オランダ戦を数字で振り返る
FIFAの公式マッチレポートをもとに、今回はあえてオランダ代表の視点から、あの激闘の2-2を戦術的に振り返ってみたいと思います。
試合を通してオランダ代表のスタッツを見ると、総パス数529本・パス成功率89%を記録しています。数字だけを見れば、自分たちのリズムでゲームを完璧にコントロールできているはずのゲームでした。
しかし、64分にオランダが2-1と勝ち越した直後から、ピッチの「テンポ」は目に見えて狂い始めました。
数字が証明するオランダの「パス失速」
日本の前線が仕掛ける執拗なプレッシングが、酷暑の中でオランダの中盤のスタミナを確実に削っていったのです。それが顕著に表れたのがパス本数の推移でした。前半だけで280本を数えたオランダのパスは、後半の残り30分間でわずか110本にまで激減。パスは回っていても、それは主導権を握るためのものではなく、日本の圧力をいなすだけの「持たされているパス」へとシフトしていました。
75分、クーマン監督を襲った「構造のズレ」
ここで日本が菅原由勢、冨安健洋、小川航基の3枚を替え、2トップへとシステムを組み替えます。これがクーマン監督にもたらした最初の誤算でした。
日本の2トップにより、ビルドアップの起点だったファン・ダイクとファン・ヘッケにピンポイントで規制がかかります。そして何よりクーマン監督の目を釘付けにしたのは、日本の右サイドに現れた「脅威的な推進力」でした。
交代出場の菅原由勢と伊東純也が仕掛ける圧倒的なスプリントが、マッチレポート上の「日本のラインブレイク数(試合総数88本)」を終盤だけで一気に跳ね上げていきます。日本がこの試合で記録したクロス総数24本のうち、実に半分以上がこの後半30分以降に集中していました。
ファン・デ・フェンの孤立と、クーマン監督の「計算」
この時、日本の左サイドが高い位置を取ることで、オランダの右SBダンフリースは自陣にピン留めされていました。その結果、左のファン・デ・フェンは、伊東と菅原の二人に晒され続け、完全に孤立無援の状態に追い込まれます。
限界を察知したクーマン監督は81分、インサイドハーフのグラフェンベルフを下げ、DFナタン・アケを投入して5バックへシフトしました。監督の頭には、明確な「確率論の計算」があったはずです。日本の右からのクロスに対し、中央のファン・ダイクらを含めた「3枚」で迎撃できる。
この試合のオランダのゴール期待値(xG)はわずか「0.63」で、大して崩せていなくても、枠内シュート6本中2本を仕仕留める個の力で2点取れている。守備さえ固めれば確率論的に2-1で逃げ切れるし、上手くいけばカウンターで3点目を奪える。
合理的な判断が招いた、致命的な隙
しかし、この合理的なはずの判断が、ピッチ上に致命的なズレを生んでしまいます。5バックに変形した直後、左WBの位置に入ったファン・デ・フェンと、その内側に立ったアケの間で、「誰がどこまで出ていくか」という判断の歪み(マークの受け渡しのディレイ)が生じたのです。日本はその隙を見逃しませんでした。その結果、最後にコーナーキックから、劇的なドローとなる2点目を奪い取ります。
日本代表の恐るべき「適応力」
これはオランダ代表目線で個人的にシナリオ化した内容ですが、こうしてデータとタイムラインを紐解くと、改めて日本代表の選手たちが相手の状況を見て、戦い方を臨機応変に変えることができる「適応力」の素晴らしさが浮き彫りになります。強豪オランダの計算を、ピッチ上の微細なズレを突くことで狂わせた、見事な勝ち点1の価値を改めて実感する一戦でした。
