【ASEAN・インド】市場環境の可視化なくして利益なし──特有の小売流通を理解し、勝ち筋を見出す
ASEANやインド市場に参入する際に避けて通れないのが、「市場環境の可視化」です。自分達が参入しようとしている市場がいったいどのような市場なのかを多角的に理解しなければ、戦い方は定まりません。今回は市場の可視化、中でも特にASEANやインド市場特有の小売流通にフォーカスし、消費財メーカーがいかにして利益を生み出す戦略を構築すべきかを解説します。
ASEAN・インド特有の小売流通を理解する──圧倒的多数を占める「伝統小売」の存在
ASEANやインドの小売流通を語る際に、まず最初に挙げるべきは「伝統小売(Traditional Trade:TT)」の存在です。日本のようにほぼ全ての小売が近代小売(Modern Trade:MT)ではなく、国によっては市場の大半を伝統小売が占めており、その数は数十万店から数百万店、インドでは、1200万店〜1500万店にも及びます。近代小売がスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどPOSレジが設置されチェーンストア化した店舗であるのに対し、伝統小売はパパママストア的な小規模な単体の店舗であり、POSレジなどはなく、交通量の多い場所や住宅密集地に多数点在しています。

各国における伝統小売の比率を見ると、シンガポールはほぼすべてが近代小売ですが、「SMT(シンガポール、マレーシア、タイ)」の一角を担うマレーシアとタイは、小売流通総額に占める近代小売と伝統小売の比率が60:40程度です。近代小売の比率が半分以上まで来ていると、首都やそれに次ぐ大都市の近代小売だけをターゲットとした輸出でもそれなりの金額のビジネスになります。
対して「VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)」に関しては、約3割から4割が近代小売で、残る 6割から7割は伝統小売という市場です。例えば、ベトナムの主要な近代小売の数は約9,000店舗であるのに対し、伝統小売は60万店以上存在します。フィリピンも主要な近代小売約9,500店舗に対し、伝統小売は80万店以上存在します。VIPの中でもインドネシアは近代小売が37,000店舗とASEAN6の中で最多ですが、伝統小売も440万店舗と膨大です。ここまで伝統小売の比率が高いと、輸出だけではなかなか大きな金額のビジネスになりにくいのが特徴です。
インドにおいては、その伝統小売の数が1200万店から1500万店と言われています。ここをとれなければ消費財メーカーがインド市場で高いシェアを獲得することなどできないのです。
効率的な近代小売への導入方法──「小さく産んで大きく育てる」投資戦略
近代小売においても、簡単にビジネスが拡大するわけではありません。例えば、インドネシアの近代小売の9割以上の店舗は、インドマレットとアルファマートという2社の地場系コンビニエンスストアであり、これだけの店舗数を持つ彼らの交渉力は相当なものであり、生半可な提案では商品を置いてもらうどころか会ってももらえません。また、インドネシアの小売の多くは、マレーシア同様にハラル認証のない商品は基本的に置いてくれません。ハラル認証がなければ、実際に商品を置ける近代小売は日系や韓国系、中華系スーパーなどほんの一握りです。
そもそも、ASEANやインドの近代小売で商品を売る際、最初に考えなければならないのは「リスティングフィーや棚代などの導入費用」と、「商品をセルアウトさせるためのプロモーション費用」をどうするかです。近代小売に商品を登録するためのリスティングフィー(口座開設費用)や、商品を置くための棚代が必ず必要になり、これは売れても売れなくてもかかる費用です。日本企業の多くは、さほど数が売れないと思われているため、高めの費用を提示されるケースが大半です。
しかし、導入費を払って棚に並べられたとしても、売れることが保証されたわけではありません。日本国内のように「棚に並べておけばある程度は売れる」という資産は使えません。誰も知らない、価格の高い日本の商品に消費者の手が伸びる確率は低く、売れ行きが悪ければ半年足らずで容赦なく棚落ちしてしまいます。一度棚落ちすると敗者復活は並大抵ではありません。だからこそ、導入時のプロモーション施策が非常に重要になります。できる限り初期投資コストを抑え、最小限の投資で回す法則を掴んでから展開域を広げる「小さく産んで大きく育てる」という考え方が必須です。「良いモノなんだから必ず売れる」という過信は失敗を生みます。

