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1969年、西アフリカ、46野周辺

「被告人<羊毛の平織り布>は無罪とする」
 傍聴席に座っていた<羊毛の平織り布>の父親は息子が無罪となったことに安堵の表情をうかべた。同時刻、大学で講義を行っていた<羊毛の平織り布>の姉は学生の質問に真顔で答えていた。<羊毛の平織り布>の祖母は三年前に亡くなっている。彼女の死に顔は美しかった。<羊毛の平織り布>と呼ばれた男は被告人席で、フワーッとした空っぽな笑みを浮かべている。かつて<睡蓮の小葉>と呼ばれた死刑囚が電気椅子で処刑された夜のことを思い返していた。
 その夜に起こったことを語ろう。
「今日はみんな居間にいなさい」夕食を食べ終えたあとで<羊毛の平織り布>の父親は家族に言った。壁に掛けられた時計は十九時を指していた。西アフリカに位置し、いくつもの国に囲まれたこの小国では死刑は二十時に行われる。この国の法務大臣である<羊毛の平織り布>の父親は午前中に裁判所から回ってきた死刑執行の書類に承認のサインをしていた。その日に死刑が行われるかどうかを知っているのは<羊毛の平織り布>の一家だけだ。内乱が始まった年に生まれた<羊毛の平織り布>にとって、死刑はめずらしいものではなかった。
 十年近く続いていた内乱がようやく終結し、反乱に関わった者達は政治犯として収容された。この国の法律では内乱罪は死刑と記されている。裁判は迅速に行われ政治犯は次々と電気椅子に座らされていった。あまりにも手際が良いので座り心地が悪いという者はいなかった。最初は毎日だったが、しだいに間隔は空いていき、今では誰も座らない日のほうが多くなり、そこは静かだった。誰かが座るときも最後には沈黙が訪れる。
「そういえばわたしの初恋の話はしたことがあったかねえ」沈黙のなかで<羊毛の平織り布>の祖母が口を開いた。
 <羊毛の平織り布>の祖母が初恋の話をするのはこれで三十六回目になるが、<羊毛の平織り布>はまだ聞いたことがないと答える。<羊毛の平織り布>の姉は弟を睨むが聞いたふりをすればいいと思いなおした。<羊毛の平織り布>の父親は停電に備えてランタンを用意していたので聞いていなかった。<羊毛の平織り布>の母親は台所から戻ってきて<羊毛の平織り布>の父親の隣に座ると、この人が自分の初恋相手だったことを思い出した。
「そうかい、じゃあ恥ずかしいけれどもお話ししてあげようかねえ」そうして、家族が聞くのは三十六回目だが彼女にとっては初めて話すこととなる初恋話を家族に語りだした。<羊毛の平織り布>の父親はもうじき亡くなる死刑囚のために引き出しから聖書をとりだした。
 ここで<羊毛の平織り布>の父親と<羊毛の平織り布>の母親のなれそめを話しておこう。神父を目指していた<羊毛の平織り布>の父親は修道士だったころに<羊毛の平織り布>の母親に見初められて、相思相愛となり、神父となることを諦めて結婚した。<羊毛の平織り布>の父親も初恋だった。<羊毛の平織り布>の母親は法曹界に入ってどんどんと出世していったが、出世欲というものがなかった<羊毛の平織り布>の父親は、友人の議員の秘書をしていた。
 <羊毛の平織り布>の父親が法務大臣をすることとなったのは内乱が終了して政治犯が次々と処刑されていくなかで、そのときの法務大臣が夏期休暇中にマラリアで死んでしまったことがきっかけだった。それはあまりにも突然のことで、副大臣が代理を務めることになったのだが、毎日のように死刑執行の承認をしなければいけないことに耐えきれなかった副大臣はそれでも二週間は務めて限界となり、病気を理由に辞職した。
