「僕と彼氏と、もう一人の彼」
「僕と彼氏」シリーズの簡易設定↑
ガラスの手と揶揄される、サイボット特有の人工皮膚から伝わるセラミック骨格の彼の機械化された両手は、シミュレーションしていた冷淡さや無感情なものではなかった。他の部位と変わらずに凛と逞しく、そして天碼を見つめる視線と同じように優しさで溢れている。
「僕と彼氏と、もう一人の彼」
木星首都のジュピトリアン行政省にて、長く「色欲成金」と口汚く嘲笑され続けていたプリデアン男爵が心臓発作でこの世を去ったらしい。
その情報を、技術開発部企画課所属の天碼・シェンライア・メーライシャン少佐が聞かされたのは、軍内部にある上級将官向けリストランテ「ハヌマーン」にて。最新型の攻撃型可変ナイファスのテスト歩行が終わり、二日徹夜続きの身体にやっと食料を入れられたのは、17時過ぎ。
人工衛星ゴルドスがちょうど宇宙港のイルミネーションを点滅させ始め、ピンクからネオンブルーとパープルへと塗り替えられる、美しい星々が煌めく夕暮れだった。
「183歳! はあ、ここまでくるとおめでたい天寿だな。ナチュリアの僕はとてもそんな長生きできないだろうし」
メッセンジャー・ボットに受け取りのサインを返しつつそう呟くと、最新人型ロイドであるMED:13Rは、プログラミングされた微笑みを浮かべる。人工知能が生み出す偽物のスマイルサービスだ。
「サフィール、うちの小隊名義でグレーギフトを送ってくれ。二万ジュベくらいの範囲で。僕も今日のお通夜には出るから」
イヤーカフスに繋がるサポートIDに告げて、空腹を訴える胃の中に何か入れるべくメニューパッドを開きかけたところで、「あ、」と慌ててセルフィアイ端末にメッセージを音声入力する。
『プリデアン男爵のお通夜に行くので遅くなります。先に寝ちゃって下さい。ソーヴィ大佐と食事してから帰ります』
何故か、アルファノイドの貴公子「蒼の君、ブルーハイネス」と社交界で注目を浴びる、地球東ヨーロッパを統べる太公家の六男である「婚約者(仮)」には敬語で文章を綴ってしまう。
リーデンデイツァー・フォン・ラグランジェ中佐。太陽系連邦統帥本部副長である27歳の彼と同い年の天碼は、現在絶賛「仮契約中の婚約者同士」であり、天碼本人には全く結婚の意思は無いと何度も伝えている。それにも関わらず、銀髪碧眼の美丈夫は「偽装で全く構わない。卿が嫌なら式は挙げない、戸籍を入れるだけで良い」などと、半ば強引にヨコハマ地区ハヤマエリアに浮かぶ海上のマンションでの共同生活を決めてしまった。
はっきりと断らずにダラダラとその言葉に甘んじている天碼にも引け目があるので、衆目の中で跪き手を差し出した彼をどうにも批判できない。そして代々のナチュリア・オメガ系クスィーであるメーライシャン家には、まだオメガに冷酷な差別があった頃の、曽祖父母が作った負債が残っている。
オメガが進化した新人類であるクスィーアンが、遺伝子継承能力の弱いアルファノイドと婚姻を交わせば、多額の大学奨学金や地球での住民税はもちろん、木星、天王星への移住費や光熱費が免除される。天碼は祖父母や両親が借金を返済する為に、長く質素な生活を強いられてきた姿を見て育った。
自分自身も高校生でアルバイトを掛け持ちし、数少ない優等生のみに許されるフルブライト奨学金を得てMIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業。社会人になって以来、けして高くはない軍の技術部給料から返済額を差し引かれている。だから「婚約者(仮)」の女神ヘカテの誘惑の如き甘い毒に、つい手を伸ばしてしまったのだ。
ポン、と軽やかな通知音で「婚約者(仮)」であるラグランジェ中佐かつ侯爵から変身が届く。
『余も今夜は遅くなるが、明日は休みになる。ブランチは食べずに待っておられたし』
(また、二人分のご飯代を出してくれるんだろうな〜。帰りは映画か博物館とか)
彼が自分に対して、真剣な想いを持って接してくれていると痛いほどに理解している。だから余計に辛いのだ。
新人類であるクスィーアンは性欲に繋がる恋情を持たない。特にアロマンセクシャル系ナチュリアである天碼は、自身の何がそんなに、あの美しく聡明な特権階級子息の心を乱しているのか、全く分からないままなのだった。

