伝説のマクロトレーダーPaul Tudor Jonesが語る──AIリスク、バブル、そしてバフェットへの謝罪
2026年4月28日、Patrick O'Shaughnessyのポッドキャスト「Invest Like the Best」に、Paul Tudor Jones(以下PTJ)が出演した。PTJは、Tudor Investment Corporationの創設者であり、1987年の暴落を予見し利益を上げたことで知られる、史上最高のマクロトレーダーの一人である。
約70分にわたるインタビューでは、50年のキャリアから得た教訓、Warren Buffettへの率直な謝罪、AIへの深い懸念、そして、現在の株式市場がバブルかどうかについての見解が語られた。リスク管理と忍耐の絶え間ない戦い、グローバル市場を監視するために深夜に起きる習慣、そして、バブルの歴史的考察とビットコインが最良のインフレヘッジである理由が議論された。
1. トレーダー vs 投資家──50年の自己省察
1-1. 「NFLのライトガードを50年やっている感覚だ」
PTJは、自身のキャリアを「投資家」ではなく「トレーダー」として明確に位置づけている。「うちのBVIファンドは40年間、S&P 500との相関が-0.12だ。つまり、我々のリターンは100%アルファだ」と述べた。
約25年間にわたり年率約19%のリターンを達成し、億万長者のヘッジファンドを構築した。1987年にはブラックマンデーの大暴落で125.9%のリターンを記録し、3年後には日本市場の暴落で87.4%のリターンを上げた。
だが50年間トレーダーとして生き抜くことの代償も語った。「NFLのライトガードを50年やっているような感覚だ。毎日塹壕の中で戦っている。誰かに"トレーダーになりたい"と言われたら、"やめておけ。株式のロング・ショートにしろ"と言う。投資家のほうがずっと楽だ」。
1-2. Buffettへの「深い謝罪」
インタビューの中で最も意外だったのは、PTJによるWarren Buffettへの率直な謝罪だ。
PTJは長年、バージニアの大学で投資の講義を行ってきた。その中で、「富を築く最大の方法はトレンドに最も長く乗ること」が最も重要な教訓だと説いてきた。しかし、Buffettについては批判的だった。
「何年も何年も、バフェットをけなし続けて自画自賛していた。"あの男はたまたま正しい場所に正しい時にいて、ブルマーケットに乗っただけだ。日本にいたら絶対にうまくいかなかった"と」。
転機は「Acquired」ポッドキャストのBerkshire Hathaway特集を聴いたことだった。「バフェットが9歳で複利の力を理解していたと知った。そしてこう思った──"ああ、この男は天才だ。そして自分が一番の愚か者だった"。彼は複利のOG(オリジナル・ギャングスター)だ。自分の10分の1でも賢ければと思う」。
PTJは特に、Charlie Mungerとの組み合わせを称賛した。「バフェットが50セントのドルを買う投資家だったのに対し、チャーリーは常に成長し続ける企業への複利投資の力を理解していた。二人の組み合わせは驚異的だった」。
2. バンカー・ハントの銀暴落──PTJの原点
2-1. 世界一の富豪から破産者へ、6週間
PTJのトレーディング哲学の根幹にあるのは、1980年の銀暴落の目撃体験だ。
「バンカー・ハントは約2億オンスの銀を平均12ドルで買った。1979年には銀は30ドルになり、彼は50〜60億ドルの価値があった──世界で2番目に裕福な人の3倍だ」。
ハントはさらに3,500万ドルで2,000万オンスを追加購入。銀は50ドルに達し、彼の資産は約110億ドルとなった。しかしCOMEX(商品取引所)が「清算のみ」を命じると、銀は50ドルから8週間で10ドル以下に暴落した。
「世界で最も裕福な男が、6〜7週間で実質的な破産者になるのを目の当たりにした。その日以来、私は人生で何も信用しなくなった。何も長期で保有しようとは思わなくなった」。
祖父の言葉も引用した。「"お前の本当の価値は、明日切れる小切手の額だけだ"。それが私のDNAに流動性の重要性を刻み込んだ」。
3. AIへの「存在的脅威」警告
3-1. 「5,000万人が死ぬまで何もしないだろう」
PTJのAIに対する警告は、ポッドキャストの中でも最も強い主張となった。
「AIの最大の問題は、"作る、壊す、直す、繰り返す"というモデルで開発されていることだ。これは人類の発明モデルとしては常にそうだった。だが今回は"壊す"のテールイベントが、何億人、何十億人もの命を奪いかねない」。
