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アンチ・ウェディング(ショートショート)

アンチ・ウェディングとは、従来の形式的なセレモニーへの嫌悪感から、費用や準備の手間を省いた合理的で自分たちらしい自由なスタイルを好む傾向のことです。
結婚式の全てを否定するのではなく、多様な価値観を肯定し、柔軟な発想で「結婚式とはなにか」と考えることが大切です。



その郵便物は配達日指定で送られてきた。指定日は2月29日となっていたが、届いたのは28日だった。そう…今年は29日がないからだ。

封を開けてみると、友人からの結婚式の招待状だった。挨拶文の下に、普通なら
『二月吉日』と書くところ、
『二月末日』となっている。初歩的なミスだ。

いや間違ってはいない。今日は確かに末日だ。だから配達日指定だったのか。あいつはどうもピントがずれている。

しかしあいつは前々から「型にはまった結婚式なんてやりたくない」って言ってたのに意外だな。へぇ…結婚式やるんだ。

まぁ相手のこともあるしな。

女性の名前には見覚えがなかった。いつの間にあいつ、うまいことやりやがって! いっちょからかいに行ってやるか。

*

当日。
会場に着くと、すぐにチャペルに通された。
受付は? ご祝儀ちゃんと用意して来たぞ。

チャペルに入ると新郎新婦はすでに祭壇の前に立っていた。新婦と父のエモい入場とか無いのかよ…

てか後ろ向きで顔が見えないけど、あれ新郎新婦だよな。やけに普段着っぽい。

「定刻になりましたので、式を始めます」

牧師が問う。

「あなたは○○を妻とし、病める時も、健やかなる時も、富めるときも、貧しき時も、死が二人を分かつまで、これを愛し、これを敬い、その命の限り、共に歩むことを誓いますか?」

新郎は「いいえ」と言った。

「一生なんて断言できません」

ここで「はい」以外の答えがあるのか⁈ しかし牧師は特に驚いた様子もなく寛容な微笑みを浮かべながら参列者の方を向くと、

「このふたりの結婚に異議のある方はいますか」と問うた。

こんな時にこそ、この質問が生きてくる。異議を唱えるなら今しかない。誰か手を挙げる人はいないのか。特に新婦の家族!友人!こんな奴と結婚させていいのか。ダメだろう。しかし誰一人として異議を唱える人はいなかった。

*

挙式の後はレストランに案内された。

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

えーっと、俺はランチに来たのか? 披露宴ってこんな感じだったっけ?
地元の同級生5~6人でテーブルに着くと、

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

ご注文?

「本日の披露宴は自腹です。お好きなものをご注文ください」

自腹……変わった趣向の披露宴だな。好きなものを注文できるのか。

グランドメニューにはコース料理からアラカルトまでいろいろあったが、ランチセットは無かった。あ~今日は日曜日だからか、サービスランチは平日だもんな・・・いやいや違う。祝いの席だ。ここはコース料理だろう。とりあえずビール、と。

周りを見るとどのテーブルでも各々料理や飲み物を注文し、届いた順に食べている。皆で乾杯しないうちに食べていいのか。

キャビアのオードブルを食べながら、ふと隣の友人を見ると、彼はなんと焼きそばを食べていた。

バカかお前は!披露宴で焼きそば食べるなんて失礼だろ。カネの問題じゃないんだよ。ちゃんとしたもん食え。

「好きなもの食べていいって言ったよ?」


ま…まぁな…焼きそばが失礼とか意味不明だったな。すまん。

遠くのテーブルから「かんぱーい!」という声と拍手が聞こえた。見るとその輪の中に新郎がいた。

いつの間に。
挙式に続きここでも新郎新婦入場は無かった。さらに、隅っこの方にウェディングケーキがあったが、ふたりが入刀する気配はなく、

「ご自由にお取りください」

と店員がドリンクバー的なテンションで言った。ケーキは新郎新婦のおごりらしい。洒落た計らいしやがって。あいつにしては気が利いてるじゃないかと一瞬喜ぶ。まぁ俺はケーキは食べなくてもいいが。

「今日はありがとう!」

新郎が我々のテーブルまでやってきた。

「おめでとう!」
「かんぱーい!」


新郎は蝶ネクタイがプリントされたTシャツを着ていた。胸元に大きく『新郎』と書いてあった。お前ホントにバカだよな。まさかその格好で挙式もしたのかと聞いたらそうだと答えた。彼女とおそろコーデだと胸を張る。

ところで新婦は?

「ああ、友だちとカラオケに行ったよ」

まぁそんなことも…ある……あるのか? あるのかもな。苦笑

隣の席の友人は、焼きそばを食べ終えると「じゃ」と言って帰って行った。他のテーブルの人たちも三々五々、「ごちそうさん」などと言って会計を済ませ帰って行く。

ちょっと待て。おかしいだろ。

まだ1時間くらいだぞ。披露宴って自分のタイミングで勝手に帰っていいのか? 「お見送りの準備が整うまで暫くお待ちください」とかいう慣習があるだろう、この国には!

それはそうと、俺はまだご祝儀を渡していない。ポケットから祝儀袋を出すと新郎は、

「いいのいいの、この店からマージンもらうから」

と潔く辞退した。
マジか。因みに……

「売上の30%」

なんだ、その仕組み。

いくら型にはまらない自由な結婚式とはいえ、あまりにも型破りすぎやしないか。結婚式をしたくない人がやる結婚式の中でもダントツだな。

「いっぱい食べてね!」

最早アンチというよりイノベーションだな。
新郎新婦・会場・ゲスト、三方良しのシステムを構築したな。


新郎は俺の向かい側に座ると、チーズをつまんでワインをゴクゴク飲み、ガハハハと笑った。




「嘘だから」



え、なにが?

なにが嘘なの?
どこから嘘なの?



「ぜーーんぶ、うそ」



*
🐤🐤🐤(ぴよぴよ)
*


今日は4月1日、エイプリルフールだ。

俺は友人の結婚式にやってきた。

嬉しそうに笑う友人を祝い、心から幸せを祈った。久しぶりに地元の旧友にも会えて楽しかったし、キャビアも美味しかった。

借り物の衣装を着なくても、入場シーンやケーキ入刀が無くても、大して問題じゃない。

誓いの言葉に「いいえ」と答えた時だって、あいつは昔からクソ真面目なのだと妙に納得した。

全部、嘘?

「ぎゃ、逆に…嘘じゃない、ともいえるんじゃないか?」



俺は最後まで友を信じようとした。

俺たちの友情は嘘じゃないよな?



気がつけばゲストはもう誰もいなくなり、店員がカチャカチャと皿を片付ける音だけが辺りに響いていた。


※このお話はフィクションです



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