「アマメ少佐! こちらですよ!」
待ち合わせは、プリデアン男爵の別邸だったデュッセルドルフ地方の城。さすがに愛車であるドウカティに跨り、喪章付きの第二軍服姿で訪れるのは気が引けたので、ベルリンの高軌道エレベーター発着ステーションから、侯爵が準備してくれていたプライベートジェットを使わせてもらった。

溢れかえるアルファノイドの貴族達は、揃って漆黒のスーツやドレス姿なのだが、彼ら彼女達には個人を偲ぶ空気感はまるで見えない。お互いが契約している仕事の内容や、政略結婚かつ人工授精させようとする息子娘を紹介し合うのに必死なのだ。
「はあ、アルマンゾ伍長! 見つけてくれてサンキューです。まさか、お通夜がこんなに混み合うなんて」
「自覚はないだろうけど、アマメ少佐は良い意味で目立ちますもん〜!」
「ええ、そうなの? こんなに地味なナチュリアなのに?」
「ここの皆さん、個人的に色欲男爵にはお世話になっていた方々ばかりでしょ。金貸し副業もご多忙だったみたいですしね。だからこそ、アナタは浮きまくってます」
ホールのすぐ近く、ずば抜けた長身が迎え入れてくれて本当に助かった。優生遺伝子操作で生まれた試験管ベビーのアルファノイドは、ほぼ全員が183cm超えの身の丈で恰幅も広く、ナチュリアの天瑪は175cm、体重も60kgに届くかどうかだ。

左の横顔に大きな傷痕があるにも関わらず、華やかな美貌にまるで翳りのない、相変わらず抜き身の太刀を思わせる男は、アルマンゾ・愁・ラズベリーフィールド伍長。天瑪の直属上司でありイートン校時代の先輩でもある、ソーヴィ・憂・キャスバリエ大佐のボディガードとアドバイザーを兼任している。
軍事使役用のビースター半獣人の中では、天文学的に奇跡の配合で生まれる「グリフォン種」。剛力鍛錬されたエリート・アルファノイドでさえ敵わないパワーポテンシャルとフィジカルを誇る、過酷な環境での戦闘をものともしない人造生命である。
数々の激戦地で武功を上げ続けて、ついにはアルファの社交界にまでのし上がった彼もまた、今では棺に押し込められているプリデアン男爵に引けを取らず、様々な貴族や企業の秘密を陰で処理をする腕利きフィクサー。おそらく、この大勢の中でもこのグリフォンに大金を支払い、過去を精算してもらった人物も少なくはないだろう。
190cmをゆうに超える銀灰色の逞しいグリフォンは、半獣ビースターというアルファに嫌悪され侮蔑される種族にも関わらず、堂々悠々と漆黒の礼装姿で渦の中央部を割って歩き進んで行く。そして、その先には。
「天碼、お疲れ様。わざわざご苦労でしたね」
「ソーヴィ様、あ、じゃないや。大佐」
「そんな、お互い古い友人なんだし。ここはファーストネームで」
天碼・メーライシャンの幼い頃からの憧れである、ソーヴィ・憂・キャスバリエが、こちらも揃いの漆黒の軍装姿で喪章を腕巻きにして、金色の瞳を輝かせ微笑みながら座っていた。

賑やかしい大ホールの片隅、バーカウンター前に設置された絹梁のソファ席。他大勢の弔問客との隔てが物理的にあるわけではない。しかしながら、この天瑪と同じオメガ系ナチュリア・クスィーアンの人物には、絶対的な権力者であり天王星の皇帝位に君臨する「猛禽王」、静・ツタンカーメンが義理の父親として監視の目を光らせている。
太陽系連邦を支配するマザーAIヒュートランと、今や対等なる権力とそれを超越した支配領地、そして多くの戦闘能力が高いハイクラス・ビースターを手懐けるツタンカーメン一族。彼らに反抗したり、ましてや「猛禽王」と呼称される、静・アマデウス・ツタンカーメンの親友の、大切な忘れ形見であるソーヴィに、邪心を持って指一本すら接近させようとする命知らずなど存在しない。
「あれが蒼の君の婚約者か。なんだ、ベータと変わらん凡庸な顔じゃないか」
「借金をしてMITに進学するなんて、ラグランジェ侯爵に返済の肩代わりでもしてもらってるんだろうさ」
「駄猫がアルファの貴族社会に、よく恥ずかしげもなく来られるものよね」
混雑したそこで様々な色や欲、嫉妬や侮蔑の注目を浴びた瞬間に、天瑪は「色欲成金」と呼ばれた老人の通夜へ気楽に訪れた、自分の軽薄さ責めた。だが、名前の通り咲き誇る薔薇のような赤い髪の昔馴染みと会えて、心から安堵したのだ。