PTJは約35〜40人が参加した技術会議(チャタムハウスルール)での経験を語った。4大モデル企業のそれぞれから1人ずつ出席していた場で、「AI安全性の問題はどう解決されるか」と質問した。参加者たちは、壊滅的なAI事故──5,000万〜1億人の死亡──がようやくグローバルな行動を促すだろうと議論した。
PTJは、AIが今後20年以内に世界人口の半分を殺す確率が10%あるという見方に同意している。
3-2. 「すべてのAIにウォーターマークを」
PTJが提唱する最も具体的な政策提言は、AIコンテンツの義務的なウォーターマーキングだ。
「今できる最もシンプルで最も重要なことは、すべてのAIにウォーターマークを義務付けることだ。故意に3回違反した者は重罪として投獄する。人間が本物で何がそうでないかを知りたい。それが実現すれば、この国の信頼回復につながる」。
PTJは今年に入ってすでに2回、「非常に真剣な人物」からフェイク動画について連絡を受けたという。いずれもディープフェイクだった。
3-3. 「核爆弾の後は18か月で規制ができた。AIは3年経っても何もない」
PTJはTIME誌の寄稿で「私のキャリアで目撃したすべての大きな金融災害──87年の暴落、98年のLTCM危機、大金融危機──は、誰かが完全に理解していないものに対してオプショナリティを売ったことが原因だ」と書いている。
PTJはポッドキャストでこう語った。「核爆弾が投下された18か月後に、議会と政権は賢明にも原子力委員会を作って規制を始めた。AIはもう3年経っているのに、規制の話すらない。大統領が取るべきリーダーシップがあるとすれば、AI規制──それも米国だけでなく中国や他のすべてのAI開発国と連携して──だ」。
4. バブルなのか──時価総額/GDP 252%の意味
4-1. 歴史的比較
PTJは「バブルかどうか」という問いに対し、データで応答した。
「株式市場の時価総額対GDP比率は252%だ。1929年のピークは65%。1987年は85〜90%。2000年は170%。そして今、252%だ」。
GuruFocusのデータによると、2026年4月28日時点のこの比率は228.2%で、過去最高の227.4%を記録し、中央値の80.9%を大幅に上回っている。PTJが言及した252%はやや異なる算出方法に基づく可能性があるが、いずれにせよ歴史的な高水準であることは間違いない。
「1970年以降、大きなベアマーケットは平均して約10年ごとに来る。過去25〜30年の平均PEに回帰するだけで30〜35%の下落になる。GDP比250%の35%は、GDPの80〜90%分の逆資産効果だ。税収の10%を占めるキャピタルゲイン税はゼロになる。財政赤字は膨張し、債券市場は打撃を受け、自己強化的な負のスパイラルに陥る」。
4-2. IPOラッシュと「供給の逆転」
PTJは特に、今後のIPOラッシュがもたらす需給の構造変化を警告した。
「なぜ今の水準にあるかというと、過去10年間、毎年市場時価総額の約2%をバイバックで回収してきたからだ。ところが来年は、検討されているIPOが市場時価総額の5〜6%に達する。この数学が完全に逆転する」。
「IPOが出た瞬間に暴落するわけではない。だがその後のロックアップ解除のスケジュールを注視すべきだ。株式供給が増える一方で、ハイパースケーラーのCapEx投資がバイバック原資を食い潰すため、バイバックは減少する。テック株がアンダーパフォームしている理由はそこにある。そしてそれは続くだろう」。
4-3. 2000年との類似性
「2000年のベアマーケットは私のキャリアで最も簡単だった。今と非常に多くの類似点がある。2001〜2002年のベアマーケットは、99〜2000年のIPOラッシュの後、ロックアップが解除され、終わりのない売りのカスケードが始まった結果だった」。
PTJはこれを「バブル」と断定することは避けたが、明確な警告を発した。「バブルかどうかはわからない。だが明らかにこの国は株式に過度に依存し、過度にレバレッジをかけている。個人の株式保有比率は国の歴史上最高だ。そしてプライベートエクイティは2007〜08年に機関投資家ポートフォリオの約7%だったのが、今は約16%だ。2008年よりもはるかに流動性が低い」。
5. ビットコイン、円、そして、トレードの本質
5-1. ビットコインは「最良のインフレヘッジ」
