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Nvidiaの決算がどれほど良くても株価が下がる理由——ファンダメンタルズでは見えない「トレンドの力学」

地政学的な紛争が原油価格を急騰させる数週間前、テクニカル分析だけでその動きを察知していたアナリストがいる。Fairlead Strategies創設者のKatie Stocktonだ。

キャリア30年、1990年代後半にウォール・ストリート・ジャーナルの株価を手書きでチャートに起こしていた時代から、テクニカル分析一筋で市場と向き合ってきた。CNBCの常連コメンテーターとしても知られる彼女が、ポッドキャストインタビューで語った内容は、現在の相場環境を読み解くうえで示唆に富んでいる。

本記事では、その発言を構造的に整理し、投資家が押さえるべきテクニカルの視点と具体的な水準を解説する。


1. Katie Stocktonのキャリアと方法論の形成


1-1. 手書きチャートから始まった30年

Stocktonのキャリアは、1990年代後半に始まった。大学時代にインターン先のファイナンシャル・アドバイザーのデスクでポイント・アンド・フィギュア・チャートに出会い、テクニカル分析の道に進んだ。

「新聞から株価を取り出して、実際にチャートを手で描いていた。それがハンド・チャーティングです」

その後、複数のメンターのもとで方法論を磨き、2018年に独立してFairlead Strategiesを設立。当初は独立系リサーチの発信が目的だったが、2022年にはセクターローテーションETF「TACK」(Fairlead Tactical Sector ETF)を立ち上げ、ポートフォリオ運用にも進出した。

1-2. TACKの設計思想

TACKは、100%システマティックなモデル駆動型ETFで、月末終値データのみを使用する。Stocktonによれば、日次のノイズを排除し、長期トレンドに集中するための意図的な設計だ。

モデルの基盤となる指標カテゴリーは3つに分類される。

  1. モメンタム・ゲージ(トレンドフォロー)——移動平均線、MACD、一目均衡表(Ichimoku Cloud)

  2. 買われすぎ・売られすぎ指標——ストキャスティクス・オシレーター、DeMarkインジケーター

  3. 相対パフォーマンス——セクター間の価格比率、相対ローテーション・グラフ

加えて、アセットアロケーション機能を組み込むことで、上値追求の可能性を損なわずにドローダウンを抑制する設計になっている。

「チャートはリスク管理に非常に有効で、感情を排除した、より偏りのないアプローチを可能にする」

2. 原油ブレイクアウトの先行察知——地政学の前にシグナルは点灯していた


2-1. 12月末のDeMarkカウンタートレンド・シグナル

Stocktonが原油に対して強気に転じたのは、中東の地政学的紛争が市場を動かすよりも前のことだった。

「12月26日の週、原油先物の週次チャートでDeMarkインジケーターがカウンタートレンド・シグナルを発した。少なくとも相当なリリーフ・ラリーの可能性が高いことを示していた」

DeMarkインジケーターは、フィボナッチ数列を基盤とする「トレンド疲弊」を測定するツールで、単純な買われすぎ・売られすぎではなく、トレンドの終焉を察知する設計になっている。

2-2. 2月の月次MACDの買いシグナル

続いて、2月、原油の月次チャートでMACDが買いシグナルに転換した。

「月次MACDのシグナルが素晴らしいのは、議論の余地がないことだ。買いか売りか、それだけ。無視することはできても、論争はできない」

この段階で原油は68ドル台のレジスタンスを上方ブレイクしており、その後の地政学的衝突による急騰は、すでに進行していたテクニカルな転換を加速させたに過ぎない。Stocktonは、この月次MACDシグナルが「数カ月単位のサイクル反転」を示唆していると述べた。

2-3. 原油の見通し——新しい「ニューノーマル」

インタビュー時点で原油は約115ドルまで上昇していたが、Stocktonは短期的な疲弊サインを認めつつも、構造的な見方は強気を維持した。

  • 直近のレジスタンス突破水準: 102ドル(クリア済み)

  • 次のレジスタンス: 130ドル(過去の水準)

  • サポート: 一目均衡表のクラウドが68ドル付近、9月には88ドル付近に上昇

「ニューノーマルは、より高い高値、より高い安値、より高いフロアだと考えている」

同時にStocktonは、過去の原油価格ショックがほぼ常に株式市場のレンジ相場や弱気サイクルの始まりと一致してきたことに言及し、「数カ月後にまだ迫ってくる問題として警戒すべき」と注意を促した。

3. S&P500は弱気相場に入ったのか


3-1. 月次MACDの売りシグナル

S&P500に対するStocktonの見方は慎重だった。

「いくつかの指標では下降サイクルに入っている。3月時点でS&P500の月次MACDが、売りシグナルを点灯した。最良でも不安定なレンジ相場、最悪の場合は弱気サイクルを示唆している」