 死刑は行われなければいけない。誰かが承認をしなければならなかった。副大臣の次のポストにいた政務官が副大臣代理兼大臣代理となったものの彼も同様に十日間しか持たなかった。周りの人間はそのときになってようやく、死んだ法務大臣が精神的に強靭だったというよりも、人を殺すのが好きな殺人鬼だったのかも知れないと考えた。かといって刑務所に収容されている連続殺人犯のだれかを選んで大臣にするわけにもいかなかった。あらたに死刑承認大臣というポストを作るという法案が上がってきたが賛成する人間は誰もいなかった。死刑の承認だけをすればいいというものでもない。そして回り回って<羊毛の平織り布>の父親に白羽の矢が立った。神父を目指していた彼ならば逆方向の意味で大丈夫だろうという期待と希望のなかで、死刑執行の承認を行うたびに<羊毛の平織り布>の父親はストレスで胃痛に苦しんでいた。その一方で死刑を決めるのは最高裁裁判所長官である<羊毛の平織り布>の母親だった。法務大臣政務官代理兼(省略)副大臣代理兼大臣代理となった<羊毛の平織り布>の父親は妻に相談をした。
「死刑にするのを止めることはできないのかい」
「そんなことは法律を変えてから言ってきな。いまの法律じゃ無理だよ」
 うなだれる<羊毛の平織り布>の父親に彼女は「死刑は電気椅子で行わなければいけないけど三回失敗した場合は特例として死刑は免除されるよ」と独り言をいった。
 <羊毛の平織り布>の父親は電気椅子の処刑を三回失敗する方法はないか王立理科大学助教である<羊毛の平織り布>の姉に相談をした。細工するしかないわと<羊毛の平織り布>の姉は答えた。
「父さん、電気椅子は二千ボルトの電圧で八アンペアの電流を流すの。それを三分間、二回ね。失敗させるとすれば流す電流を少なくさせるしかないわ」「わかった。じゃあ具体的にどうすればいい」「死刑が行われる時にわたしの大学に点検を依頼して。そしたらわたしが細工できるわね」「それは犯罪じゃないか、そんなことはさせられない」「そんな罪はこの国にはないね」<羊毛の平織り布>の母親が答えた。
「だったら、失敗して文句をいわれるのは王立理科大学側で、犯罪じゃないわ。それにいまのこの国の電力事情だと電気を供給することも至難な状態なの。電力事情が悪いことを説明すればごまかせるとおもうの」<羊毛の平織り布>の姉は得意げにいった。
「これはあくまで仮定のはなしだけどね、あんたたちが死刑になるような罪を犯したとしても、一回だけは無罪にしてあげるからね。絶対だからおぼえときな」<羊毛の平織り布>の母親は家族に向かってそう言った。
「……覚えていないわねえ。あの人と始めて会った日のことはもう忘れちゃったよ」<羊毛の平織り布>の祖母がいった。<羊毛の平織り布>は三十六回聞いていたので祖母の初恋相手との出会いを覚えていた。最初の頃の祖母の初恋話にはその話も含まれていた。<羊毛の平織り布>の姉は初恋の話を片手の指で数えられる回数は聞いたがそれ以降は聞いてた振りをしていたので覚えていない。その<羊毛の平織り布>の姉の提案をうけて二十二人が電気椅子にかけられ、彼らは死刑免除となった。だれもが死刑にはうんざりしていたので免除になっても文句を言う人間はいなかった。免除となった人達がその後どうなったのか、<羊毛の平織り布>の父親は知ろうとしなかった。<羊毛の平織り布>の母親は死刑判決を出すだけだったし、<羊毛の平織り布>の父親はそれを承認するだけだった。そして<羊毛の平織り布>の姉は電気椅子の機械に細工をし続けていた。二十二人目のウェルニッケという男のときは気の緩みで危うく失敗しかけたので次はしっかりやろうと気を引き閉めたが、死刑が失敗し続けていることが国王の耳に入ることとなり、対策が講じられる。電力不足は対策がとられた。死刑執行時に計画停電を行って万全の電気供給体制で解決され処刑が行われることとなった。これには<羊毛の平織り布>の姉も為す術がなかった。<羊毛の平織り布>の父親の胃痛は復活したし、この町に住む住人は十九時十八分十七秒に停電が発生することによってその日に死刑が行われるのか知ることになった。
 十九時十八分十七秒になったところで電気が消えた。