「ビットコインは間違いなく、存在するすべてのものの中で最良のインフレヘッジだ。金よりも優れている。なぜなら、ビットコインは有限だからだ。金は毎年2%ずつ供給が増える。ビットコインは採掘できる量が限られている。分散化されている。だから希少性の価値としては最大だ」。
ただし、PTJは2つのリスクを指摘した。第一に、サイバー戦争が発生すれば「電子的に処理するものはすべてダウンする。ビットコインも含めて」。第二に、量子コンピューティングの進展により「あらゆる銀行、あらゆるものがハッキングされる可能性がある」。
5-2. ドル円──「今まさに形成されている大きなトレード」
PTJは具体的なトレードアイデアとして日本円を挙げた。「円は大幅に過小評価されている。しかし過小評価だけでは不十分で、触媒が必要だ。その触媒は、新しく就任した首相だ。ロナルド・レーガン、マーガレット・サッチャー、ドナルド・トランプ(2期目)のすべての特徴を持っている」。
「日本は4.5兆ドルの対外純投資ポジションを持っている。おそらく60%が米国にあり、そのほとんどがヘッジされていない。つまり、彼らは巨額のドル負債を抱えている。そこに50年で最もダイナミックなリーダーが"日本ファースト"で経済を改革しようとしている。過小評価され、過小保有され、大幅にズレており、触媒がある──これがまさに大きなトレードの条件だ」。
5-3. トレードの本質──ボクシングの比喩
PTJはトレーディングの本質をボクシングに喩えた。「相手は市場だ。パーリング、ジャブ、探り合い、隙を探す。そして時々、大きな隙が生まれ、ビッグショットを打つ。ビットコイン2020年──ノックアウト。2年物金利2022年──ノックアウト。それ以外の時間は、情報を集め、隙を待つ。ラウンドは常に勝とうとするが、本当に大きなことができる瞬間はごくわずかだ」。
6. 情報過多の時代のトレーダーの一日
6-1. PTJの日課
PTJは驚くべき日課を明かした。午前6時15分起床、7時まで仕事、7時45分まで45分のハードな有酸素運動。開場前にスクリーンの前に座り、10時まではミーティングなし。12時までミーティング。昼食後にもう1件ミーティング。引け前1時間と引け後1時間は翌日の計画を立てるために確保する。
夕方5時に帰宅し、妻と1時間散歩。1時間仕事。夕食後、ニュースと「できるだけ頭を使わないエンターテインメント」を視聴。午後9時30分〜10時15分まで仕事。就寝。そして午前2時30分〜3時に起床し、30分仕事をしてロンドン市場の開場を30〜45分見る。静かな時間に分析作業。その後再び就寝し、6時15分に起床。
「80年代からこれをやっている。40年前よりはるかに働いている。情報が多すぎるからだ。1日に80万通のメールが来る」。
6-2. 「精緻な執行」の妨げ
PTJは情報過多がトレーダーとしての最大の課題だと語った。「ピットトレーダーだった頃は、その日の高値と安値がどこになるかに集中できた。師匠のイーライがやっていたように、ただ待ち、注意を払い、集中する。恐怖が極限に達した瞬間──買いの絶好機。永遠に上がりそうな瞬間──売りの絶好機。それを一日の中で意図的に見極めなければならない。だが48通のメールが同時に来ると、精緻な執行が妨げられる」。
7. 「素晴らしい人生の主成分分析」
7-1. ジャーナリズムと思考フレームワーク
PTJは、すべてのビジネスパーソンに「ジャーナリズム101」を必修科目として勧めた。「新聞記事の書き方は、結論を最初に書く。最も重要なことを最初のパラグラフの最初の文に。2文以内。Who、What、Where、When、Why、How。これは主成分分析そのものだ。トレーディングの意思決定には10の重要な変数があるかもしれない。それぞれの重要度は日々入れ替わる。ジャーナリズムのスタイルは、どの変数が今この瞬間に最も重要かを階層化するロジックフレームワークの構築に極めて有用だ」。
7-2. 素晴らしい人生の主成分
インタビューの最後に「素晴らしい人生の主成分分析は?」と問われ、PTJはこう答えた。
「神、家族、友人──そして友人と言えば、楽しみ(Fun)。そして奉仕(Service)」。
「人生の終わりに振り返ったとき、87年の暴落やビットコインのことは考えていないだろう。誰を愛し、誰に愛されたか。それだけだ。プロフェッショナルとしての成功は、もっと意味のあること──家族と何をしたか、友人と何をしたか、他者にどう仕えたか──を可能にするための道具にすぎない」。

