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【SPARKLE スイーツ法務の事件簿】その創業年は本当?-八ッ橋事件

 こんにちは。スパークル法律事務所のスタッフ、スパーくまです!本連載は、スイーツに関する古今東西の興味深い事件を取り上げるコラムです。

 今回は、京都の銘菓「八ッ橋」を巡る、同業者間の不正競争行為差止等請求事件(京都地判令和2年6月10日(平成30年(ワ)1631号)・大阪高判令和3年3月11日(令和2年(ネ)1568号)をご紹介します。
 本裁判では、主に八ッ橋に関する創業年や来歴に関する表示が品質誤認表示(不競法2条1項20号)に該当するか否かが争点となりました。



1.今回のスイーツ

 京銘菓である八ッ橋は日本でも屈指の知名度を誇るスイーツです。京都を訪れた人のうち約40%を超える人が八ッ橋をお土産に購入するとの調査結果もあり(京都市産業観光局「令和5年(2023年)京都市観光総合調査」55頁)、八ッ橋が京都土産の定番であることがうかがわれます。

 本事案の第1審においても、争いのない事実として、以下のように認定されています。

「(争いのない事実……)
……八ッ橋は、現在,原告及び被告を含め,約10の事業者により販売され,全国的に広く知られている。
 八ッ橋の、京都府下の菓子生産高におけるシェアは,明治7年頃には約0.6パーセントであったが、昭和11年頃には約10パーセントとなった。八ッ橋の売上げは、昭和53年には、約57億円となって、京都市内菓子製造出荷額の約17.6パーセントを占めるに至った。」

京都地判令和2年6月10日(平成30年(ワ)1631号)

(1)八ッ橋の種類

 八ッ橋の種類は大きく分けて2種類あります。1つは、お煎餅のような瓦状のようなものです。2つ目は、柔らかくてモチモチした三角の形をした皮の中にあんこが入ったものです。

「八ッ橋」と「生八ッ橋」

 前者が従来からある「八ッ橋」で、後者は1960年代登場という比較的最近登場した「生八ッ橋」です。
 現在では、特に餡入りの生八ッ橋が「八ッ橋」として広く認識されている傾向があるため、前者を「焼き八ッ橋」と、後者については「八ッ橋」と呼ばれることが多くなりました。

 現在、「八ッ橋」「生八ッ橋」ともに、様々な味が展開されています。

(左:珈琲味・しょうが味・胡麻味、右:ニッキ味・抹茶味・つぶあん入り)


当事務所の事務局は池袋で購入しました。

(2)八ッ橋の発祥に関する諸説

 八ッ橋の発祥については、複数の説があります。おおまかには、八橋検校由来説(やつはしけんぎょうゆらいせつ)と三河説があります。

 第一の八橋検校由来説は、琴の名手である八橋検校が亡くなった後、彼を偲び、菓子屋が琴の形に似せたせんべいを「八ッ橋」という名前で販売したという説です。

 第二の三河説とは、故事「三河国八ッ橋」で川に八つの橋をかけた伝承を皆に知ってもらうために菓子屋が橋の形に似せた菓子煎餅を作り、「八ッ橋」という名前をつけたとする説です。

琴に見えますか?それとも橋に見えますか?

 本裁判例の第1審においても、争いのない事実として、以下のように認定されています。

「(争いのない事実)……
八ッ橋の発祥については、複数の説があるが、特に、江戸時代については、確実な文献がない。おおまかには、1600年代の筝曲家八橋検校に関係するもの、かつての三河国(愛知県)にあったという橋に関係するもの(以下「三河説」という。)がある。被告が現在唱えているのは、……八橋検校が、没後、……常光院……に葬られ、墓参に訪れる人が絶えず、元禄2(1689)年から、現在の被告の本店所在地において、琴に似せた干菓子を八ッ橋と名付けて売り出した、というものである(以下「被告検校説」という。)」

京都地判令和2年6月10日(平成30年(ワ)1631号)
こちらも参考になります。

2.事件の背景・経緯

 株式会社井筒八ツ橋本舗(X)と株式会社聖護院八ツ橋総本店(Y)はいずれも京銘菓である八ッ橋を製造販売する会社であり、競業しています。Yは、のれん等に「創業1689年」「since1689」などと表示し、製品を入れた箱に、Yの考える八ッ橋の由来及び1689年から八ッ橋を製造販売しているとの由来を書いた商品説明書を入れるなどしていました。

 そこで、XはYに対し、上記表示等が、商品の品質、内容を誤認させていると主張し、平成30年改正前の不正競争防止法2条1項14号(現行法20号)の不正競争(品質等誤認表示)に該当するとして、同法3条に基づき、その差止め及び廃棄請求等を求めました。

 京都地裁、大阪高裁のいずれも、原告の請求を認めず、最高裁でも上告が受理されませんでした。

3.法的論点・判示

(1)争点1:不競法2条1項20号(「20号」)の規制対象の範囲

不正競争防止法 ※抜粋
2条1項
 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地品質内容製造方法用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

 Xは、①「20号の立法経緯などを踏まえると、その規制対象は、20号に列挙された品質や内容などの表示事項に限定されず、来歴や製造者の歴史など需要者が商品の製品において考慮する商品の属性等の表示を含む」こと、②また、「仮に、上記表示事項が限定列挙されたものであるとしても、20号の商品の「品質」及び「内容」に関する表示には、品質、内容を直接的に示している表示のみならず、これを示唆する間接的な表示も含まれる」ことを主張しました。
 これに対し、Yは、限定列挙である旨の主張をして争いました。