「わたしたちの罪をおゆるしください。わたしたちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください。アーメン」暗闇のなかで<羊毛の平織り布>の父親は電気椅子に座っている<睡蓮の小葉>のために祈りを捧げた。電気椅子に座っているのは死に損ないのばあさんじゃないか、神なんて信じていないっていってたからお祈りなんてしたって何の役にもたたないよ、<羊毛の平織り布>の母親は夫に言った。あのばあさん、死刑の判決したときも笑ってたんだ。自分が死ぬなんて思ってもないかのように私の顔を見つめてたよ。<羊毛の平織り布>の姉はさっきまで月が見えていた窓の外を見つめていた。「驚いたのはあの人が男じゃなかったことだよ。わたしゃあの人の顔を見つめ返したね」<羊毛の平織り布>の祖母は初恋の話を続けている。<羊毛の平織り布>は祖母の顔を見つめながら話を聞いていた。処刑場では死刑囚、<睡蓮の小葉>の検死が行われようとしていた。<睡蓮の小葉>の瞳はもうなにも見つめていなかった。
 消えたときと同じく音もなく電灯がついた。と同時に電話が鳴った。<羊毛の平織り布>の姉がかけよって受話器を取り上げると一言二言返事をしたあとで父親に受話器を差し出し、見つめた。
 娘から受話器を受け取った<羊毛の平織り布>の父親は<睡蓮の小葉>が生き返ったことを知らされた。それを聞いていた<羊毛の平織り布>の母親はもう一回やればいいじゃないか、いつかお迎えが来るよと見つめながら答えた。
「わたしがいくらあの人を見つめ返そうが、自分は女だとしか答えなかったよ。同性を好きになったなんて恥もいいところだったよ、誰にも知られちゃならない秘密さ。あんたたちは家族だからいいけど、この秘密を知った他人は友達だろうが親だろうが呪い殺したね」<羊毛の平織り布>の祖母は語った。<羊毛の平織り布>はばあちゃんの家族で助かったと胸をなでおろした。<羊毛の平織り布>の祖母はこの国で最後の魔女だった。娘の<羊毛の平織り布>の母親は法律にしか関心がなかったし、孫の<羊毛の平織り布>の姉は科学の人だったからだ。
「二回電流を流してそこで死刑囚は動かなくなったんですよ。だからいつものように私が検死をして、心臓が停止して、完全に死んだことを確認したんです」検死官はさっき起こったことを受話器の向こうにいる<羊毛の平織り布>の父親に話し始めた。電気椅子の拘束を外して死刑囚は用意された台の上に載せられる。そこで死刑囚はむくりと上半身を起こした。検死官の脳裏でさっきの出来事が甦る。検死官は何が起こったのか理解できなかった。<羊毛の平織り布>の父親は電話越しに検死官が体験した出来事を知るが、何が起こったのか理解できなかった。<睡蓮の小葉>は台の上に横たわりながら自分はまだ死んでいないことを理解した。<羊毛の平織り布>の父親は妻にもう一度電気椅子にかけても法的に問題ないか訪ねる。<羊毛の平織り布>の母親は法の解釈を試みる。
「もう一回電気椅子に座らせても問題ないよ。あと二回は電気を流すしかないね」
 <羊毛の平織り布>はこのあいだ見た映画のことを思い出した。死者が生き返る話だ。死んで、そして生き返ったのならゾンビだ。
「ゾンビなんて非科学的なことをいうんじゃないわよ。もう人間が月に行く時代なのよ。この間アメリカでアポロ十一号が月に行ったでしょ。映画の話なんか信じちゃってあんたお子様ねえ」<羊毛の平織り布>の姉は鼻で笑う。
「ゾンビだとしたら困ったことになるな。死なないんじゃないのか、いい方法はないか?」<羊毛の平織り布>の父親がいった。
「父さんまで……でもそうねえ、一回やって駄目だったんだから同じ方法を繰り返してもだめかもしれないわ」
 映画のなかではどうしたのだろうかと<羊毛の平織り布>は考えた。しかし途中で怖くなり映画が終わるまで耳をふさいで目をつぶっていたので映画のなかでどうやってゾンビを倒したのか知らなかった。なんとなくだが頭を吹き飛ばせば倒せる気がした。
「死刑は電気椅子じゃないとだめなんだ」<羊毛の平織り布>の父親は残念そうに言った。