(私は、一人じゃないんだ。ソーヴィ様もアルマンゾ伍長も、それから)
「天碼、ご婚約おめでとう。直接伝えたくて、メッセージも送らずにごめんね」
「全然、大丈夫です。私自身、まだほとんど実感もないし」
親しい人達にも、嘘をついている罪悪感があった。このまま知らん顔で、この優しくて親切な人達に虚偽の婚約を押し通したままなら、自分はどうなってしまうんだろう。
「自分は存じ上げないんですけど、ルーデンゲイツァー・フォン・ラグランジェ侯爵ってのは、東欧三国をまとめた大公陛下の六男でしたよね? 貴族の家に入るのも大変でしょ?」
「伍長、リーデンゲイツァー殿下ですよ。RuではなくLyです」
「Oh! これだからヨーロッパ言語は!」
「憶測ですけど、グランドデューク・ラグランジェには既に嫡男がおられますし、メーライシャン家に婿入りする可能性の方が高いのではないですか?」
銀灰色のグリフォンが、オーダーしたノンアルコール・ヨーグルトカクテルを、天瑪に渡してくれる。彼は警備中なのでいつものカフェラテだ。元々「どうも、酒は好きになれなくて」と話していたから、普段はかなりの煙草を嗜んでも、酒は飲まない男なのだろう。
ソーヴィは食事がまだだったのか、クラブハウスサンドとクラムチャウダーを美しい所作で口に運んでいる。ナチュリア・クスィーアンはアルコールに耐性がない。今夜は三人ともに、清めの酒は飲まずに帰宅か。
「それがね、先日はラグランジェ邸で一番上の兄上にお会いしたんですよ。とても気さくで明るい方でした」
「義父も、大公陛下は真面目な堅物だと評価している。アルファなのに珍しく、同種の奥方とも40年以上連れ添っているしね。それに、ルーデル侯爵も無口だが優しい人物だと。天碼にマリッジ・ボムを食らわせたと聞いた時には、驚いたけど」
「ああ、まああれは……、そうですよね、騒ぎを起こしちゃって。お恥ずかしいです」

「そんな事はないよ。アルファとクスィーのカップルなんて貴重なんだし。でも意外だなぁ、天碼は私と同じで、恋愛や結婚に全く興味はないと思っていたから」
心から長く尊敬する、人型兵器ナイファスの天才騎士に話題を振られた天碼は、同意しようとして口を閉じた。なんだか「婚約者(仮)」のラグランジェ侯爵との詳しい事情は、他人にそう軽々しく話すべきではないと思ったのだ。
(僕は、彼の気持ちを利用している居候なんだから、ここで二人について話すべきじゃないよね……)
それから一時間半、主に天瑪とラグランジェ侯爵の普段の暮らしについて、色々と二人から聞かれた。伝説となってしまった「マリッジ・ボム、プロポーズ」の時の全容や、同居している「ハヤマ・グランドセンチネル」マンションの防衛システムについて。またデートコースはどんな場所を選ぶのか、食事の好みは合っているのか、どちらが日々のリードを取っているのか。
可能な限り嘘をつかずに話そうと天碼は意識して、少しだけ脚色を加えつつ語ったが、こうして他人に「婚約者(仮)」との日常を話してみると、知られて困る内容はほとんど無かった。マンション自体が、寝室とバスルーム、レストスペースを別々に設置した共働きアルファ用の高級施設なのだ。
「お互い仕事が多忙で、まあ今は、そんなにベタベタはしていませんよ」
「でもタケシタ・ストリートで服を買ったり、オダイバで海遊びもしたんでしょう? 仲が良くて結構じゃないか」
「前世紀から、結婚は恋愛重視よりお見合いの方が離婚率が低いと聞きますよね。数値的にも」
「伍長」
「これは失言でした。ハハ、まだご結婚前なのに、不吉な言動をすみませんね」
「いえ、良いんです。だって僕自身、その……。本当に全然、婚約している実感が持てないくらいで……」
嘘で苦くなってきた口の中をミネラルウォーターで濡らしていると、ホールの向こう側から賑やかな音楽が響いてきた。生演奏の弦楽器とトランペット、シャンパンの破裂音が重なりノリに乗っている。
「こんな日に、フィガロの結婚K492(モーツァルト)、 第3幕23番の132小節Andanteか。亡くなった当人の棺の前と言うのにね」
「最高にパッションなお通夜ですね、僕もこんなの初めて」
「なんせプリデアン男爵は、大勢に恨みや金を借していたらしいから。お若いアルファの貴族様が、開放感から踊り出したんでしょう」
「全く、みんな罰当たりだなあ……」
