『豊臣兄弟!』第27回「本能寺の変」を見届けた感想
きのうの投稿では、『豊臣兄弟!』第27回で本能寺の変がどう描かれるのか、まだ放送前でわからないまま記事を書きました。そして実際に見届けた今、僕のなかには、本能寺の変に至るまでの、かつてないほど「人間臭い」物語を目撃したという余韻が残っています。
今回は、放送を見終えて感じたことを、あらためて整理してみます。
『豊臣兄弟!』の本能寺の変!
本作の本能寺の変、その軸にあるのは光秀の突発的な決断。そこに、織田信澄が父・信勝の仇として伯父・信長の命を狙っていたという、大胆な仮説を重ねてきました。さらに、近年本能寺の変の原因の一つに挙げられている長宗我部元親との関係悪化や、以前から唱えられてきた足利義昭・徳川家康の黒幕説まで匂わせる展開。
史実と従来の諸説、ドラマとして盛り上げるための仮説、そしてだれもが持つであろう人としての弱さや業。それらすべてをうまいこと組み合わせ、本能寺の変という、日本史上でも類を見ない謎に満ちた事件を、一つのドラマとしてまとめ上げてきたなと感心しています。
ただし、信澄と光秀が共謀した証拠はなく、長宗我部元親との密通を示す史料もありません。史実を重んじる人には、無理のある展開、いわゆるトンデモストーリーに見えたかもしれません。
僕自身、秀長が燃え盛る本能寺を見上げていたとき、「どうして君がそこにいる?」と突っ込みたくなりました。主人公を事件に絡ませたい意図はわかります。ただそれが、本当に必要だったのかはいまだに疑問。
復讐に生きた信長の甥・織田信澄
今回僕がとくに感心したのは、織田信澄の描き方です。何十年も前のことですが、僕が初めて彼を知ったとき、いちばん驚いたのは「信長に処された弟・信勝の息子」という事実でした。
父の信勝は、二度にわたって兄・信長への謀反を企て、最後は信長に殺されています。にもかかわらず、信長はその子である信澄を殺さず、柴田勝家に養育させて一門衆として厚遇しました。当時の僕は、「父を殺した人間の家臣として仕えることに、彼は何の疑問も持たなかったのだろうか?」と、理解しきれない部分がありました。ただ、信澄が何かを企てたという記録はなく、むしろ信長の期待にしっかりと応えていたようです。だからこそ、「戦乱の世だから飲み込むしかなかったか」とか、「父の失態があったからこそ、伯父に身命を賭そうと決めたのか」など、自分なりに理由をつけて納得したものです。
それだけに、本作が「実はだれよりも信長の死を願っていた」という仮説を提示したとき、最初に思ったのは、「その解釈を持ち込んできたか」ということでした。確たる史料がないからこそ、彼の心の奥底にあったかもしれないドロドロとした感情を描き出す。現代人の感覚からすれば、むしろそのほうが自然に思えます。あの時代を生きた人間の感覚とは違うのかもしれませんが、ドラマのストーリーとしては腑に落ちるものがありました。
頂点に立つ信長の孤独
本作では、信長が抱える人としての弱さが、ちらちらと垣間見えていました。見据える天下のビジョンが実はおぼろげであったり、いつまでも弟・信勝を処したことを悔やみ続けていたり。傍から見れば破天荒で常軌を逸した振る舞いを見せつつも、その内情は、だれもが思い悩むような、ごく当たり前の葛藤に満ちていました。しかも、組織のトップという立場ゆえ、その本音をだれにも打ち明けられない。そんな孤独を抱えていたのが、本作の信長だったのだと思います。
その孤独は、最期の瞬間に極まりました。天下一統を目前にしながら、だれにも看取られることなく、たった一人、脇差で腹を切る。少しうめき声をあげ、体を前にかがめながら息絶えていく姿はあまりにも寂しく、儚いものでした。小栗旬さんの演技が、なおさらそう感じさせたのかもしれません。
さらに印象的だったのは、あの有名な「是非もなし」というセリフの扱いです。本来は明智軍に囲まれていると分かった際に発したとされる言葉。しかし本作では切腹の間際、まさに命を終えようとする前に発しています。狂喜に満ちたような表情で。強者を演じながら、その内側では迷い続けていた一人の人間としての信長。その本質が、あの「是非もなし」に凝縮されていたように思えます。
翻弄され、壊れゆく光秀
きのうの記事で「大事な場面でかまないか」と勝手に心配していた、明智光秀役の要潤さんについて触れておく必要があるでしょう。結果は言うまでもなく、杞憂に終わる最高の演技でした。
今回の光秀が織田信長を裏切る決定打となったのは、信じて疑わなかった公方さま(足利義昭)に裏切られ、発狂したことでした。「そんな理由で信長を裏切るのか?」と思う人もいるかもしれません。しかし、比叡山延暦寺の焼き討ちをはじめとする信長の横暴に、光秀が耐え抜いてきたのは、公方さまの思いをいつか成就させるためだった――そう考えれば、張り詰めていた精神の糸がプツリと切れてしまうのも理解できます。
公方さまと信長という、両極端な二人のカリスマの間で板挟みになり、翻弄され続けたあげく、とうとう心が壊れてしまう。その悲哀と狂気を見事に演じ切った姿には、ただただ圧倒されました。本作の明智光秀役が、あの要潤さんで本当に良かった。
本能寺の変は、まだ終わらない
本能寺の変は起き、信長は退場しましたが、光秀はまだ生きています。秀吉は、本能寺で起きた変事をまだ知りません。信長の死は、秀吉にどのように伝わるのか。そして、中国大返しから山崎の戦いまでをどう描くのか。柴田勝家の北陸大返しも描かれるのか、気になるところ。
『豊臣兄弟!』、次回以降もまだまだ楽しめそうです。
