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ワインは大人が我慢を美学にした味だと思う話

大人になって初めて飲むワインのガッカリ感は、けっこうえぐい。

あれ、かなり期待して飲むから余計にしんどいのだと思う。
見た目は洒落ている。
グラスもきれい。
映画やドラマでは、だいたい大人がいい顔をして飲んでいる。
食事と合わせると最高、みたいなこともよく聞く。
なんなら「ワインが好き」と言う人には、少し人生をわかっている感じまである。

だからこっちも思う。
これはたぶん、大人の扉の向こう側の味なのだろう、と。

で、飲む。

渋い。
酸っぱい。
苦い。
なんか木。
なんか土。
なんかよくわからんけど、ジュース的な優しさがひとつもない。

なんやこれ?

私はこれ、かなり正直な反応やと思っている。
ワインは、初手で「うまっ」となる酒ではない。
少なくとも、甘いものや炭酸やビールの爽快さに慣れた口には、かなり不親切だ。

しかも厄介なのは、ワイン好きの人たちがそれをあまり言わないことだ。
あの人たちは、最初のガッカリを超えたあとの世界を語る。
香りがどうとか、余韻がどうとか、料理との相性がどうとか、そういうことを言う。
もちろんそれは本当なのだろう。
でも、こっちとしてはまず入口で転んでいる。

入口が全然おいしくない。

私はたぶん、ワインは大人が我慢を美学にした味なんだと思っている。

ここで言う我慢って、嫌々飲むという意味ではない。
もっと上品な我慢だ。
すぐにわかりやすい快楽を出してこないものを、じっと受け止める我慢。
一口目のインパクトで「優勝!」とはならないものを、ちゃんと味わおうとする我慢。
そういう、大人っぽい忍耐がワインには少しある。

だから最初にガッカリする。

私たちは普段、もっとわかりやすいおいしさに囲まれている。
甘い。
しょっぱい。
脂がある。
冷たい。
炭酸で気持ちいい。
そういう、「おいしいです」がすぐ届くものに慣れている。
でもワインは、そこがだいぶ遠い。

飲んだ瞬間に全員を幸せにしようとしていない。
むしろ少し突き放してくる。
わかる人だけわかって、みたいな顔をしている。

あの感じがまた腹立つのである。

なんで酒にまで試されなあかんねん、と思う。

ビールにも最初の壁はある。
苦いし、子どもの頃は何がうまいのかわからない。
でもビールには、まだ喉で飲む快感がある。
暑い日に飲めば、理屈を飛ばして身体に入ってくる感じがある。
ハイボールも、チューハイも、焼酎ソーダも、ある種のわかりやすさがある。

でもワインは、そういう逃げ道が少ない。

口の中にしばらく残る。
香りも余韻も含めて、全部まとめて受け止めろと言ってくる。
そのわりに、最初はあまりやさしくない。
そらガッカリもする。

たぶんワインって、「うまい」より先に「こういうものとして飲む」という了解が要る酒なのだと思う。

つまり味そのものより、文化や空気や文脈ごと飲んでいる。
料理と合わせる。
温度を気にする。
香りを取る。
品種を話す。
産地を気にする。
そういうものが周りにずっとついてくる。

私はそこも含めて、ワインってかなり大人の飲み物だなと思う。

若い時の酒って、もっと雑でいい。
うまい。
楽しい。
酔える。
それで充分だ。
でもワインには、その雑さを少し嫌う感じがある。
ちゃんと向き合ってください。
ちゃんと味わってください。
この渋みの意味も引き受けてください。
そう言われている気がする。

だから、大人になって初めて飲むワインのガッカリ感って、たぶん味だけの話ではない。
「大人の世界ってこんな感じなんや」という、ちょっとした幻滅まで入っている。

もっと華やかなものかと思っていた。
もっとすぐ好きになれるものかと思っていた。
でも実際は、渋くて、酸っぱくて、少し難しい。
そこに、大人になることそのものの拍子抜けが少し混ざる。

私はこの感じ、嫌いじゃない。

いや、ワインは別にまだそこまで好きじゃないのかもしれない。
でも、「大人の味って、こういうガッカリから始まるんやな」という感覚は、なんかわかる。

大人って、全部がきらびやかなわけではない。
自由はある。
選べるものも増える。
でも、そのぶん、わかりやすい甘さや正解から少し遠くなる。
ワインって、その象徴みたいな顔をしている。

一口目で全員を喜ばせない。
でも、わかる人には深い。
この感じ、ちょっとずるい。

だから私は、ワインを前にして「なんか微妙やな」と思う人のことを、かなり信用している。
あれは味覚が子どもなのではなく、反応が正直なだけだと思う。
だって本当に、最初はそんなにおいしくないからだ。

それでも飲み続けているうちに、ある日ふと「これ、前より嫌じゃないな」になる人もいるのだろう。
料理と合った時に急にわかることもあるのだろう。
年齢を重ねて、苦みとか渋みとか、すぐに答えをくれない味に意味を見出せるようになるのかもしれない。

そう考えると、ワインはたしかに大人の飲み物だ。

わかりやすくない。
すぐに報われない。
でも、そのわかりにくさごと受け止める人には、ちゃんと深さがある。
それって、ちょっと人生みたいでもある。

とはいえ、初手のガッカリ感はやっぱり強い。
そこは正直に言いたい。
洒落た顔して出てくるくせに、最初の一口で「え、これ?」となる酒、なかなかない。

だから私は今日も思う。
ワインって、大人が我慢を美学にした味なんよな、と。

そして、あの最初のガッカリを乗り越えてなお好きだと言える人たちは、たぶん味覚だけじゃなく、生き方のどこかも少し大人なのだと思う。

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