「銀行の動向が経済の動向」——Steve Eismanが6行の決算から読む米国信用サイクルの現在地
2026年第1四半期の銀行決算シーズンが始まった。「ビッグショート」の着想を持つ投資家として知られるSteve Eismanが、自身のWeekly Wrapポッドキャストで大手6行の決算を詳細に分析した。ホルムズ海峡封鎖という地政学的変数が市場を揺らす中、銀行が持つ信用データは米国経済のリアルタイムの状態を示す「同時指標」として機能している。そのデータは何を語っているか。
1. なぜ銀行決算が経済の「窓」なのか
1-1. 大手4行が持つ消費者・商業ローンの広がり
「大手4行——JPモルガン・シティ・ウェルズ・バンク・オブ・アメリカ——は、消費者側では、クレジットカード・自動車ローン等、商業側では商業不動産・法人向けローン等、幅広い融資を手がける。すべてではないが、十分に大きく・十分に幅広い。これが米国経済の健全性への真の窓口になる」とEisman氏は述べた。
JPモルガンの決算補足資料は、28ページに及ぶデータを含む。その中で信用サイクルの方向性を見る上で最も重要な指標が、「非稼働債権(Non-Accruing Loans)」だ。「非稼働債権とは、90日以上延滞している深刻な不良債権のこと。この数字の前年比・前四半期比の動きを見ることで、信用劣化の芽があるかどうかがわかる」という整理が示された。
1-2. 「金融危機以来17年間、信用サイクルは来なかった」という事実
「リーマンショック(大金融危機)以来、多くのコメンテーターが、次の信用危機を予言してきた。『今回がそれだ』と言い続けたが、そうならなかった。過去17年間で最も重要なストーリーは、米国経済がいかに強靭になったかということだ」とEismanは述べた。
2026年時点での懸念は、主にプライベートクレジット(私募融資)のソフトウェア向け貸出だ。AIの台頭が、ソフトウェア産業を直撃し、その企業への融資が焦げ付くリスクが市場で語られている。「プライベートクレジットがソフトウェアに過剰エクスポージャーを持っていることは間違いない。だが、それが大きな信用サイクルに発展しているのか——それを見極めるために大手銀行のデータを見る」という問いが、分析の出発点だ。
2. 信用データの実態——「現時点ではベナイン(良好)」
2-1. JPモルガンとBofAの非稼働債権データ
Eisman氏が提示したデータは、以下のとおりだ。JPモルガンの1Q26非稼働債権合計は、96億ドル。前年比では11%増加しているが、前四半期比では3%減少した。バンク・オブ・アメリカの1Q26非稼働債権合計は、58億ドル。前年比4%減少・前四半期比ではほぼ横ばいだった。
「私の結論は、大手銀行が報告した信用トレンドは非常に良好だということだ。信用サイクルが到来するかもしれないが、今のところ銀行の数字にはその兆候が見えない。これは非常に重要なデータポイントだ」と述べた。
2-2. プライベートクレジットへのエクスポージャーの開示
今決算シーズンの特記事項として、各行が、プライベートクレジットへの融資残高を開示した点をEismanは取り上げた。ウェルズ・ファーゴは、360億ドルのプライベートクレジット向けエクスポージャーを開示し、うち17%(約60億ドル)がソフトウェア向けだという。「しかし、それらの多くは40%のクッション(担保余裕)を持つ優先ローンであり、損失が40%を超えない限りウェルズは影響を受けない。それほど悪い状況ではない」と評価した。JPモルガンは、500億ドル、シティは、220億ドルのプライベートクレジット向け融資を開示した。
「もしプライベートクレジットが損失を出した場合、エクスポージャーを持つ銀行も一定の損失は被るだろう。しかし、多くは優先ローンで劣後保護がある。また銀行は現在、十分な自己資本を持っている。損失が出ても損益計算書の問題に留まり、システミックな資本問題にはならないと考える」という見立てが示された。
3. 各行の決算評価——強弱の差とバリュエーション論
3-1. 投資銀行・トレーディング中心行が優位
「投資銀行業務・トレーディングを持つゴールドマン・モルガンスタンレー・JPモルガン・シティは、融資中心のウェルズ・BofAよりも全体として好調だった」という全体評価が示された。
ゴールドマン・サックスは、1Q26にEPS1,755ドルを報告し、市場予想1,652ドルを超えた。前年比24%の増益で、有形自己資本利益率(ROTCE)は、21%という高水準だった。M&Aアドバイザリーが、前年比89%増という大幅増収が貢献した。ただし、「収益と費用がともに14%増加しオペレーティング・レバレッジがなかった点、税率が、通常21%のところ13%と低かった点(繰り返しにくい)は留意が必要だ」と指摘した。
