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滑る朝は、両脇に花が咲いた道の上で


 突然だけど、私の通勤路と、路上でエンカウントする最高のメンバーを紹介するぜ。

 まずは小学生の見守りボランティアをしているおばちゃんが立っているポイントを通過する。忙しない朝をチャリンコたちが両脇から私を荒々しく追い越して行くが、このおばちゃんが大きな声を張って注意喚起してくれているおかげで、私は安全に通勤が出来ているのだ。横断歩道においては、両サイドからまるで歩行者と自転車が運動会の騎馬戦のように忙しく交差する。オフィス街が近い街の朝の道路は人の行き交いが激しく、私もまたその中の一人だ。

 コンビニ①の前あたりで黄色い幼稚園バスとすれ違う。そうしてしばらくすると、台湾のタクシーみたいな山吹色の車、もみじマークを車体に付けたガラス屋さんの車、ショートカットの美人のお姉さん、嵐のコンサートグッズのバッグを持った小柄なマダムとすれ違い、電動ママチャリを押しながら電話をしているニットのベレー帽のお姉さんのことを、毎日追い越す。この方々がいつもより早く現れると、私は「いつもより遅い」ということだから、歩幅を大きくし、足の回転数を早くしないといけない。
 散歩する柴犬のお尻は、それにしてもいつも嬉しそう。喫茶店の横に植ってる百日紅の木が、花盛りのある日に切られていてショックを受けた。夏はミニトマトを植えているあの民家は、冬は毎年イチゴを育てている。レモンも育てている。コンビニ②の前では、白い外車の横で虚ろな目でタバコを吸う一人のおじいさんがいる。毎年、立春の頃が来ると、立派な梅の盆栽を玄関口に置いている家がある。今、ぷくぷくとしたつぼみが日に日に開いていて、ちょうど見頃だ。オオサンショウウオの缶バッジをつけた男性のチャリが私を追い越す頃、いつもの小柄な女性と長身の男性のペアとすれ違い、徐々に職場のある建物が見えてくる。信号待ちの間にワイヤレスイヤホンを外して、大体、始業の七分前ぐらいに職場に到着する。

 毎日、おおむね同じ時間に同じ道を歩いている。慌ただしくバタバタと、周りの景色を滑らせるように歩いている。いや、滑っているのは私か。もう、丸五年になる。横スクロールのアクションゲームみたいに、職場を目指して一心不乱に歩いている。五年も同じ道を歩いていると、面白い発見がたくさんある。それは、人んちの鉢植えとか、そこいらの木でも四季が楽しめること。季節によって、差す陽の角度が違うこと。一番面白いのは、同じ人と同じ順番ですれ違うこと。そして、知らずに「初めて」出会っていて、予期せず、知ることもなく、「最後」が訪れていることもまた、面白く、儚い。

 ここでの仕事を始めた頃、毎朝とても緊張していた。ある日、ひときわ長身でおしゃれなイケてるおじさまと毎日、横断歩道ですれ違うことに気づいた。あるときはトレンチコートでバチ決め、あるときはレザージャケットでゴリイケ、個性的なメガネと、長髪の白髪がかっこよかった。コンビニ①の前で、幼稚園バスを待つ子どもとお母さんを見ると、ほっこりした。大きな黄色い風呂敷包みを持った小柄なおじさんがゆっくり歩いていて、なんか可愛いなと思っていた。だんだんと朝の通勤の時間が日常に馴染んで来た頃、通勤路の周りの景色が楽しめるようになったことに気づいた頃に、コロナ禍が始まった。

 コロナ禍が始まってから毎朝、本当に本当に出勤するのが憂鬱だったけれど、コンビニ②の前辺りでちいかわのキーホルダーをリュックにつけた若い女性に自転車で追い越されて、「私もちいかわ好きだよ、頑張ろうね」と、勝手にシンパシーを感じていた。いつもすれ違う素敵な雰囲気の女性のお腹が、ある日大きいことに気づいて、そのうち、その人とすれ違うことは一度もなくなった。イケおじも風呂敷のおじさんもちいかわの子も、気がつけば会わなくなっていた。幼稚園バスも、コンビニ①の前を素通りするようになった。コンビニ③が建設された。

 そのうちコロナ禍が落ち着き、今はこの道を毎朝、インバウンドのお客さんがスーツケースを転がしながら楽しそうに歩いている姿も目にするようになった。毎日の道も、毎日のメンツも少しずつ変わって、いつが初めてだったか、いつが最後だったかもわからないまま、朝の慌ただしい通勤の中で、滑って、溶けて、滑って、溶けて、……だから、いつかはすっかり忘れてもおかしくないほどなのだけど、。ほんの一瞬のすれ違いのことを、今もまだ覚えているのはなぜだろうか。

 きっとね、あの道は、私が仕事を頑張るための気持ちを整える、大切な滑走路だからだ。道の両脇に咲いた人の顔や花々に、知らず知らずのうちに励まされていたんだなあ。

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 あと、約三十回ほど出勤したら、私はこの道を、この時間に通らなくなる。今の職場から旅立つことを決めたからだ。
 上記の登場人物の誰もが、私の密やかなる退場に気が付かないかもしれないけれど、ショートカットの美人のお姉さんと、いつもの小柄な女性と長身の男性のペアあたりは、本当に五年間、毎朝すれ違っていたから、ある日突然気がついてくれるかもしれないな。そうだといいな。暑い日も寒い日も、ありがとうございました。毎日お疲れ様です。

 地中海性気候さんの企画に添えて!うーん、エッセイひさびさ!ありがとうございました!あと約三十回、一日一日を大切に歩いて、大切に働こう。