ベッセント長官の成長戦略とステークホルダー資本主義
近年、米国では政権交代やグローバル経済の不透明感が増す中、財政赤字の削減や成長戦略が改めて注目を集めています。本記事では、2025年5月にブレイクダウンされた「Wall Street Week」でのスコット・ベッセント米財務長官(以下、ベッセント長官)へのインタビュー内容を基に、税制改革・関税政策・デジタル資産規制などの論点を整理します。後半では、企業経営の新潮流として注目される「ステークホルダー資本主義」の実践例──IBM・Mars社・Enel──を取り上げ、成功要因と課題を掘り下げます。
1. 米国財務長官スコット・ベッセントの経済政策ビジョン
1-1. 税制改革と成長予測
インタビュー冒頭、ベッセント長官は、「我々の経済政策はトランプ政策そのものだ。税制改革、規制緩和、貿易政策の三本柱で成長を追求する」と明言しました。特に税制改革法案については、2017年からの恒久化が企業の投資判断に「大きな確実性をもたらす」と強調。連邦予算の赤字対GDP比を「3%以内に抑える」目標を掲げつつ、現状では「来年は6.5~7%程度と予測されている」が、一連の追加措置を加味すれば「2028年までに3%台に持っていける」と希望を示しました。
「短期的に達成するとは言わないが、軌道を変え、赤字を着実に縮小していく必要がある」
1-2. 関税政策と貿易交渉
関税収入を財政改善の一助と位置づけ、アップル製品への25%関税など「数百億ドル規模の新たな歳入」を想定。一方で、Lafferカーブ的な均衡税率への言及から、関税引き上げの“限界効用”も示唆しました。英国とは既に合意を完了し、中国やEUとは「90日間の交渉休止」を挟みつつ、今夏以降の大規模合意発表を見込むと述べています。
米英交渉:完了
中欧交渉:休止中→再開見込み
1-3. デジタル資産・ステーブルコインと財政収入
ベッセント長官は、「デジタル資産を重視し、米国の最高水準の規制・AML基準を適用する」と宣言。特にステーブルコインは短期的に「2兆ドル規模の国債需要を生む可能性がある」と試算し、現行3000億ドル程度の保有量から大きく拡大すると期待を寄せました。
「デジタル資産企業を海外流出させず、国内で成長させることが我々の目標だ」
1-4. 銀行規制とソブリン・ウェルス・ファンド
補完的な規制緩和として、銀行の補完的レバレッジ比率(SLR)見直しを「夏までに実現する見込み」と言及。SLRの引き下げは「リスクフリー資産保有のペナルティを軽減し、国債利回りを数十bp押し下げる可能性がある」として、市場安定化策としての期待も示しました。ソブリン・ウェルス・ファンド創設については「優先度を見直し、一時停止中」と説明し、「まずは債務削減に集中する」との姿勢を鮮明にしました。
2. ステークホルダー資本主義の実践例
2-1. IBMとMars社:長期成功の要因
イェール大学の調査プログラムで175人のCEOにインタビューした結果、長期に繁栄する企業は、「イノベーションへの絶え間ない投資」と「顧客・従業員・社会など多様なステークホルダーの調和的マネジメント」を共通点としています。
IBM:パルミサーノ元CEOは「未来志向のイノベーションがWatsonを生んだ」と語り、技術革新を企業文化の柱に据え続ける戦略が成功の鍵となりました。
Mars社:創業家の価値観を「品質・責任・効率性・相互利益・自由」という五原則に定義。ビジネスの大小を問わず、すべての意思決定で原則を参照し続けることで組織の一体感を維持しています。
2-2. Enel:エネルギー企業の再構築
イタリア電力大手Enelは、2014年以降「熱電発電から再生可能エネルギーへのシフト」を加速。投資サイクルを従来の5~10年から「最大3年」へ短縮し、小規模プロジェクトを多数同時に推進する新モデルを構築しました。
「持続可能な進歩を支える存在であれ」──新たに掲げた企業Purposeは、グローバルに展開する組織全体に即時浸透し、生産性とキャッシュフローの飛躍的改善をもたらしました。
2-3. ボーイングとハーバード:危機と価値観の試練
一方、伝統的企業や教育機関も試練に直面しています。ボーイングは安全性軽視という過ちを経て、「人・プロセス・組織構造の抜本的改革」を宣言。ハーバード大学は、政府との衝突を通じて「自由と法感の遵守」が教育機関の根幹であることを再確認しました。
ボーイング:CEOの公聴会証言では「安全性を再優先し、全社一丸で改革を遂行する」と力説。
ハーバード:サマーズ元学長は「大学への行政干渉は憲法違反のおそれがある」と主張し、法的プロセスの尊重を訴えました。
3. 今後の展望と課題
インフラ許認可改革:エネルギー・通信インフラ整備には法的手続き期間短縮が急務。許可取得に数年を要する現状は、経済成長のボトルネックとなっています。
グローバル資本フローの均衡:貿易赤字・資本収支の再編を進め、ドル高・債券市場への依存度を調整する必要があります。
ベッセント長官が示した経済政策のロードマップは、税制・関税・規制緩和・デジタル資産の四本柱で成り立ち、長期的には財政健全化と持続的成長の両立を目指しています。一方、企業経営のフロンティアでは「ステークホルダー資本主義」が実践フェーズへ移行し、IBMやマーズ社、Enelの成功事例が示すように、多様な利害関係者との協働と長期視点の価値観再定義が不可欠です。今後は、政府・企業・社会が三位一体となって“再建と革新”を加速させることが求められています。
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