 京都地裁は、以下のとおり、不競法成立までの議論の経緯や差止請求権・損害賠償請求権・刑事罰の存在を根拠に、20号の規制対象となる事項は同号に列挙された事項に限定されるとしました。

 「平成5年に改正された不正競争防止法の基礎となった平成4年12月14日付け産業構造審議会知的財産政策部会の不正競争防止法の見直し方向の審議では、……「価格」及び「規格・格付」のうち解釈上「品質、内容」に含まれないものについて規制する必要があるかどうかについては、……少なくとも現段階において、内容等に係るものと同様に不正競争防止法上の不正競争行為として位置付け、差止請求による民事的規制の対象とする社会的コンセンサスは形成されていないものと考えざるを得ず、今後の我が国経済取引社会の実態の推移を慎重に見守りつつ検討することが適当である旨の結論が出された……。」
以上の立法経緯に加えて、不正競争防止法では、20号の不正競争行為に対し、事業者間の公正な競争の確保という観点から、民事上の措置として事業者による差止め及び損害賠償の請求を認めるだけでなく、不正の目的又は虚偽のものに限って刑事罰を設けているなどの強力な規制を設けているため(同法21条2項1号、5号)、不正競争行為となる対象についての安易な拡張解釈ないし類推解釈は避けるべきであるといえることも併せ考えると、20号の規制対象となる事項は、同号に列挙された事項に限定されると解される。」

京都地判令和2年6月10日(平成30年(ワ)1631号)

 大阪高裁は、京都地裁における限定列挙であるとの判示を是認した上で、「品質」「内容」を広く解釈すべきとする旨の主張を以下のように否定しました。

「20号の表示事項に該当すれば,差止請求(不正競争防止法3条)や損害賠償請求における損害額の推定(同法5条)などの強力な規制の対象となるのに加え,不正の目的又は虚偽の表示という要件を満たせば刑事罰の対象ともなる(同法21条2項1号,5号)ことからすれば,20号の表示事項は明確に特定されるべきである。規制対象をたやすく拡張するような解釈は,規制範囲が不明確となって,事業者の営業活動を過度に委縮させるおそれがあり,相当でない。」 
「20号の定める『品質』『内容』に、これらの事項を間接的に示唆する表示が含まれる場合がありうるにしても、そのような表示については、具体的な取引の実情の下において、需要者が当該表示を商品の品質や内容等に関わるものと明確に認識し、それによって、20号所定の本来的な品質等表示と同程度に商品選択の重要な基準となるものである場合に、20号の規制の対象となると解するのが相当である。」

大阪高判令和3年3月11日(令和2年(ネ)1568号)

(2)争点2:Yによる創業年や来歴の表示が品質等誤認表示に当たるか。

 大阪高裁は、誤認の対象を「客観的に真偽を検証、確定することが可能な事実である」とした上で、Yの創業年等の表示は、品質等誤認表示には当たらない旨の判示をしました。

「品質等誤認表示に該当すると認められるには,さらに,当該表示が商品の品質や内容等の誤認を生ぜしめるものであることが必要である。すなわち,当該表示が,実際の商品の品質や内容等とは,客観的事実として異なる品質や内容を需要者に認識させるものであることが必要である。」
「かかる誤認の対象となるのは、客観的に真偽を検証、確定することが可能な事実であることが想定されているというべきであり、客観的資料に基づかない言い伝え、伝承の類であって、需要者もそのように認識するような事項は、対象とならないと解するのが相当である。」

大阪高判令和3年3月11日(令和2年(ネ)1568号)

「Yの創業年は,……300年以上前のことであるから、商業登記簿などといった公的な客観的資料により確定できるものでないことは明らかである。そして、前記認定事実に照らすと、被告各表示に記載された被控訴人の創業年やこれに関連する八ッ橋の起源、来歴は、明確な文献その他の資料の存在しない言い伝え、伝承によるものと理解される。また、被告菓子である八ッ橋の起源についても、前記認定事実のとおり、その起源、来歴については、複数の説が存在し、多くが江戸時代の話を同時代の資料を提示せずに伝承として伝えるものにとどまり、客観的に真偽を検証、確定することが困難な事項というべきである。
「被告菓子の需要者である全国の一般消費者の認識としても,300年以上前の江戸時代に起こった事柄は,特段の資料を提示した説明がされているような場合以外,客観的に検証,確定できないことは,経験則上,容易に推測できるといえる。
 そうすると,被告各表示は,需要者にとって,被控訴人が江戸時代前期に創業し,被告菓子の製造販売を始めたようであるとの認識をもたらすとしても,同時に,これらがいわゆる伝承の類にとどまり,客観的な真偽を検証,確定することが困難な情報であるということも,需要者に容易に認識されるものであるというべきである」

大阪高判令和3年3月11日(令和2年(ネ)1568号)

4.さいごに

 現在、Yの商品を購入すると、商品の梱包に「since1689」などと表示していることや、製品を入れた箱に、Yの考える八ッ橋の由来及び1689年から八ッ橋を製造販売しているとの由来を書いた商品説明書を入れるなどしていることが確認できます。

 本裁判例では、Yの表示は、品質等誤認表示には当たらないと判断されました。しかし、これは、全ての歴史や伝承等に基づく表示が品質等誤認表示にあたらないことを意味するものではありません。

 企業としては、自社商品について歴史や伝承等に関する表示を行う際には、その根拠を明確にし、特に根拠が伝承などに限られる場合は、その旨を付記するなど、消費者に誤解を与えないような配慮を行うことがリスクマネジメントの観点から重要と言えるでしょう。


文責:スパークル法律事務所
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