ちくちく、走る(有名人との恋)
サービスエリアのラーメンって、どうしてあんなに麺が伸びているの。
どうしてスープもやたらと塩辛いんだろう。
だけど。
当時の私たちは、それをなんだか特別なごちそうみたいに思っていた。
ずずっ。
ずるずるっ。
いかにもおいしそうにすすったものだ。
彼はJリーグプロサッカー日本代表選手(МF)で、東京でひとり暮らしをしていた。
遠距離恋愛のややこしいスケジュールをやりくりしながら、私はせっせと彼のマンションへ通った。
ドアを開けると、男の人のひとり暮らしにありがちな、少しすえた匂いがぷぅーんと部屋にこもっている。
私は着くやいなや窓をガラッと全開にして、掃除機をかけ、たまっていた洗濯物をてきぱきと片付けた。
彼はソファにごろんと横になって漫画を読みながら、「いつも悪いねえ」と言う。
全然すまなそうじゃない、のんきな声。
帰りは決まって、彼が車で送ってくれた。
「名古屋まで送るよ」
そう言って、自慢の四駆のアクセルを踏み込む。
アスリートらしい、迷いのない思い切りのいいスピード。
私たちは流れる景色を眺めながら、まるでお天気の世間話でもするように、お互いの浮気の報告をし合った。
「先週、ちょっと女の子と飯食いに行ってさ」
「あ、そう。私はこの前、仕事の人と飲みすぎちゃって」
私たちは、お互いをちっとも縛りつけない。
私には昔、婚約者を病気で亡くしたという、心の奥の重たい引き出しがあった。
誰かに強く執着することがどれだけ危ういか、身に染みて知っていたのだ。
彼の方も、いつクビになるかわからない不安定な人気商売。
お互いに、今が楽しければそれでいい。
そんな、どこかさっぱりとした、だけどたまらなく居心地のいいお決まりの毎日が、数年続いた。
変化は、ある日ぽつりとやってきた。
「そろそろ、ちゃんとする?」
彼が何気ない風を装って、結婚を匂わせたのだ。
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