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スマートフォンの「次」が見えてくる——Snap CEO Evan Spiegelが語るSpecs・AI・SNSの未来戦略

「スマートフォンの次」は何か——テック業界で繰り返し問われてきたこの問いに、最も長く、最も実践的に取り組んできた経営者の一人がSnap CEOのEvan Spiegelだ。Stripeの共同創業者Patrick Collisonとの対談で、Spiegelは、自社ARグラス「Spectacles(Specs)」の消費者向け発売、AIによるソフトウェア開発の変革、そして、Snapchatのビジネスモデルの進化について、率直に語った。

Snapは今、月間アクティブユーザー(MAU)10億人到達を目前に控え、純利益ベースの黒字化も射程圏内に入った。12年間投資を続けてきたARグラスが今年ついに消費者の手に届く。本記事では、この対談の要点を整理し、投資家・ビジネスマンが押さえるべきSnapの戦略と、その背景にあるテクノロジーの潮流を解説する。


1. Snapの「るつぼの瞬間」——3つの転換点が同時に到来


Spiegelは、現在のSnapを「crucible moment(るつぼの瞬間)」と表現した。3つの大きな転換点が同時に訪れている。

① MAU10億人への到達
Snapchatは、まもなく月間アクティブユーザー10億人に達する見込みだ。メッセージングとカメラを軸に成長してきたサービスが、グローバルプラットフォームとしての規模を確立しつつある。

② 純利益ベースの黒字化
これまで投資フェーズが続いてきたSnapだが、純利益での黒字化が視野に入っている。ハードウェアへの大規模投資を続けながらの達成となれば、ビジネスモデルの持続性を示す重要なマイルストーンとなる。

③ AIによる事業変革
Spiegelは、「AIはSnap全体のソフトウェア開発を根本から変えている。現在、新規コードの3分の2以上がAIによって書かれている」と明かした。この変化のスピードは極めて速いという。

2. Spectacles——12年の投資が結実するARグラス


2-1. 「空白地帯」を狙うポジショニング

Spiegelは、現在の市場を2つの極に分けて説明した。一方にはカメラ付きの軽量スマートグラス(「カメラ付きAirPods」)、他方には、Apple Vision Proのような高性能VRデバイスがある。Specsはその間の「空白地帯」を狙う。

「普通のメガネのウェアラビリティと、Vision Proのような真の空間コンピュータの能力を両立させる」——これがSpecsのコンセプトだ。今年後半に消費者向けに発売される予定であり、12年間の開発投資がようやく実を結ぶ。

2-2. 技術的優位性——フルスタックの自社開発

Specsの技術的な特徴は、スタックの全レイヤーを自社で所有している点にある。

具体的には以下の通りだ。

  • Lens Studio:開発者ツール

  • Lens Core:10年以上モバイルで磨いてきたレンダリングエンジン(低スペックデバイスでの電力・熱管理に最適化)

  • 独自OS:Linuxベースでゼロから構築。Spiegelは「Androidはグラスには重すぎる」と明言し、Googleの最新プロジェクト「Project Aura」が大型の外部コンピュートパックを必要とする点を指摘した

  • 独自光学エンジン:ウェーブガイドとプロジェクターを自社開発。解像度・性能で競合を上回るとしている

さらに、最もIP感度の高い精密コンポーネントは米国と英国で自社製造しており、R&D・エンジニアリングチームの隣で高速なイテレーションを実現しているという。ハードウェアのIP保護が、AI時代においてソフトウェアよりもはるかに容易であることも、Spiegelが強調した点だ。

2-3. スマートフォンを「置き換える」のではなく「拡張する」

Spiegelは、グラスがスマートフォンを置き換えるとは考えていない。「スマートフォンはレガシーデバイスとして最も重要な役割を果たし続ける」と述べた。

最初に移行するユースケースとして挙げたのは大画面関連だ。自宅に何千ドルもかけてテレビを複数台置く代わりに、軽量グラスであらゆるサイズのスクリーンを持ち歩ける。デスクトップモニターやノートPCの画面も同様で、出張中にフライトの中で人間工学的に快適に作業できるようになる。

しかし、Spiegel自身がより注力しているのは、「これまで存在しなかった全く新しい体験」だ。

「子供たちと庭でレーザータグをしたり、恐竜を庭に出現させたり、一緒にレゴを作ったりする。コンピュータが現実世界で人を結びつけることができると示す体験だ」

2-4. 「キラーアプリ」はもう必要ない

興味深いのは、Spiegelが従来の「キラーアプリ」概念を否定した点だ。PC時代にはスプレッドシートが、スマートフォン時代にはモバイルコミュニケーションが「キラーアプリ」だった。しかし、2026年の今、ソフトウェア開発が極めて容易になったことで、パラダイムが変わったという。