酩酊しているのか、数人の青年がドレス姿の女性を伴ってこちらに手を振っている。
「ソーヴィ・キャスバリエ大佐! アルマンゾ伍長も、お見事なダンスを披露して下さいよ!!」
「お上手っぷりは知ってますからね! 逃げられませんよ!」
「明日から、前線に送られる連中もいます! どうか景気付けを!」
ちょうど、クラブサンドイッチを平らげて落ち着いていたソーヴィをチラリと見たグリフォンが、「では」と、主君の細い肩を支える。
「えっ! ちょっと、私は喪服なんだ!そんな、踊るなんて出来ない!」
「良いじゃない。アナタと公式に踊れるチャンスなんて、俺にはなかなか無いんですもん」
「見せ物になるなんて御免だぞ!」
「まあまあ」
「ソーヴィ様、踊ってきて下さいよ。戦地に行くメンバーがみんな喜びます」
「ええええ……」
力強い腕と大きな掌に包まれて、ホールの中心部へとソーヴィの足がたたらを踏む。一見引き摺られるような形なのだが、それで全く支配感の無い逞しさにエスコートされているようだ。
「君みたいな美丈夫の相手なんて、私が嘲笑われるだけだろう!」
「お二人、お似合いですよ! 行ってらっしゃい。僕は婚約者殿を家で出迎えるので、お先に失礼します」
「あっ、逃げるなメーライシャン少佐! こら天碼!」
ツタンカーメン王の大切な宝珠である一人っ子と、セクシャルオーラ全開の華麗なるグリフォン。二人のダンスを「色欲成金」の通夜会場にて披露されるなど、今夜のネットワークニュースのトップは決まったようなものだ。

「はあ〜、やっぱり普段からインドア慣れしてるメカオタが、こんな場所に来るもんじゃないなあ」
二時間程しか、それも馴染みの友人のみと話していただけなのに、なんだか猛烈に疲れた。だがこれで、一応は「太陽系宇宙軍技術開発部企画課のチーフが、プリデアン家の葬儀に出席した」という結果は残せたのだ。軍事費のスポンサーでもあるアルファ貴族の上層部に、取り敢えずの面目は立ったはず。
帰りも侯爵私有のプライベート・ジェットに乗り、ベルリン高軌道エレベーター発着場に着く。
『ベルリンに着きました。これからハヤマに帰ります』
セルフィアイで「婚約者(仮)」にメッセージを送り、軍服の襟を開きながら鋼鉄の愛馬ドウカティ400ccが停めてある裏口へ出ると、初夏の東ドイツ地方独特の涼やかな夜風が頬を撫でる。
「涼しいな、星も綺麗だ」
愛車に跨ろうとした時、ガレージの影にふんわりと、視界を横切る気配。
「…………そこ、誰かいます?」
軍人としての習性で、咄嗟に天瑪は腰のCZ-USA CZ75レーザーシールドタイプに手を滑らせる。21世紀に「世界最高のコンバットオート」と人気を誇ったコンパクトサイズの改良型で、アルファより非力なクスィーには使用率が高い。
「驚きだな、俺の気配を感じるなんて。その服、あんた軍人?」
駐車場専用エレベーター脇の柱から、小柄な人物が両手を上げて姿を見せる。天碼は気を許さずに、ゆっくりと近づいてくる足音に全身の感覚を研ぎ澄ませた。クスィーアンの聴覚と嗅覚、そして直感力は、アルファの五倍以上。オメガ系の危機察知能力は、長き年月で肉食獣アルファに狩られる側として、いまだに進化し続けている。
「……君、両手がどちらも義手だね。ショートしているみたいだけど」
「作業中にミスっちまって。どうする? 俺が膝をついて恭順を示せば良いのかな?」
完全にライトに照らし出された人影は、身長が160cmに届くかどうかの、若い少年。まだ幼さの残るティーン世代始めの子供だ。ジュニアハイスクールの一年生くらいか。こんなに幼いというのに、肩から続く両腕がどちらも義手とは。
「その必要はないけど、でも腕は上げたままで。痛みはある?」
「無いよ、人工神経が燃えてるだけ」
先天性の障害だろうか。とすれば、人口優生配合種アルファである可能性はゼロだ。それにしても、凡庸ベータ種にはとても思えない。この足捌き、落ち着いた口調に、何より戦闘慣れしているオーラ。
「悪いけど僕に触らないで。両手は上げたままで、そこの椅子に腰をかけて」
「了解、賢い選択だ」
赤いsuper sports Sドウカティのすぐそばにある、塩化ビニール製の宅配ボックスに少年が座る。カラーリングをしているのか、美しい紫の癖の強いセミショートヘア。瞳は光の反射で、鶯オリーブから花緑青(はなろくしょう)に変化している。
