見出し画像

あの日、僕たちの理想は畑に落ちた。


タウランガ での3人暮らしが始まって、すぐにキウイピッキングの仕事が始まった。

収穫場所は毎日変わる。
天気にも左右される。
雨が降れば仕事はない。

仕事の場所と開始時間は、その日の朝か前夜に突然メッセージで送られてくる。

僕たちはキウイの町 テプケ から車で約1時間離れたタウランガに住んでいた。
毎日、往復100km。

正直きつい。
でも、それでもよかった。

3人で暮らしたかったから。

他のバックパッカーたちは、ほとんどがキャンピングカー生活。
農場のキッチンやシャワーが使える簡易キャンプ場に住み込み、仕事が終わればすぐ休める環境にいた。

僕たちは違う。
毎日走る。帰る。料理する。洗濯する。
生活ごと背負っていた。

でも、それすら青春みたいで、どこか誇らしかった。

初日の連絡は、その日の朝に来た。

「今日の13時からスタート。」

午後から?
そんなことあるんだ、なんて笑いながら、僕たちは車を走らせた。

現場に着くと、そこには世界があった。

イギリス、カナダ、スペイン、ドイツ、フランス、チリ、台湾。
さまざまな国から来た同年代のバックパッカーたち。

日本人は僕たち以外に3人。

世界を旅する若者が、この畑に集まっている。

これだ。
僕が求めていた景色。

多国籍な仲間。
英語が飛び交う空間。
土の匂いと、異国の笑い声。

心が躍った。


でも、その高揚感は、半日で静かに崩れる。

仕事は13時に始まり、休憩なしで19時まで。

頭より高い位置に実るキウイを、ひたすら取り続ける。
バッグがいっぱいになれば約20kg。
それを中央のトレーラーまで運ぶ。

そしてまた、取り続ける。

終わりは見えない。
その畑のキウイを“全部”取り終えるまで終わらない。

終わりの見えない、キウイフルーツ。

甘かった。

「時給3000円で、仲間と楽しくキウイを取って2ヶ月暮らすぞ!」

そんな軽やかなイメージは、開始3時間で消えた。

腕は上がらない。
首は痛い。
肩は震える。

笑えなかった。

仕事が終わり、僕たちは1時間かけて家へ帰る。

車内は静かだった。

本当に、笑えないレベルで疲弊していた。

「え、これどうする?やばくない?」
「2ヶ月できる気しないんだけど。」

夕飯を囲んだとき、ひとりが泣き出した。

想像以上だったから。
身体よりも、心がやられていた。

彼女は大学4年生。
休学してワーホリに来て、その時期はオンラインで就職活動もしていた。

未来の不安と、目の前の現実。

全部が一気に押し寄せた夜だった。

その日、僕たちは決めた。

この地で新しい仕事を探そう、と。

キウイピッキング初日。

勢いで決めた挑戦は、たった一日で僕たちの心を折った。

ワクワクして始まったはずの物語は、
先が見えない不安で幕を開けた。

でも今思えば、

あの日、心が折れたこともまた、
運命の一部だったのかもしれない。

キウイの前に立ち尽くす、世界の旅人たち。

いいなと思ったら応援しよう!