「今日重要なのは、人々がそれぞれに関連性の高い多様なユースケースを追求できるプラットフォームを構築することだ」

Lens Studioは、ますますエージェント的になり、誰でもほぼ何でも作って現実世界に表示できるようになる。この「ビスポーク(オーダーメイド)ソフトウェア」の時代は、画一的なアプリストアのモデルとは根本的に異なる。

これは同時に、Snapにとって最大のハードルだったApp Storeのロックインを克服する道でもある。「100万、200万のアプリがAppleエコシステムに囲い込まれている問題をどう乗り越えるか」という問いに対し、ソフトウェア開発の容易さそのものが答えになるというのがSpiegelの見立てだ。

3. Snapchatのビジネスモデル——広告+直接収益の二本柱


3-1. 2つの収益源

Snapchatの収益は、広告と直接収益(ダイレクトレベニュー)の2本柱だ。

広告事業では、地図上の「Promoted Places」が特に注目される。小売店舗への来店を促すクローズドループの効果測定が可能で、O2O(Online to Offline)広告として機能している。

直接収益の柱はサブスクリプションサービス「Snapchat+」だ。Spiegelは、有料会員が2,500万人に達し、直接収益の年間ランレートが10億ドルを超えたことを明らかにした。この事業は2〜3年前に開始されたばかりだが、急速に成長している。

3-2. AI推論コストとサブスクリプションの必然性

対談では、AI時代における直接課金の重要性も議論された。ChatGPTやClaudeが月額20ドル〜200ドルのサブスクリプション階層を設けているように、計算コストの実費が存在するAI機能では、広告のみのモデルには限界がある。

Snapchatも「Lens+」という上位ティアを提供し、AIツールや編集ツールへのアクセスを有料化している。Spiegelは、「Snapchatのカメラは世界最大級の画像・動画生成プラットフォームの一つ」であり、その利用頻度を考えれば、マネタイズの余地は大きいと述べた。

3-3. カメラの規模感——年間1兆枚のセルフィー

Snapchatカメラの規模を示すエピソードとして、Spiegelはこう語った。Appleが「iPhoneで年間5,000億枚のセルフィーが撮影された」と発表した際、チームに確認したところ、Snapchatだけで同期間に1兆枚以上のセルフィーが撮影されていたという。MAU1人当たり年間約1,000枚以上の計算だ。

4. ソーシャルメディアの再定義——「ソーシャル」と「メディア」を分離せよ


4-1. ネットワーク効果の「教科書」を書き換えた

対談で最も知的に興味深かったのは、ソーシャルネットワークの設計思想に関する議論だ。

従来の教科書的な理解では、ネットワークは大きければ大きいほど価値がある。しかし、Spiegelは、「重要なのはネットワークのサイズではなく、実際に話す相手だ。そしてそれは通常、非常に小さなグループだ」と指摘した。

Facebookは、ニュースフィードにコンテンツを供給するために、ユーザーにどんどん友達を追加させる必要があった。しかし、ある閾値を超えると、ユーザーは自分の投稿を誰が見ているのかわからなくなり、投稿を控えるようになる。「キャメルの背を折るわら」のような現象が起き、プラットフォームは友人のコンテンツからBuzzFeedなどのパブリッシャーコンテンツへと急速にシフトした。

4-2. Snapchatのアプローチ——メッセージング+キュレーションされたコンテンツ

Snapchatは、2016〜2017年頃に、「最も重要なのは、ソーシャルとメディアを分離すること」という原則を打ち出した。

具体的には、友人を増やすことでコンテンツを増やすのではなく、友人からのコンテンツが尽きたら、パブリッシャーやクリエイターのコンテンツを表示する「Discover」を用意した。このコンテンツは当初からモデレーション(審査)の対象であり、AIが登場する以前は人力でコンテンツ審査を行っていた。

「あなたの叔母にSnapchatで恥をかかされることはない。なぜなら、ストーリーに公開コメントがないからだ」——この設計思想が、Snapchatを「クール」に保ち続けた要因の一つだ。

4-3. コンテンツモデレーションの哲学

コンテンツの「ラビットホール」問題について、Spiegelは独自の視点を示した。多くの議論がアルゴリズムに焦点を当てるが、Spiegelは、「アルゴリズムではなくコンテンツそのものに注目すべきだ」と主張する。

