淡雪のように【毎週ショートショートnote10/12裏】
(画像は生成AIによるもの。ImageFXを使用。)
次の企画への参加記事です。
お題:『メルトダウンする伯爵』
冬の館に、伯爵の怒号が響いた。
「まだか! まだメルティー〇ッスは届かぬのかっ?!」
そのチョコは『至福の融雪』とも呼ばれる逸品で、最高の口溶けを追求するあまり、わずかな熱でも姿を保てない。ゆえに、気温の高い季節には流通に乗せられず、冬の短い間しか手に入らぬ幻の菓子だった。
使いの者たちが吹雪の街へ次々と駆り出される。しかし誰ひとり戻らない。ある者は雪に倒れ、ある者は恐怖に逃げた。伯爵は苛烈で、役目を果たせぬ者は、情け容赦なく罰を受けた。人々は彼を『氷の伯爵』と呼んで恐れる。
段々と人の姿が消える静寂の館で、暖炉の火だけ赤く揺らめく。
やがて、老執事が静かに戻る。
「お待たせ致しました、旦那様。」
銀盆の上には、黄金の包みに輝くチョコレート。
伯爵は大いに喜び、満面の笑みでそれを口にした。
瞬く間に甘美な香りが広がり、頬が蕩け落ちる。
次いで腕が、
胴が、
床に溶けて消えて行く…
老執事は一礼し、微笑んだ。
「どうやら、暖房が利き過ぎていたようですね。」