JPモルガンは、EPS594ドルで予想551ドルを上回り、ROTCE23%という強い結果を示した。「固定収益トレーディングが、前年比21%増と非常に強く、ゴールドマンの前年比10%減という弱さとは対照的だった」という点も取り上げた。
シティは、EPS306ドルで予想263ドルを大幅に超えた。収益成長14%に対し費用成長7%というオペレーティング・レバレッジが実現しており、ROTCE13%は同行の近年では最良の水準だ。
モルガンスタンレーは、EPS343ドルで予想302ドルを上回り、前年比32%増という高成長を達成した。ROTCEは27%と業界最高水準で「ベスト・イン・クラスの四半期」と評された。
3-2. 融資中心行の課題——ウェルズとBofA
ウェルズ・ファーゴは、四半期純金利収益が予想を下回り、純金利マージンが前四半期比13ベーシスポイント低下した。「融資中心の銀行にとって、純金利マージンの変動は、収益の最大のドライバーだ。13bpの低下は実際には非常に大きい」とEismanは指摘した。税率低下がなければ増益とはならなかった可能性があり、株価は発表日に大幅に下落した。
バンク・オブ・アメリカは、EPS0.11ドルを報告し予想0.12ドルをわずかに下回ったが、前年比23%増益は堅調な内容だ。注目すべきは、ROTCEの改善で、過去数年間14%近辺で停滞していたが、今四半期は16%に上昇した。「BofAにとってこれは重要な進歩だ」と評価した。
3-3. バリュエーションの読み方——ROTCEとP/TBVの関係
「一貫して高いROTCEを持つ銀行は、株価純資産倍率(P/TBV)が高くなる」という原則を示した。ゴールドマン・JPモルガンは、ともに約3倍のP/TBVで、ROTCE20%超の水準に見合っている。モルガンスタンレーは、ROTCE27%を背景に3倍超の評価を受けている。一方、ウェルズは、1.8倍、BofAは、1.9倍と低い水準だ。
シティの変化として「過去数年、シティのROTCEは、一貫して10%を下回り、P/TBVは帳簿価格以下だった。しかし、今四半期は13%のROTCEを達成し、P/TBVは1.3倍に上昇した。依然として、他の大手行に比べ大幅ディスカウントだが、正しい方向に進んでいる」という分析も加えた。
4. プライベートクレジットとソフトウェア——「まだわからない」という正直な評価
4-1. リージョナル銀行(KRE)への影響は限定的
視聴者からの質問に答える形で、KRE(リージョナル銀行ETF)へのショートポジションがプライベートクレジット問題のヘッジになるかという点について「リージョナル銀行は、プライベートクレジットへのエクスポージャーが非常に少ない。KRE ETFに含まれる銀行は、実際にはほとんどエクスポージャーを持っていない。エクスポージャーが集中しているのはより大きな銀行だ」と述べた。
プライベートクレジット向け融資は、「非預金型金融機関(NDFI)向けローン」カテゴリに含まれており、主に資産規模上位32行に集中している。「私の見方では、銀行のプライベートクレジット向けエクスポージャーは、所得計算書上の問題にはなりうるが、システミックな資本問題にはならない」という評価が示された。
4-2. ハイ・イールド市場と新規ファンド設立の動き
クレジットスプレッドの拡大について「スプレッドが拡大することは必ずしも損失が迫っているサインではない。投資家が恐怖を感じているだけの場合もある。スプレッドの拡大は、新規融資にとってより高い利回りを意味するため、新規ファンドにとっては魅力的な環境だ」と説明した。ブラックストーンとゴールドマンが、それぞれ100億ドルのプライベートクレジットファンドを新たに設立したのも、この文脈で理解できるという。「これらの新規ファンドは問題のあるソフトウェア向け融資を持たない。しかし、既存のプライベートクレジット投資家にとっての助けにはならない」という点も明確にした。
4-3. ソフトウェア企業への投資——「少なくとも1年は様子見」
AIがソフトウェア産業に与える影響について「現在、投資家は、AIがソフトウェアに与える脅威のあらゆる側面を懸念している。既存ソフトウェアプラットフォームがAI企業に置き換えられること、社内で自社ソフトウェアを開発するコストが下がること、既存ソフトウェア企業が価格を上げられなくなること——懸念のリストは非常に長い」と整理した。
「この話は始まったばかりであり、何が起こるかを知ることはほぼ不可能だ。少なくとも1年は明確さが得られないと思う。そのため、ソフトウェアセクターには慎重に踏み込むことを勧める。ナラティブがこれだけ悲観的になった時に底値を当てようとするのは非常に難しい」という率直な評価で締めくくられた。
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