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#023 愛宕

クリエイター シンハです。
前回に引き続き、日本に残される『歴史物』と、そこに重ねられてきた”想い”に触れることで、現代を生きる私たちの糧となり得る、解釈や気づきを、備忘録も兼ね、お届けします。


前回の記事では、
「平家物語/源平盛衰記」における『宇治の橋姫』伝説に触れました。

この物語の中で、橋姫が源頼光の家臣、渡辺綱の前で、鬼の姿を現す場面があります。この時、鬼と化した橋姫が、渡辺綱に放った言葉があります。


「いざ、我が行く処は愛宕山ぞ」


今回は、この『愛宕』をキーワードとして取り上げ、観察していきます。

このシーンでは、橋姫が愛宕(あたご)山へ渡辺綱を連れていこうとする場面が描かれているわけです。

なぜ鬼の橋姫は人間を愛宕山へ連れていこうとしたのか、物語の中における理由についても、様々な考察を広げることができますが、

ここでは前回の記事でお伝えしたように、
「この物語自体が、読み手に与える役割とは…」
という視点で眺めると、新たな解釈を見出すことができます。

まず、このシーンが果たす役割は、

『恐ろしい存在によって、恐ろしい場所へと、連れていかれる』
ことにより、読み手に恐怖を与えている、

と捉えることができます。

『恐ろしい場所』の象徴として、『愛宕山』が用いられている、ということになりますが、

当時多くの人が目にする物語で用いられていることから、それ以前から『愛宕山』は、多くの人にとって『恐ろしい場所』として認識されていた、

もしくはこの「源平盛衰記」によって、益々多くの人にとって『愛宕山』が『恐ろしい場所』として認識されていった、と捉えることができます。

いずれにせよ、『愛宕山に近づかせない力の働き』が見えてきます。

著者や、物語の作成を命じた者が意図的にそう描いたのか、そうでないのかは完全には明らかにできないですが、『愛宕山』というキーワードを掘り下げていくと、『天狗伝説』『山伏』など、『山には容易に近づかせない、時代毎の様々な力の働き』を感じ取ることができます。

愛宕というと、京都の愛宕山、愛宕神社が有名ですが、

『愛宕山』と呼ばれる山は、全国でも100以上、地域名を含めるとそれ以上存在しています。

さらに、『愛宕』と名のつく神社は、1000以上です。

1000以上となると、現代に置き換えると、レストランチェーンのガストやサイゼリヤなどの店舗数に相当します。

これだけ広範囲に、且つ時空を超えて今もなお名を残している、という事実から、歴史の教科書では、さほど取り上げられていないことに違和感を感じるほど、とても大きな影響力を持つ言葉、名称、場所であることがわかります。

それほどの影響力を持つ『愛宕山』には、神仏分離・廃仏毀釈が行われる以前までの長い歴史の中で、

『イザナミ』『将軍地蔵』『カグツチ』『猿田彦』など、多くの『神仏』『信仰』が重ねられ、祀られてきました。

そして、特に広く深く全国的に浸透している『愛宕』を象徴する存在が、愛宕神社に祀られる『火伏の神様』ではないかと思います。

『迦具土/軻遇突智(かぐつち)』や、『火産霊(ほむすび)』など、様々な別称を持つ神様で、『火を司る神』として広く認識されています。

『火』と、それが持つ『熱』というエネルギーは、

命ある者を、生かし活かす力にも、殺す力にもなる、偉大な自然界のエレメントです。

これを『火を司る神』として、全国で『愛宕』の名とともに鎮座しています。

合わせて、火に神威を受け畏敬の念を忘れずに生活してきた先人達の教えであり戒めの言葉『火迺要慎(ひのようじん)』と、

これらに重ねられた”想い”は、長い時を超えて今でも多くの人の心に紡がれています。

ここまでを整理すると、

『全国広範囲の山々』には、

『火の神』なる存在が祀られ、

『容易には近づけない』様相があり、

『これを象徴する建造物、言葉、”想い”』が、

『時空を超えて紡がれている』ということがわかります。

前回の記事で触れた『瀬織津姫』と呼ばれる神は、水の神でした。

水とは洗い流す、『清める力』を持ち、火は焼き払う、『祓う力』があります。

これらの力を持つ神々が、全国各地の『海』や『山』に祀られている、という事実と歴史の上で、私たちの社会が循環しています。

『海』と『山』の関係性を観察すると、自然界が見事に描く、絶妙な相互関係が見えてきます。

例えば、私たち人間は生活の様々な場面で、『海』から沢山の恩恵を受けています。

『海』に住む命を食材としていただき、それらの命からいただく栄養素、水や塩で身体をつくり、

そのための交易も、『海』を渡って行い、これを職として経済も動かしています。


私たち人間は『海』に生かされています。


この『海』の質を決めるのは、『山』と言われています。

『山』が蓄え持つ栄養は、川を通じて『海』へと届けられ、『海』の質を保っています。

そのため専門家は口を揃えて、「山が痩せると、海が痩せる」と言います。

原因はひとつではありませんが、栄養を失いつつある『山』が増えていて、その影響は『海』にも既に届いています。

結果、人の身体にもその影響は届きます。


私たち人間は『山』にも生かされています。


このように、人間が『海』『山』に生かされているという事実を眺めていると、

人間も『海』『山』を生かす力として在りたい、という気持ち、”想い”が生まれてきます。


神仏分離・廃仏毀釈により、およそ150年間をかけて、『信仰』という概念が失われてきましたが、それ以前まで続いていた数千年以上の”想い”の蓄積は、簡単に消えることはありません。


日本語における『神』や、私たちや先祖代々から引き継がれた”想い”を、

『自然界における力学的エネルギー』として科学的な視点で捉えても、

水神信仰や山岳信仰など、数千年、数万年の時を超えて、
自然を『信仰』する”想い”と、これを象徴する寺社仏閣が今もなお残り続けていることに、深く納得ができます。


そういった解釈、視点で歴史を見ると、『愛宕』のように、全国の山々に名を当て、象徴的な建造物を残し、どの時代を切り取っても、一部の専門家だけが山に入り、そうでない場合は容易に近づくこともせず、人工的な手を加えすぎることもしなかった当時の精神性、紡がれてきた”想い”に、胸を打たれます。


『愛宕』というひとつのキーワードを掘り下げるだけでも、私たちはの解釈は揺り動かされます。

私たちの人生や世界は、常に創造と破壊を繰り返しています。

その循環の起点、始まりを、目の前の『事実』に置くと、人生も世界も固定された不自由なもののように見えますが、

始まりを、自身の『解釈』とすると、人生も世界も、自由なものになります。

人生、世界を、『活かす解釈』を、選択する自由を、私たちは持っています。

自身の過去や、歴史に触れ、これを俯瞰することで、奥に秘められた”想い”に気づき、これによって『活かす解釈』を選択し、『自由』を思い出すことで、私たちの閉じかけた未来は、開かれていくのだと思います。




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○下巻(note掲載 【#010操觚】〜【#014回帰】)111p

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