具体的には、まず「業態の選択」を行います。自社の商品がスーパーに適しているのか、コンビニか、ドラッグストアかを見極めます。次に「小売の選択」です。例えばコンビニならどのチェーンが最適かを選び、導入後半年から1年程度はその1社で独占的に売ることでこちらの熱量を示します。そして最後に「店舗の選択」です。最初から全店舗で売るのではなく、首都圏を中心とした数百店舗程度からスタートします。この方法であれば、初期費用を最小限に抑えつつ、その数百店舗で「どうしたら売れるのか」という仮説検証ができます。そこで実績が出れば、他の店舗や他の小売チェーンからも「うちでも売りたい」と向こうから声がかかりそうなれば、導入費などの交渉も優位に進められるようになります。
伝統小売で売るための2つの条件──「近代小売での売れ筋」と「今、欲しい分だけ」
次に、多くの日本企業が課題を抱える「伝統小売」ですが、ここで商品を売るためには、絶対にクリアしなければならない2つの条件があります。
1つ目は「近代小売で売れ筋になること」です。伝統小売の売場は非常に狭く、多くの商品は置けません。また、伝統小売は現金商売であり、代金引換で仕入れを行います。近代小売のように返品も認められておらず、買ったものが売れ残れば損失を自ら被らなければなりません。そのような状況で、売れるかどうかわからない商品を仕入れるオーナーはいません。彼らが仕入れるのは「近代小売で確実に売れている商品」だけです。したがって、まずは近代小売で売れ筋になることが、伝統小売攻略の絶対条件となります。それゆえに伝統小売では多くの商品は指名買いです。伝統小売の店先で、「どれにしようかな?」などと悩んでいる人など一人もいません。最初から買いたいものが明確で、それを名指しで買いにくるのです。
2つ目は「今、欲しい分だけが買えること」です。伝統小売の最大の魅力はまさにここにあります。伝統小売で売られている商品は、1個当たりやグラム当たりで換算すると、実は近代小売よりも10%〜20%程度割高です。それでも消費者が伝統小売で買うのは、「今、欲しい分だけが買えるから」です。伝統小売の商品を見ると、小分けにされたものが多いことに気づきます。スナック菓子はパッケージが小さく、飴は1粒から、シャンプーや頭痛薬も1回分から買えます。新興国の消費者にとって、1ヶ月分をまとめ買いをすることは個人のキャッシュフローを悪化させるため好まれません。彼らは、割高であっても「今必要な分だけ」を買うことを好むのです。新興国でプリペイド式の携帯電話が爆発的に普及したのも、この「使いたい分だけ先に払う」というニーズに合致したからです。

このように、伝統小売で売るためには、商品の品質や日本での実績は関係ありません。とにかく「近代小売で売れ筋になること」と「今、欲しい分だけが買える状態にすること」の2つを満たさなければ伝統小売のオーナーは商品を仕入れてくれません。現在、ASEANやインドの伝統小売で売れている商品は、例外なくこの2つの条件を満たしています。
まとめ
「良いモノを作れば売れる」という発想から脱却し、自分達が戦う市場の環境を正しく可視化することが、ASEANやインド市場で勝つための第一歩です。近代小売と伝統小売の構造を理解し、それぞれに最適なアプローチとコスト投下を行うことで、初めて利益を生み出す「勝ち筋」が見えてきます。属人的な勘に頼るのではなく、市場環境を徹底的に可視化し(調査)、戦略的な販売チャネルを設計していくことが求められているのです。
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