床が収納の弟と、クローゼットが収納の私
弟の家は、いつ行っても床が見えない。
昔は、
「昨日まで試験だったから」
とか、
「最近ちょっと忙しくて」
とか、毎回ちゃんと言い訳をしていた。
しかし、五回行っても十回行っても、床が見えていたことが一度もない。
だんだん私は、
――さて、今回はどんな理由が飛び出すんだろう。
と楽しみにするようになっていた。
弟は数字に強く、方向感覚も異常にいい。
時刻表を読み込み、路線図を頭に入れ、家には電卓が十台くらい転がっている。
その代わり、物も転がっている。
ありとあらゆる場所に。
一方、私は片付けが好きだ。
白い収納に物をしまい、なるべく視界の情報量を減らして暮らしている。
昔は引き出しに九割くらい詰め込んでいたが、最近は少し学習して、取り出しやすいように余白も作るようになった。
そんな私の家に、ある日、弟がやってきた。
部屋を見回し、
「きれいにしてるねえ」
と言った。
珍しく褒められた気がして、私は少し嬉しくなった。
しかし、その直後である。
弟は収納の扉を開け、中を見て言った。
「でも、収納の中、物でいっぱいだね」
私は驚いた。
いやいや。
収納の中に収まっているなら、いいじゃないの。
あなたの家は、床が収納になっているではないか。
しかし弟は、まったく悪気のない顔をしていた。
どうやら弟にとっては、
「見える場所に置いてある」
ことこそが、自然な収納らしい。
人類には、いろいろな生存様式がある。
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ささやかな日常の欠片を、これからも綴っていきます。
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