Stocktonは、現在の指標が2022年のサイクル(19%のドローダウン)との類似性を示していると指摘した。

3-2. 注目すべき具体的水準

  • レジスタンス: 50日移動平均線と日次一目均衡表のクラウド

  • サポートゾーン: 6,128〜6,174(移動平均線、週次クラウド、フィボナッチ・リトレースメント、旧レジスタンスの収束地帯)

「サポートはマグネットとして機能するわけではないが、弱い相場でバイヤーが参入する可能性のある場所を教えてくれる」

年末目標のような数値は設定しないスタイルだが、4月時点では「この安定局面でレジスタンスに到達する可能性は低い」との見方を示した。

3-3. MAG7のリーダーシップ喪失

Stocktonは、マグニフィセント7の影響力低下がすでに市場全体に波及していると分析する。

「Microsoftは、高値から25〜30%下落しており、弱気相場に入っている。MAG7のインデックスは年初来一貫してアンダーパフォームしている」

昨年第3四半期頃から、メガキャップ銘柄間で挙動の「分散」が始まり、集団的なリーダーシップの終焉を示唆していた。Stocktonは現時点で、DeMarkインジケーターによる2〜4週間の短期的な底打ちサイン以上の「下方疲弊」の兆候は見られないと述べた。

4. ゴールド・シルバー——数年ぶりの上昇疲弊サイン


TAC ETFはGLDMを通じてゴールドをポジションに組み入れていたが、Stocktonはサイクルの転換点が近い可能性を示唆した。

「月次のDeMarkインジケーターとストキャスティクスの両方で、このサイクルが始まって以来初めてとなる上昇疲弊のサインが出ている」

トレンドが崩壊したわけではないが、モメンタムの「著しい喪失」が見られ、「歴史的な文脈では必ずしも全員が納得しないかもしれないが、ゴールドとシルバーにとってオフサイクルになる可能性がある」とStocktonは述べた。

5. ビットコイン——テクニカル分析は暗号資産で機能するか


5-1. FXやコモディティと同様にサポート・レジスタンスに忠実

Stocktonは、2019年からビットコインとイーサリアムの週次レポートを発行しており、暗号資産のテクニカル分析に深い知見を持つ。

「グローバルに深い流動性を持つ資産は、サポートとレジスタンスの水準に非常に忠実に反応する傾向がある。ビットコインはまさにそれだ」

5-2. ビットコイン固有の「階段状」パターン

ビットコインの値動きには独特の特徴がある。

「ビットコインは階段を上るように動く。長期間の保ち合いがあり、その後に大きなジャンプが来る。そのジャンプに乗るためには、保ち合いの期間をトレンドの正しい側で耐え抜く必要がある」

Stocktonはアルトコインのビットコインに対する相対強度も追跡しており、暗号資産市場全体のリスクオン・リスクオフの判断材料としている。

5-3. クリプト・ウィンターは実在する

「クリプト投資家として、この下降トレンドは痛みを伴うものだった。カウンタートレンドの機会はあるが、それが低確率であることは認識しなければならない」

同時に、チャートがリスク管理に有効であり、「最悪の局面が過ぎたかどうか」を判断する助けになるとも述べた。

6. 「Nvidiaの決算がどれほど良くても」——プライスアクションが重要な理由


6-1. ファンダメンタルズとテクニカルの関係

インタビュアーがNvidiaの圧倒的な決算(売上成長81%、粗利益率75%、フォワードPE18倍)を引き合いに出し、「テクニカルを信じるべきか、市場が間違っているのか」と問うた。Stocktonの回答は明快だった。

「投資で実際にお金を稼ぎたいかどうかで、チャートを使うべきかが決まる」

やや挑発的な表現だが、その趣旨は建設的だ。個別企業がどれほど優れた業績を出していても、株価はメガキャップ複合体全体の動き、セクター全体のトレンド、ハイベータからローベータへの資金移動など、企業の実力とは無関係な外部要因の影響を受ける。

「Nvidiaは、長期的にはまだ上昇トレンドにある。しかし短期的なインプットは別の話だ。決算後の株価の反応には、センチメントが強気すぎるのか弱気すぎるのかという情報が含まれている」

6-2. 長期投資家へのアドバイス

Stocktonは、長期投資家が気にすべきことは「ブレイクダウン(構造的な崩壊)か、修正的な動きか」の判別だけであり、そのためには日次チャートでも週次チャートでもなく、月次チャートを見るべきだと助言した。

「月次バーチャートを見るだけで多くの頭痛から解放される。重要な動きだけを抽出してくれる」

実際に、3〜5年の時間軸で運用するクライアントに対しては、日次・週次チャートを意図的に閉じ、月次チャートのみで重大な売りシグナルが出た場合にだけ報告するアプローチを取っているという。