「花緑青」は19世紀初めにヨーロッパで生産された人工顔料だ。「パリス・グリーン」とも呼ばれ、絵具や服飾、建築用の塗料として多く使われた歴史のある色。しかしながら、毒性を含む理由で20世紀初頭には使用されなくなり、22世紀には完全に消滅したと聞く。
19世紀にこの毒の青緑で染色されたドレスを着た多くの貴婦人達を、砒素中毒にて殺している、「死の青」……。

「僕は太陽系連邦軍の機械整備担当だ。どこかにひどくぶつけた?」
「河岸のパーティー会場にワイン樽を運んでたんだ。詰み上げた馬鹿野郎の甘い設置のせいで、樽が落っこってきた。商品を破らないように支えたら、これ」
手首のメカニカル回路が切断されて、そこから火花が散っている。爆発はしないだろうが、これでは明日から仕事になるまい。
「ちょっと、カーボン皮膚をめくって見るね」
「どうぞ、お好きに」
「修理しちゃってもいい? お金はいらないよ」
「へえっ! あんたいつもそんなに慈悲深いの? オーマイブッダ!」
「黙んないと、口の神経回路を切断するよ」
相棒であるドウカティのバックパックには、普段からナイファスを整備点検する最新型のメカニカルキットが搭載してある。使い慣れているニッパーとレーザーメスを取り出して、処置を迅速に進めた。
「大した怪我じゃなくて幸運だよ。痛みはない? 違和感は?」
少年が「う〜ん?」と肩を大きく回し五本の指を華麗に折り曲げて見せる。
「スゲェな、あんた。めちゃくちゃ腕良い。もしかしてそこそこ偉い人?」
「技術者のレベルは、軍位では測れないものなの。僕なんかまだまだ、未熟者」
「ナイスなバイクだな。あんたのだろ? クラシカルなタイプが好き?」
「あのねぇ、君はまだ子供なんだから、こんな夜に働かせるのは連邦法違反だよ? わかってんの?」」
「そんなコト言われたってさあ、生活費の為だよ。仕方ないじゃん」
「生活費の為」、散々苦労した高校時代のバイト体験を思い出して、天碼は溜息をついた。ああもう、仕方ない。
「家はどこ? ご両親はいる?」
「ヤサはベルリン孤児保護施設のAパート188号! ご想像通り親は無し!」
「……送ってあげるから、後ろに乗って」
「ラッキー! あんたやっぱり優しい人な!」
「黙ってメット被って! 変なとこ触ったらぶっ飛ばすよ!」
「うへ〜い」
腰に回された、ガラスの手と揶揄されるサイボット特有の人工皮膚から伝わるセラミック骨格。彼のその機械化された両手は、シミュレーションしていた冷淡さや無感情なものではなかった。他の部位と変わらずに凛と逞しく、そして天碼を見つめる視線と同じように明るい優しさで溢れている。
なんだろう、この子。どうしてかとても、懐かしい……。
「ほら、行くよ! ベロ噛まないでね!」
「ほえ〜い、出発!!」
二人を乗せた真紅の閃光は、大きな流線を描いて夜の湾岸高速へと躍り出る。
……ヤッバ、侯爵にまだ連絡してない!
天瑪がそれに気付いて冷や汗を流したのは、「ねぇオニーサンは彼氏いる? フリーなら家に泊めて、お礼にイッパツ決めさせてよ! 俺のオーラルテクニックは一流だよ!」と、後ろに乗る少年から卑猥な声掛けをされた瞬間だった。
【僕と彼氏と、もう一人の彼】

このお話の続き↓
あっぶねえええ!!!更新がお題のギリギリ、20:59!!!
今回は雨の片頭痛で久しぶりにロキソニンを飲みながらの作業でした。これから誤字脱字チェックしますが、途中で寝ちゃうかも〜!!
★6月12日のAM4:24に、大幅加筆修正しました!★
花緑青(はなろくしょう)|#にっぽんのいろ
— 暦生活 (@543life) June 11, 2023
19世紀初めにヨーロッパで生産された人工顔料。
「パリス・グリーン」とも呼ばれ、絵具や建築用の塗料として多く使われた歴史のある色です。ただ、成分に毒性を含むことから次第に使われなくなりました。
▼6月のにっぽんのいろhttps://t.co/zVEvrvePmm pic.twitter.com/wFW1TO1O6w
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マダム、ムッシュ、貧しい哀れなガンダムオタクにお恵みを……。