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ダボス2026が示した「世界秩序の終わり」──AI投資ブームと地政学リスクでポートフォリオは再設計へ

ダボス会議は、毎年「世界の空気」を濃縮して見せる場所だが、2026年はその密度が異常だった。BlackRockのポッドキャスト収録(Davos現地)で、副会長のトム・ドナロンとフィリップ・ヒルデブランドは、今年を単なる“波乱の年”ではなく、歴史の「ヒンジ・モーメント(転換点)」だと言い切る。彼らが繰り返したのは、世界秩序の切り替えと、AIが成長の中心に居座る現実、そして、両者が絡み合うことで投資の前提が変わる、という警告だ。ここでは、その要点を専門知識なしでも追える形に整理する。


1. ダボス2026は「世界秩序の葬儀」か「再起動」か


ドナロンは、今年の地政学を「異常事態の連続」と表現し、冒頭から参加規模を列挙した。「400人の政治リーダー、65人の国家元首、850人のCEO、130カ国から3,000人以上」。この数字自体が“危機感の指標”である。
そして結論は明快だ。「米国はもはや旧秩序の擁護者ではなく、最大の攪乱者だ」。第二次世界大戦後〜冷戦後に形成された枠組みが、米国発の政策転換で揺さぶられているという認識である。

ヒルデブランドも同じ構図を、より歴史的に語った。「どんなグローバル秩序も永遠ではない」。第一次大戦前の秩序、戦間期、そして戦後秩序。戦後秩序は長く続いたが、いま「終わりに向かっている/壊れた/移行している」と述べ、言葉は選びつつも、方向性は断言した。

2. 米国の外交は「個人化」「取引化」し、同盟を摩耗させる


ドナロンが強調したのは、米国外交の性格変化だ。「高度にパーソナルで、トランザクショナルで、ゼロサムで、ドミナンス・ファースト」
このスタイルは同盟政治と相性が悪い。象徴として語られたのが、米国が「国家安全保障」を理由にグリーンランド取得へ言及した件だ。ヨーロッパとの緊張は“歴史的水準”に近いとまで言う。

ヒルデブランドは、ダボスでの大統領スピーチを「欧州にとって非常に居心地が悪い瞬間」と表現した。彼は、会場の「2列目」にいたという生々しい描写とともに、欧州が直面するのは単なる景気問題ではなく、「実存的な圧力(existential pressure)」だと語る。

3. 中国は“話題に出ない”からこそ危険:競争の中心はAI


興味深いのは、ドナロンが、「ダボスで中国の議論が少なかった」こと自体を問題視した点だ。だが現実には、米中の構造的競争は防衛・貿易・技術・サイバーまで「ほぼすべての政策」を貫いている。特にAIは、勝者が経済優位だけでなく軍事・安全保障上の優位を得ると双方が確信している領域である。
つまり、ダボスの会話に出にくいほど“前提化”しているが、投資テーマとしてはむしろ中心にある。

4. AIは「データセンター=国家インフラ」化し、資源・エネルギー・安全保障を巻き込む


AIはアプリの話では終わらない。ドナロンは地政学・安全保障の観点から、AIインフラを次のように捉える。

  • データセンターは重要インフラ:サイバーだけでなく物理攻撃の対象にもなり得る。ドローンが戦争で現実の脅威になったことを踏まえ、象徴的な“国力の塊”として狙われる可能性に言及した。

  • エネルギーがボトルネック:需要が強く、電力確保が政治課題化する。

  • クリティカル・ミネラル(重要鉱物):計算資源の裏側には採掘・精錬・加工があり、加工拠点としての中国依存が残る。

  • ソブリンティ(主権):国家が特定のAI/クラウドに依存するほど、供給の信頼性や統制の問題が前面化する。

ここで重要なのは、AIが「成長ドライバー」であると同時に、「国家間の緊張を増幅する装置」でもある点だ。

5. 欧州は“危機で動く”――圧力が改革を生む可能性


ヒルデブランドは、欧州を「複雑で鈍重な構造」と認めつつも、希望を捨てない。欧州連合は戦争を終わらせるために複雑な仕組みを作った。だから平時は動きにくいが、圧力が最大になると行動する。

彼は、過去の危機(パンデミック、冷戦終結後、ユーロ創設)を例に、今回も同様に、競争力・成長・資本市場などの課題に“追い込まれて”向き合う可能性を示した。皮肉めいた逸話として、ある欧州元首が「いつか米大統領が欧州統合の賞(シャルルマーニュ賞)を受けるかもしれない」と語った話も出てくる。外圧が統合を進める、という逆説だ。

6. 投資家に突きつけられた2つの問い:「大戦なき移行」と「AI投資ブームの持続」


終盤、議論はポートフォリオの話へ移る。ヒルデブランドが投資家に投げた問いは二つに集約できる。

(1) 移行期を“重大な衝突なし”に通過できるか
通常の地政学イベントは、市場への影響が短命だが、戦争級の混乱は長期に響く。今は秩序移行期で、時に「薄氷」の上にいる。実際、NATO同盟国への武力示唆だけで市場が動揺した、と語られた。

(2) AI複合体の投資ブームは続くか
AIはモデルだけでなく、データセンター、建設、電力、送電網まで含む。ヒルデブランドは米国のGDP構成に触れつつ、「(広義の)AI関連投資が成長を押し上げ、生産性向上につながれば、債務問題の解決に道が開ける」というシナリオを描く。一方で、衝突や投資失速が起きれば、まったく別のマクロ環境になる。

ドナロンも同意しつつ、追加の論点として政府の市場介入を挙げた。政府が企業や産業に“関与する度合い”が増せば、セクターごとの勝ち負けが変わる。投資家は「世界をあるがままに受け止め、最悪を想定しつつ備える」姿勢が必要になる。

7. 結論:2026年のキーワードは「再配線」と「俊敏さ」

この対談の核心は、世界が、“脱グローバル化”で一気に縮むというより、グローバル経済が地政学の論理で「再配線(rewiring)」されるという見立てだ。その上でAIが、成長の源泉であると同時に、国家安全保障・エネルギー・資源・社会分断を巻き込む政治課題になる。
だから投資家に求められるのは、単なる強気/弱気ではない。ヒルデブランドの言葉を借りれば、「プランAを持ちつつ、プランBも用意する」こと。長い安定期(グレート・モデレーション)の“同じやり方”は通用しない。
世界秩序の継ぎ目にいる今、ポートフォリオもまた、同じく継ぎ目を前提に設計し直す局面に入った。

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