見出し画像

書評「戦闘国家」(小泉悠、小谷賢  PHP新書)を読んで~国論を二分する? 日本のインテリジェンス=諜報を考えるヒントな一冊~

こんにちは。2月も2回目の三連休、いかがお過ごしでしょうか。

ミラノコルティナ五輪も閉幕ですね。今年も数々の名場面、感動のシーンに接することができました。

特に全世界がキナ臭くなっている昨今、スノーボードやフィギュアをはじめ、「〇〇国の代表」という枠をこえて、互いに「個」として健闘をたたえあう姿は、とくに目に染みました。

やっぱり平和っていいもんですね。貴重です。

これほど「五輪は平和の祭典である」と再認識させられた大会は、個人的には過去になかった気がします。

今回は、そんな昨今と少し関係ある新書、「戦闘国家」のご紹介です。

いま話題の「国論を二分する」かもしれない高市政権の看板政策のひとつ、「スパイ防止法」「国家情報局」などが、なぜいま問題になっているのかが、わかる本です。

さすがこの分野の専門家お二人による対談なので、ほんの数時間でポイントをつかむことができます。また、インテリジェンス(諜報)に関する専門書の世界に足を踏み入れていこうかなと考えるきっかけにもなりそうで、おすすめです。※サムネイル画像の出典はこちら


ロシアとイスラエルの諜報体制&日本はどうする?という本

まず、本の概要です。
タイトル:戦闘国家 ~ロシア、イスラエルはなぜ戦い続けるのか~
著者:小泉悠、小谷賢
出版社:PHP研究所 PHP新書
発行:2025年10月9日 1刷 
分量とお値段:234ページ 税別1000円

あまり従来の新書には見られない派手なカバー!。中身は対談

続いて、いつものとおり、カバーやオビの紹介です。
上のリンクをみてわかるとおり、PHP新書さんのカバーデザイン方針は存じ上げませんが、新書にしては本書はかなり派手なビジュアルのカバーです。オビはありません。派手なカバーがオビを兼ねている印象です。

以前ご紹介した「国宝」(朝日文庫)は、オリジナルのカバーのうえから映画用のカバーを重ねて売ってました。こちらはこの派手なカバーだけ。

従来の新書は「落ち着きある教養もの」という印象ですが、これは「即時的に今売れればいいや」という印象が伝わってきます。

確かに中身はウクライナロシア戦争や、ガザやイランを相手にするイスラエルの侵攻。ニュース性が高い内容ですから数年後には古びている可能性が高い。細く長く売ろうとは思っていない本、という印象です。

ただし、お二人とも当代注目の(少なくとも私には注目のw)気鋭の若手学者同士ですから、興味深くさくさく読める対談に仕上がっていました。

すごくわかりやすい内容です。

世界を敵に回しても、という気概のオソロシイ両国

改めて、オビ=表紙、裏表紙を紹介していきます。
表紙には、大きく「戦闘国家 ロシア、イスラエルはなぜ戦い続けるのか」と書かれ、小泉さん、小谷さんの対談中らしき写真が大きくレイアウトされています。

背景色は、上部に赤、下部に青を用いている。これはなぜかわかりませんが、ロシアの国旗の色のようでもある。赤背景に小泉さん(ロシア専門家)、青背景に小谷さん(本書中でイスラエルについて主に語る。イスラエル専門家というよりインテリジェンス全般が専門だと思いますが)。イスラエルの国旗は白地に青、中央に六芒星なので、いちおうこのあたりを意識したデザインのようです。

そして表紙のオビにあたるエリアに
「滅びる前に滅ぼす」先制攻撃を辞さない諜報大国の闇
の文言。なかなか刺激的です。。

裏表紙に行きます。
こちら上部はお二人の略歴。下部にオビにあたる文言。

本書の要点として、
「世界を敵に回しても進撃し続ける諜報国家」
●プーチンに忖度するロシアの諜報機関
●ロシア人にとって国境は「動くもの」
●「相手より先に殺せ」というユダヤ教の信念
●イスラエルにとってイランは「ラスボス」
●日本は米国に「生殺与奪の権」を握られている?
●スパイ防止法がどうしても必要な理由
==
と紹介されています。

■目次はというと、
●第1章:国家とインテリジェンス
●第2章:諜報国家ロシアの論理
●第3章:ロシアの軍事思想とウクライナ戦争
●第4章:「滅びる前に滅ぼす」イスラエルの信念
●第5章:イスラエル・ガザ・イラン戦争の行方
●第6章:日本がめざすべきインテリジェンスの形・

1章が序論、6章が最終章で「では日本はどうするか」論。
2,3章はロシア。
4,5章はイスラエル。

とてもわかりやすい構成です。

いくつか感想と今後の政局。何がポイントか

以下、ネタばれにならない程度に、読んだ感想です。
・ロシアの諜報組織の今とウクライナ侵攻との関係性がわかります。
・KGBは、戦前の内務省のような巨大官庁。ソ連崩壊時にいくつかに分かれた。プーチンもKGB出身だが、あえて統合せず分割統治しているのかも
・イスラエルの諜報組織の今とガザ侵攻、イランはじめ中東との緊張の関係性がわかります。
・イスラエル=モサド、だけでなくその他いろいろな組織がある。
・暗殺とか爆殺とか(ヒズボラのポケベル一斉爆破とか)、謀略にも長けている。
・両国とも、対外諜報、国内防諜、軍内の諜報部門 の3つは共通。

・また、本書のテーマではないので語られていないが、米CIAやアメリカのインテリジェンスコミュニティもちろん相当な実力。

3国とも、よく先制攻撃します。

情報力/諜報力があるから先制攻撃を辞さないのか? 先制攻撃したいから情報力/諜報力が高いのか。

ニワトリと卵、どちらが先なのか??