「電流を流してあたまをふっとばすのは無理だけど、脳みそはタンパク質だから、おもいっきり高温にして変質させればふっとばしたのと同じになるんじゃないかしら。どのくらいの電流を流せばいいか計算してみる」<羊毛の平織り布>の姉は胸のポケットから計算尺を取り出して計算し始めた。
「わたしゃ、あまりにも腹が立ったから初恋相手にも腹上死で死ぬ呪いをかけたさ。自分が魔女で良かったとおもったね。ほんとはふっとばしたかったけど」<羊毛の平織り布>の祖母は話を続けている。
 <羊毛の平織り布>の父親は電話越しに検死官と話をした。<羊毛の平織り布>の母親は、やらなきゃいけないことはわかりきっているのに何をごちゃごちゃ言っているんだというふうに腕組みをしていた。しばらくして<羊毛の平織り布>の姉は計算尺から顔を上げると「父さん、うまくいくわ」と言い、受話器を受け取ると電話越しに指示をあたえた。
 しばらくして停電がはじまり、再び闇につつまれた。
「わたしゃあ、初恋相手にも呪いをかけたよ。あまりに腹がたったからねえ。あんたは腹上死で死ぬよって言ってやったんだよ。そして呪文をかけたのさ」よほどくやしかったのか<羊毛の平織り布>の祖母はさっきと同じことを二度繰り返した。
「そのひと女なんでしょ、だったら腹上死なんてしないでしょ?」<羊毛の平織り布>の姉が聞いた。
 腹上死が何か知らなかった<羊毛の平織り布>は父親に尋ねたがそんなものは知らなくてもいいんだと答えた。
 <羊毛の平織り布>の姉の言葉を聞いて「わたしとしたことがしくじっちまったよ」と<羊毛の平織り布>の祖母はテーブルを叩いて悔しがった。ばあちゃんの呪術はなんの意味もなかったのかと<羊毛の平織り布>は聞くと<羊毛の平織り布>の祖母は首を横に振った。「わたしの呪術は完璧だよ。あの呪術をかけられた人間は腹上死以外の死に方はしないのさ」
 ならば、首をはねられても死なないのかと<羊毛の平織り布>はたずねた。笑いながら<羊毛の平織り布>の祖母はうなずいた。「腹上死できないんじゃ死なないねえ。仕方ない解くしかないか」<羊毛の平織り布>の祖母は<羊毛の平織り布>に庭から枯れ木と枯れ葉を集めてきてくれないかと言った。そして台所から大きいお皿を持ってきてテーブルの上に置く。
 <羊毛の平織り布>の祖母はお皿の上に中指くらいの長さに折った枯れ木を一本ずつ置いていった。二つの三角形の塔が組み上がっていく。それが終わると二つにちぎった枯れ葉を塔のなかにいれていった。「もう少し枯れ葉を持ってきてくれないか」<羊毛の平織り布>は枯れ葉を取りに庭に出て行った。
 部屋の明かりがつくと電話が鳴った。<羊毛の平織り布>の父親は泣きそうになった。枯れ木の塔を見つめて<羊毛の平織り布>の祖母はひとしずく涙を流した。受話器を取った<羊毛の平織り布>の姉が父親に差し出しながら首をふった。
「また生き返ったようだ。どうしたらいいのだ」「もう一回電気椅子にすわらせな。でも気に入らないね、<睡蓮の小葉>が死刑免除になるのは」「二回も心臓が止まっているのに生き返ったから所員が怖がっているんだ」「わたしの計算が間違ってたなんてことはないわ。あれだけの電流を流せば即死するはず。変よ。そもそも母さんが死刑になんてするから悪いのよ」「わたしの股からでてきたくせに生意気なこと言うんじゃないよ」「子供たちにそんな言葉をつかわなくてもいいじゃないか」「あんたもわたしの股に突っ込んだぐらいでいっぱしの意見をいうんじゃないよ」「だれか、マッチをもってないかね。火を付けないといけない」
 <羊毛の平織り布>が台所からマッチを持ってきて祖母に手渡した。
「大臣、どうしたらいいですか」受話器の向こうで検死官が<羊毛の平織り布>の父親に助けを求め責任を押しつけた。<羊毛の平織り布>の父親は部屋のなかを見回したが自分の役割を受け取ってくれる人間はいなかった。「怖がってだれも近づこうとしないのでつかまえることもできないのです」受話器ごしに泣きそうな声が聞こえる。「逃げたら撃ってよろしい」<羊毛の平織り布>の父親がいった。逃げたら撃てる。しかし、撃ったら死ぬのだろうか。<羊毛の平織り布>の父親はその答えを神様に委ねた。