「拒食症を促進するコンテンツはガイドラインに反するので、プラットフォームに表示されるべきではない。問題はアルゴリズムのレベルではなく、コンテンツのレベルで解決すべきだ」

米国では表現の自由(修正第1条)との関係で、コンテンツ規制のアプローチには慎重さが求められるが、Snapは一貫して「ルールは明確にすべき」という立場を取ってきた。

5. AI時代におけるSnapの競争優位——ディストリビューションの価値


5-1. 「配信力」の再評価

Spiegelは、AI時代にはソフトウェア開発が容易になる分、ディストリビューション(配信力)の価値が急上昇すると強調した。

「ソフトウェアエンジニアリングからディストリビューションへとリソースを再配分する企業が増えるだろう。今日、ブランドが認知を獲得し、トラクションを得ることは非常に難しい」

10億人近いMAUを持つSnapchatは、この配信力を武器にマルチアプリ戦略を展開しようとしている。以前なら新しいアプリを立ち上げるのに15人のチームが必要だったが、今は「半人分の時間で全く新しいサービスを構築し、Snapchatを通じて配信できる」という。

5-2. ネットワーク効果+AIの相乗効果

Spiegelは、Snapが、「人と人をつなぐネットワーク効果を持つソフトウェアビジネス」であることに感謝していると述べた。AIによるソフトウェア開発の革新から恩恵を受けると同時に、ネットワーク効果のないソフトウェア企業がAIに「共食い」されるリスクからは相対的に守られているという認識だ。

6. 10代のスマホ利用とオーストラリアの規制


6-1. 「バランス」が鍵

5人の子供を持つ父親でもあるSpiegelは、子供とテクノロジーの関係について「バランス」を強調した。「一律の政策は危険だ。子供は発達段階も興味も一人ひとり異なる」と述べ、パンデミック時の「テクノロジーが救い」という論調から、現在の「スクリーンは危険」という論調への極端な振れ幅を懸念している。

6-2. オーストラリアの規制への見解

オーストラリアが16歳未満のSNS利用を禁止した件について、Spiegelは実効性に疑問を呈した。規制対象が少数のアプリに限定されているため、クローンアプリや代替サービスに移行するだけだという。「OS(オペレーティングシステム)レベルで実装しなければ意味がない。Appleには、すでに優れた保護者向け設定があり、政府はその存在をもっと周知すべきだ」と指摘した。

6-3. 独立研究が示すSnapchatの「正」の効果

Spiegelは、オーストラリア、オランダ、米国で実施された独立研究(Snap非資金提供)が、Snapchatの利用が幸福感と人間関係にプラスの影響があると示したことに言及した。TikTokやInstagramは幸福感と負の相関を示したのに対し、Snapchatは正の相関を示したという。

Spiegelは、この違いの理由を、「Snapchatは友人・家族とのコミュニケーションを中心に設計されており、人間関係がメンタルヘルスの最大の予測因子である」点に求めている。

7. プロダクト開発の文化——「楽しくなければ意味がない」


7-1. 週に数百のアイデアを検討

Spiegelは、週に数時間をデザインチームと過ごし、スケッチ、ホワイトボード、プロトタイプ、スライドなど、あらゆる形式で週に数百のアイデアを検討するという。AI時代になり、デザイナーが直接コードを出荷するケースも増えている。

「ずっとバックログにあった機能に情熱を持つデザイナーが『これ、私のPR(プルリクエスト)です』と持ってくる。すごいことだと思う」

7-2. Streaksの教訓——最初は反対だった

Spiegelが当初強く反対していた機能の一つが、「Streaks(連続日数)」だ。Snapは「ユーザーに数字を見せない」という哲学を持っており、Streaksはそれに反するものだった。

しかし、ユーザーからのメールが彼を変えた。「世界の反対側に引っ越し、離婚し、転職しても、毎日親友と連絡を取り続けた」というストーリーを聞き、「コミュニケーションへの招待」としてのStreaksの価値を認めるようになったという。

7-3. ノルウェーから始まった物語

Snapchatが最初にトラクションを得た国は米国ではなくノルウェーだったという意外なエピソードも披露された。当時のSnapchatはiPhone専用で、写真・動画の送受信に高速ネットワークが必要だった。ノルウェーは高性能デバイスの普及率とネットワーク環境が揃っていた最初の市場だった。Spiegelらは初期の資金調達(約40万ドル)の直後に現地を訪れ、コンビニで「Snapchatの人?」と声をかけられる体験をしたという。ノルウェーは15年経った今も、Snapchatの利用率が特に高い国であり続けている。

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