何を伝えるか」ではなく、「どう伝えるか」だったことです。

ある学生はこう語ります。
『自分たちが伝えたいことを、
どうすればちゃんと伝えられるかを考えました。』

専門的な情報をそのまま出すのではなく、
同じ学生にどうすれば届くのかを考える。
その視点が、このプロジェクトの質を大きく変えました。

今回の取り組みでは、情報の見せ方にも多くの工夫がありました。

赤・黄色・緑…券売機のボタンに直接表示
足元の誘導サイン
アンケート回答でギフトカードが当たるQRコードも掲載

従来のポスター掲示だけでなく、
・券売機のメニューボタンに直接表示
・足元に誘導するサイン
・CO₂排出量を色で示す三段階表示
・テーブルごとに説明札
など、「選ぶ瞬間」に情報が届く設計が取り入れられました。


「醤油ラーメン1杯=学内の噴水1時間分の稼働」

筑波大学では、中央の噴水が“ランドマーク”として親しまれています。

「学食の醤油ラーメン1杯は、中央図書館前の広場の噴水1時間の稼働分(電気使用量)と同じ!」

その身近な存在と結びつけることで、CO₂排出量を直感的に理解できるようにしたのです。

”学費”の愛称で親しまれている噴水は不定期だそうです(この日は見られず)

抽象的な数値ではなく、
「自分の生活の中で実感できる単位」に置き換えることがポイントでした。


学生たちがつくった「伝え方」

こうした「どう伝えるか」という視点は、学食の中だけにとどまりません。

手作りカードゲーム

外部イベントでの発信に向けて、学生たちはカードゲームやしおりの制作にも取り組みました。

カードゲームでは、和食や洋食のメニューを組み立てながら、
・植物性か動物性か
・近くで生産されたものか、遠くから運ばれてきたものか
・どのように調理されたか
といった視点で、どの選択が環境負荷が低いのかを考えていきます。

段階的に理解できるよう設計されており、
ライフサイクルの考え方を“体験”として学べる仕組みになっています。

また、食事の前後の意味を考えるストーリー型のしおりも制作され、
日常の行動の中で環境を捉える工夫も行われました。

『どうしたら伝わるかを、みんなで考えて作りました。』

ただ正解を教えるのではなく、自分で考えるきっかけをつくる。
その姿勢が、これらの制作物にも表れています。


「迷うようになった」ことが変化

では、変化はどこに現れたのでしょうか。

それはまず、プロジェクトに関わった学生自身の中にありました。

『自分自身、どちらを選ぶか迷うようになりました。』

強制されるわけではない。
しかし、選択の中に新しい軸が生まれる。

価格や好みだけでなく、「環境」という視点が加わる。

その小さな変化が、行動を変えていきます。


学びは、行動を“変えようとしない”ときに変わる

この取り組みが示しているのは明確です。

人は、教えられて変わるのではありません。
気づいたときに変わります。
そして、その小さな気づきの積み重ねこそが、行動変容の出発点なのかもしれません。

そしてその「気づき」は、
・自分で関わること
・自分の言葉で伝えること
・日常の中で触れること
によって生まれます。

このプロジェクトに参加した学生たちは、まさにそうした経験を重ねてきました。


学内から社会へ

この取り組みは、さらに広がろうとしています。
いまは大学内に留まらない形での実施に向けて準備中です。

「学食」という場で生まれた実証は、大学の外へも広がろうとしています。


最後に

環境に取り組みたい。
そう思っていても、何から始めればいいか分からない。
そんな人にとって、このプロジェクトは一つのヒントを示しています。

大切なのは、大きな行動ではありません。
日常の中に、小さな“気づき”をつくること。
その積み重ねが、行動を変え、社会を変えていきます。

そしてその最初の一歩は、
今日のごはんから、始まっているのかもしれません。


■インタビューにご協力いただいた皆さま

本記事の作成にあたり、以下の皆さまにインタビューおよび取材協力をいただきました。

・筑波大学 関係者の皆さま
・本プロジェクトに参加された学生の皆さま

★お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。


■筑波大学について

1973年開学の国立大学。
学問分野を横断する教育・研究体制を特徴とし、「学際性」と「実践」を重視した取り組みを行っています。

つくば市の広大なキャンパスを活かし、教育・研究に加えて社会実証の場としても機能しており、近年はカーボンニュートラルやサステナビリティ分野での実践的な取り組みも進められています。

本プロジェクトは、教育・研究の一環として進められながら、実際の学食という日常の場を活用した社会実証としても位置づけられています。

■公式サイト

筑波大学 × SDGs _DESIGN THE FUTURE機構 | Organization for DESIGN THE FUTURE | University of Tsukuba – 筑波大学はSDGs達成とその先を見据えた様々な教育研究活動で社会に貢献します。

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(2025/11)学食メニューのCO2見える化プロジェクト(学食プロジェクト)2025 11月17日(月)~12月19日(金)開催! – 筑波大学 × SDGs _DESIGN THE FUTURE機構 | Organization for DESIGN THE FUTURE | University of Tsukuba


次回予告

「食×CO₂」の取り組みは、企業、CSR、そして現場へと広がってきました。
では、こうした取り組みは、どのような未来を目指しているのでしょうか。

次回は、本連載のまとめとして、「生活者行動変容」という視点から、これまでの取り組みを振り返ります。


📖 連載:今日のごはんのCO₂

食事の選択が、環境と社会をどう変えるのか。
社員食堂・大学・企業の事例を通じて、「食×カーボンニュートラル」の可能性を探るシリーズです。

※本マガジンは、SuMPOマーケティング事業室 note編集部が企画・編集しています。

【問い合わせ先】
一般社団法人サステナブル経営推進機構
経営企画本部 マーケティング事業部 マーケティング事業室
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