続 - ベンチャーとしてのデットの向き合い方に関する考察
この記事は10X 新春ブログリレー 2026の1月30日分の記事です。
2023年ごろに以下の記事でベンチャーとしてのデットの向き合い方についてnoteを書きましたが、この当時と比較して環境が大きく変化して来ていますので、アップデートを記載しておきたいと思います。
これまで2021年ごろから日本におけるベンチャーデットへの資金供給量は右肩上がりでしたが、2025年後半-2026年に入り日本でも長期金利の上昇などのマクロ環境の影響から、ベンチャーデットやスタートアップ向けのデットの金利の上昇、貸し出し基準の厳格化・締め付けなどのトレンド変化が明確に始まったと感じます。
こうした環境変化を踏まえると、今まではスタートアップとして、ベンチャーデットは、借りれる限り借りるというスタンスの企業も多かった印象ですが、これからはより慎重に使い方や金額・条件などを考えていくフェーズに入って来ていると思います。そうした検討の切り口として本noteが少しでも参考になればと思い、執筆しています。
スタートアップとしてのデットについて考える上で、大きく会社の置かれたステージや目的に応じて3つのタイプに分けて考えるのが良いと考えています。
1. Jカーブ赤字フェーズ:エクイティ連動型デット
「純資産が一番厚い内に、将来の時間を買う」
まだまだ赤字を掘りながら成長を優先していくフェーズにあるベンチャーのデットは、エクイティ調達とセットで実行するのが鉄則だと思います。
このフェーズのデットを利用する目的はエクイティ調達額を「かさ増し」することで、エクイティ調達による希薄化を抑制し、調達の絶対額を増やしておくことで、成長に投資できる資金量に厚みを持たせることです。
実行のタイミングとしては、エクイティ調達直後が理想です。銀行にとって「最も純資産が積み上がり、倒産リスクが低い」と評価できるタイミングを狙うことで、良い条件を引き出しやすくします。
返済期間としては(交渉がタフになりますが、)3年以上の長期を取りにいくのが必須です(3年未満だと次のエクイティ調達より前に返済が来てしまい積極的な成長資金に回しづらい懸念があります)。
このタイプのデット調達で気をつけるべき点は、調達金額の規律です。個別性は考慮する前提ですが、目安として、直近のエクイティ調達金額に対してデットの比率が、6:4, 7:3くらいが理想的です。一見、デット調達は大きければ大きいほど良いように感じますが、規律なきデット調達は「巨額の金利負担によるNet Burnの悪化」と「デット返済の負担の大きさをカバー可能な将来のエクイティ調達の難易度向上」というリスクを生み出します。
例えば、MRR 1.5億円, Net Burn 1億円のスタートアップがバリュエーション100億円で20億円エクイティ調達し、その後デットも20億円(比率5:5)調達した場合、ベンチャーデットの金利率が8%とすると年間1.6億円(月13百万円)の金利負担が発生します。これはNetBurnを10%以上増やす決して小さくない数字ですし、返済のタイミングでは(余程黒字化などできていない限り、)次回エクイティ調達でデット返済のためだけに前回のエクイティ調達金額を用意する必要があります(かつ、VCは成長資金に投資したいので、デット返済がメインの増資は嫌気する傾向にあると思います)。5:5の調達が高金利のベンチャーデットで重く伸し掛かることがわかるかと思います。
一見、資金調達額のかさ増しとなり、純粋にお得に感じるベンチャーデットですが、規律のないデットの活用は将来の資金繰りを苦しめるドーピングとなりかねません。(ダウンサイドシナリオも想定しつつ、)次のエクイティ調達の負担にならない範囲で適切な規律を以って利用することが大事です。
2. ブリッジ・フェーズ:次回エクイティラウンドのバリュエーション向上のための「時間稼ぎ」
「希薄化を最小化し、成長の角度を証明する」
ベンチャーデットは、次の大型エクイティラウンドを有利に迎えるための、戦略的な中継ぎ(ブリッジ)としての活用にも使えます。
例えば、あと数ヶ月ランウェイを伸ばせれば、その分事業成長できエクイティ調達を有利に進められる等の状況で、一時的にデットでランウェイを伸ばし、より高いバリュエーションでのエクイティ調達を狙うためのものです。
このタイプのデットの返済期間は短期(半年〜1年程度)で問題ないです。(純資産と現預金はここまでで一定食い潰しており、財務リスクは低くないフェーズでの調達となるので、)金利は高めになりますが、その分希薄化を押さえられるというメリットがあります。銀行からの借入の前提条件としては、次のエクイティ調達の蓋然性が極めて高いことが重要です。
経済性の計算としては、「デットの金利コスト」と「今ラウンドを急いだ場合の希薄化コスト」を比較します。例えば、NetBurn1億円の会社が、6億円=6ヶ月分の延命に対して金利10%(=6ヶ月分の金利コストで3,000万円)を払ったとしても、半年ランウェイを伸ばすことで、バリュエーションを20%上げられるなら(その分同じ希薄化比率でも調達金額は20%増やせます, 100 > 120億円のvaluation増加だとすると20%の希薄化で20 > 24億円と4億円多く調達できます)、デット活用は十分リターンの方が大きい(3,000万円の金利コスト払いで4億円の超過エクイティ調達)と判断できるかもしれません。
3. 黒字化・安定成長フェーズ:資本コストの最適化
「ベンチャーデットからの卒業と、レバレッジへの転換」
ここまでは赤字・Jカーブフェーズのベンチャーにとってのデットの説明でした(返済原資も基本次回のエクイティ調達)。ただ、黒字化が見えてくると、営業CFやFCFで返済能力を証明できるフェーズに入ります。ここでは「スタートアップ」の枠を抜け出し、一般企業と同様の資本効率性を追求することになります。
目的として、高コストなベンチャーデットから、低コストなプロパー融資へと借り換え、さらに適切なD/Eレシオを追求することで、資本コスト(WACC)の低減が可能になります。エクイティの調達と切り離して考えられますので、返済期間も長短のミックスを組み合わせながら適切なポートフォリオを形成していくのが良いでしょう。
調達金額については、一般的なD/Eレシオを規律として(フェーズ1との違いはEquityを調達金額ではなく純資産で見ることです)、Equityの比率で1~2倍までデット比率を高めてもマネージ可能であることが多いと思います(しっかり売上・利益が成長していればという前提です)。
このタイプの融資は、返済原資が事業側のCFから捻出されるため、外部調達環境の変化(ダウンラウンドリスク等)に左右されない強固な財務体質の構築が可能になります。
こうした交渉には一定時間がかかりますので、黒字化の蓋然性が高まって来たタイミングで早め早めに銀行側と、こうしたプロパー融資への切り替えを議論初めていくのが良いかと思います。

まだまだベンチャー向けのデットは日に日に進化しているフェーズですので、皆様の知見も集約しながら、最適な利用方法を今後もアップデートしていければと思います。
何かありましたらお気軽に連絡ください。