 <羊毛の平織り布>の祖母は受け取ったマッチで枯れ葉に火を付けようとしたところで<羊毛の平織り布>の顔をみた。「わたしも耄碌したねえ、おまえに準備させてしまった。これから呪文を唱えるから、ばあちゃんがいいと言うまで耳を塞いで口を閉じて目をつぶっていなさい」そして<羊毛の平織り布>が両手で耳を押さえ、目をつぶって口を閉じたのを確認すると火を付けた。枯れ葉にともった赤い火は青い火となり、やがて見えなくなった。それと同時に煙が立ち上っていく。<羊毛の平織り布>の祖母は記憶にある青い呪文を唱え始めた。枯れ葉から立ち上る煙は青い呪文を巻き込んで窓の隙間から夜の空へと上っていく。雲に達しようとしたところで消えた。
 祖母の声が聞こえたと<羊毛の平織り布>は思った。耳から手を離し、目を開けると皿の上の枯れ葉からはまだ煙が立ち上っていた。その煙が<羊毛の平織り布>に向かってきたところで<羊毛の平織り布>の記憶は途切れている。<睡蓮の小葉>は二度生き返ってそして自ら電気椅子に歩いていき、電気椅子を抱きかかえるようにして倒れ込み、腹が割け、腕がちぎれ、髪の毛が燃えさかり、痙攣したのち息絶えた。そしてその直後、<睡蓮の小葉>は皿の上の燃えた枯れ葉を見つめていた。
「ばあちゃんがいいというまで目を閉じてなきゃだめじゃないか」老婆の声が聞こえた。<睡蓮の小葉>はなにが起こったのか理解できていなかった。<羊毛の平織り布>の父親は<睡蓮の小葉>が死んだという連絡を受けてなにが起こったのか理解できなかったが安堵した。<羊毛の平織り布>の姉は科学では理解できないことがあることを理解したくはなかった。<羊毛の平織り布>の祖母は何が起こったのか理解した。<羊毛の平織り布>の母親は最初から無関心だったので理解するも何もなかった。
 この夜起こったことはこれがすべてだった。

「もう悪いことはするんじゃないよ」
 裁判官席に座っている<羊毛の平織り布>の母親の声に<睡蓮の小葉>はフワーッとした空っぽな笑みを返した。

<終り>

以下蛇足

物語が脳内でどのように形作られていくのかということを、物語の構造的な部分でシミュレートさせることができないものかということもくろみました。その部分が今回の奇想の部分です。
というわけで、ブロードマンの脳地図を随所に入れ込んであります。作中で登場する数字の半数以上はブロードマンの脳地図と対応するようにしてあります。が、都合の良いように解釈を加えてありますので正確ではありません。
<羊毛の平織り布>という主人公の名前は「羊毛の平織り布」が「ブロード」で男だから「マン」とブロードマンを意味させています。
作中で唯一名前らしい名前として使っているウェルニッケはウェルニッケ野から持ってきた名前で言語システムに関わるとされる部位です。
タイトルにある46野は作業記憶に重要な役割を担っていて、高次視覚野に対して今どこにある、どのような物体に注目すべきかといった情報を提供している可能性があるとされています。
物語の随所で登場人物達に同じような行動をさせてそれが連想的に物語を駆動していくという構成を考えました。
そういった形で連想的に繋げていって、それをマジックリアリズムっぽい味付けでまとめたのが本作です。
で、うまくいったかというとまだまだ改良の余地があるなというのが結論ですけどね。

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Takeman(貞久萬) つたない文章をお読みいただき、ありがとうございます。 スキを付けてもらうと一週間は戦えます。フォローしていただけると一ヶ月は戦えそうです。 コメントしていただくとそれが酷評であっても一年ぐらいはがんばれそうです。