7. PalantirとRobinhood——モメンタム喪失の実例


7-1. Palantirへのショート推奨

Stocktonは、Palantirが高値圏にあった時期にショート推奨を公開で出していた。

「モメンタムの喪失が見られ、かつファンダメンタルズの観点からも割高であるとき、それをより重視するようになる」

テクニカル分析は「いつ」のタイミングを、ファンダメンタル分析は「何を」の銘柄選択を担う。両者が同じ方向を指すとき、ポジションの確信度は大幅に高まる。

7-2. 現時点での姿勢

Palantir(約145ドル)、Robinhood(約70ドル)ともに高値から大幅に調整しているが、Stocktonはまだ「買い」の段階ではないとの見方を示した。

「短期・中期的な売られすぎだけでは不十分。長期的な売られすぎの兆候が必要だが、まだ広範には出ていない。数カ月間は横ばいか下落の環境が続く可能性を示す指標がある」

ただし、市場が再び上昇に転じた際には、「ハイベータに戻るべき」であり、ファンダメンタルの知識を使ってそのセグメント内のリーダーを見極めることが有効だとした。

8. テーマ投資とカタリスト——SpaceXのIPOを控えた宇宙関連株


SpaceXの約2兆ドル評価でのIPO観測を受け、Rocket Labなどの宇宙関連株が高いマルチプルで取引されている状況について、Stocktonは、「テクニカルが味方についているなら、カタリストと組み合わせるとより強力」との見方を示した。

「カタリストがなければ何もすべきではない。しかし、カタリストがあるなら、テクニカルにタイミングの判断を委ねるのが良い」

ディストレスト投資でも同様で、テクニカルは、「早すぎるエントリー」を防ぐ役割を果たすとStocktonは指摘する。

9. AIはテクニカル分析を置き換えるか


9-1. 現時点での活用と限界

Stocktonのチームでは、AIを主に3つの用途で活用している。

  1. 編集作業 — レポートの誤字脱字や重複表現の検出

  2. バックテスト — 特定のセットアップの有効性検証

  3. プレゼンテーション作成 — データの可視化と整理

しかし、チャート分析そのものにAIを使うことには慎重だ。

「初期段階で試したとき、AIは多くの良い指摘をしたが、市場の方向性が100%間違っていた。ショートのアイデアとして分析したが、実際はロングのアイデアだった」

9-2. ホリスティックな市場観の壁

個別チャートの分析はAIにとってアクセスしやすい領域かもしれないが、複数のアセットクラスを横断するマクロ的な市場観の構築は、現時点ではAIの手に余るとStocktonは考えている。

「私たちが全体的な市場見通しを作るとき、それは世界全体と複数のアセットクラスを考慮に入れている。そこまで到達するのはAIにとってまだ難しい」

10. 2008年の教訓——テクニカル分析の価値が証明された瞬間


インタビューの最後に、30年間で最も記憶に残る市場の瞬間を問われたStocktonは、2008年の金融危機を挙げた。

「プット・コール・レシオなどの市場内部指標が極端な水準に達したが、さらに極端になり続けた。監視する市場内部指標を多様化する必要があるという大きな教訓になった」

この経験が、現在の複数指標を組み合わせる方法論の基盤になっている。また、2008年はテクニカルアナリストが他の分野のアナリストよりも早く弱気相場を認識し、メディアでの信頼性を高めた転換点でもあったとStocktonは振り返った。

まとめ


Katie Stocktonのアプローチは、テクニカル分析を「予測」のツールとしてではなく、「トレンドの正しい側に立ち続ける」ための規律として位置づけている。

原油の急騰を地政学イベントの前に察知できたのは、DeMarkインジケーターやMACDといった確立された指標を、感情を排除したシステマティックなプロセスで運用していたからだ。

現在の相場環境に対するStocktonの見立てを整理すると、以下のようになる。

  • S&P500: 月次MACD売りシグナル点灯。2022年型の調整局面との類似性。サポートは6,128〜6,174

  • 原油: 構造的に強気。ニューノーマルは「より高いフロア」。次のレジスタンスは130ドル

  • ゴールド・シルバー: 数年ぶりの上昇疲弊サイン。オフサイクル入りの可能性

  • ビットコイン: テクニカルは有効に機能。現在はオフサイクルだがカウンタートレンドの機会を注視

  • ハイベータ株(PLTR、HOOD等): まだ長期的な売られすぎサインは出ておらず、数カ月は慎重姿勢

テクニカル分析に対する評価は人それぞれだろう。しかし、Stockton自身の言葉を借りれば、「投資で実際にお金を稼ぎたいかどうかで、チャートを使うべきかが決まる」。少なくとも、トレンドを味方につけるという発想そのものは、どのような投資スタイルにも応用できる原則ではないだろうか。

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