「これからの日本はぜひ諜報機能の強化が必要だ」という場合、それはどこまで考えてのことなのか?(先制攻撃する力を日本も持ちたいためなのか?)、連想してしまい、いささか不安にもなりました。

確かに戦前の日本はいろいろ先制攻撃してましたからね、、、

お二人のスタンスと版元のスタンスは違う?同じ?

本書の最後、第6章は、日本のインテリジェンス機関の在り方について専門家2人が論じていて興味深いです。

ここで、脱線しますが、版元であるPHP研究所が出している雑誌(ウエブ版)である「Voice」の記事が、この対談を2回にわたり取り上げています。

私はSmartnewsを通じてその記事に接したのですが、見出しは、
「日本版CIAは必要ない」 専門家がアジア最強と語る”国内の情報収集機関”
というものでした。

この見出しだと、え、この二人、この本全体から受ける印象とは違って、諜報機関不要論者なの??と思ってしまいました。

でも、厳密に読んでいくと、「謀略などオールジャンルを手掛けるような、ヒューミント=海外にスパイを送り出し諜報活動や謀略に当たらせる」ということまでは必要ない。それは時期尚早であり、まずは国内防諜はじめ、通信傍受(行政傍受)などができる体制は必要。

と言っているようです。そして、この記事は現在、Voice側では検索しても出てきません。

また、Voiceには、お二人の対談を紹介したもう一つの記事も出ていて、
その見出しは、
「日本は米国に生殺与奪の権を握られている? 安全保障を他国に委ね続けた代償」というものです。

このVoiceの2本の記事、一つの本(本書)をタネ本にしているにもかかわらず、まったく印象の異なる見出しを付けている気がします。

ま、編集していると、そういうことも起きますよね。人間ですから。

そういえば、PHP研究所は、松下幸之助が創設したと聞いたことはありました。松下政経塾をつくったような幸之助さんですから、論調はやや中道から保守寄りかな。

その点も踏まえると、この新書の味わいが深まるというものですね。

ちなみにPHPの意味は、Peace and Happiness through Prosperity"の頭文字なんだそうです。初めて知りました。


今国会で注目したい5つのポイント

かなり脱線しましたが、第6章からも見えてくる、インテリジェンスを巡る今国会での注目ポイントは、個人的には以下の5つかと思います。

★内閣情報調査室の国家情報局への格上げ
 ⇒国家安全保障局(NSS)と同格、クルマの両輪として機能させる
 ⇒内閣府内の組織変更だから大きな法案修正ではない? 閣議決定で?
 ⇒きちんと法案で通したほうが小手先感がなくていいのでは?

★対外情報庁(日本版CIA)
 ⇒日本も防諜=警察の公安組織、軍の諜報部門=自衛隊の情報本部はある。無いのは対外諜報組織。だからってホントにつくるのか?スパイは育成から大変。海外での諜報謀略まで許容するような「国柄」かどうか。
 ⇒どの組織を母体として作るか;公安調査庁だという説もあるようですが、外務省のCTU(カウンターテロ対策ユニット)を母体に説、それは無理(拒否)説色々。。

★対日外国投資委員会(日本版シーファス)
 ⇒これは経済安全保障、防諜、対日浸透阻止だから最もハードルが低そうなテーマ。国内でのスパイ活動(対外協力)を取り締まる論拠を与える
 ⇒ただ、考えてみれば対外諜報と国内防諜は表裏一体。そう厳密に区分けできるか
 ⇒市民監視につながらないか、憲法違反にならないか(野党やリベラル系マスコミが最も好んでつついてくるところ)
 ⇒経済的な国益(技術)が盗まれたり流出している事実とのバランス論だろうとは思いますが。。

★通信傍受(行政傍受)の解禁
⇒ここもマスコミや野党は言論の自由との兼ねあいで厳しく指摘してくるところ。「治安維持法を想起させる」「言論が委縮する」など。
⇒それら指摘に対し右派からは「さすが〇国の手先」などと批判が出る、いつもの構図。

★これら「国論を二分する」事案を通すためには世論の後押しが不可欠。完全な想像ですが、ここ半年ほどは、様々な「防諜」「スパイ」関連のnewsが飛び出すのではないでしょうか。

そう考えると、先日の横須賀基地に入ろうとした有名商社マンなどの話は、ふだんなら泳がせておけばいいだけのこと、このタイミングで摘発されるのはなかなかタイミングがよろしいようで、、と考えてしまいます(うがった見方というヤツですが)。

どの政権も高い支持率で政治的リスクをとってやりたい政策を通す。その代わり、支持率は落ちていく。

現時点で言えば、来年度予算⇒消費減税国民会議⇒成長投資/危機管理投資⇒その次あたり?かもしれません。

おまけ●
こちらのPHPさんのリンクには、ユーチューブの対談動画もあります。
見てみることにします。


いいなと思ったら応援しよう!