破産から欧州宇宙の柱へ——「OneWeb」が描く次世代衛星通信の未来
はじめに
今回は低軌道(LEO)衛星コンステレーションの世界で、SpaceXのStarlinkに次ぐ第2位の規模を誇る「OneWeb」について深掘りしていきます。
2020年にコロナ禍で経営破綻したこの企業が、なぜ今、欧州の宇宙戦略の要として注目されているのか。最新の資金調達から次世代衛星の開発計画まで、宇宙ビジネスの観点から整理してお伝えします。
OneWebとは何か?
OneWebは、地球の約1,200km上空を周回する600基以上のLEO衛星コンステレーションを運用する衛星通信企業です。2012年にアメリカの起業家グレッグ・ワイラーによって設立され、現在はフランスの衛星通信大手Eutelsatの傘下に入っています。
従来の静止軌道(GEO)衛星が地上約36,000kmの位置から通信を提供するのに対し、OneWebの衛星は約30倍近い距離にあります。この低軌道という特性により、データ通信の遅延(レイテンシ)を大幅に低減できるのが最大の特徴です。
破産から復活へ——劇的な再生ストーリー
OneWebの歴史を語る上で避けて通れないのが、2020年3月の経営破綻です。
当時、主要投資家であったソフトバンクグループからの追加出資が得られず、新型コロナウイルスの世界的流行による資金市場の混乱も重なり、米国連邦破産法第11条の適用を申請しました。従業員の約85%が解雇される事態となりました。
https://www.nasdaq.com/articles/british-satellite-firm-oneweb-emerges-from-bankruptcy-2020-11-20
しかし、同年7月に転機が訪れます。英国政府とインドの通信大手バルティ・グローバルがそれぞれ5億ドルずつ、合計10億ドルを出資するコンソーシアムを結成し、OneWebの買収に成功したのです。
その後、衛星の打ち上げを再開し、2023年3月にはグローバルカバレッジを達成。同年9月にはフランスの衛星通信大手Eutelsatとの合併が完了し、世界初のGEO-LEO統合衛星事業者「Eutelsat Group」が誕生しました。
なぜ今、15億ユーロの大型増資なのか?
2025年11月、EutelsatはOneWebの事業強化に向けて約15億ユーロ(約1,750億円)の増資を完了させる見込みです。この増資には、フランス政府、英国政府、バルティ、海運大手CMA CGMなどが参加しています。
増資の目的は主に2つあります。
第一に、現行のOneWeb衛星コンステレーションの維持・更新です。2020年から2023年にかけて打ち上げられた650基以上の衛星は、設計寿命が2027年から2028年頃までとされています。この世代交代に備えた資金確保が急務となっています。
第二に、欧州連合(EU)の新たな衛星通信プロジェクト「IRIS²」への参画です。これについては後述します。
Starlinkとの違いは?
LEO衛星コンステレーションといえば、イーロン・マスク率いるSpaceXのStarlinkが圧倒的な存在感を示しています。7,000基以上の衛星を運用するStarlinkに対し、OneWebは約600基と規模では大きく差をつけられています。
しかし、両者のビジネスモデルは明確に異なります。
Starlinkは一般消費者向けのサービスを主軸としており、月額99ドル程度から利用可能な手頃な価格設定で急速にユーザーを拡大しています。一方、OneWebは企業・政府機関向けのエンタープライズグレードのサービスに特化しています。
OneWebの強みは、サービスレベル契約(SLA)に基づく品質保証と、専用回線によるセキュアな通信環境にあります。通信事業者や大企業、政府機関など、安定性と信頼性を重視する顧客にとっては、こうした特性が大きな価値を持ちます。
次世代衛星と欧州の宇宙戦略
2024年12月、Eutelsatは欧州航空宇宙大手エアバスに対し、OneWebコンステレーションの拡張用として100基の次世代衛星を発注しました。納入は2026年末から開始される予定です。
この次世代衛星には、5G通信との統合機能や、EUの次世代衛星コンステレーション「IRIS²」との相互運用性が組み込まれる予定です。
IRIS²は、欧州の「デジタル主権」を確保するための官民連携プロジェクトであり、約290基の衛星で構成される計画です。Eutelsatは、SESやHispasatとともにSpaceRISEコンソーシアムを形成し、この大型プロジェクトの運営を担うことになりました。2030年頃のサービス開始を目指しています。
OneWebがこのIRIS²においてLEOセグメントの設計をリードする役割を担うことは、同社が単なる一民間企業から欧州の宇宙インフラを支える戦略的存在へと進化したことを示しています。
宇宙ビジネスの視点から見る意義
OneWebの事例は、宇宙ビジネスにおける以下の重要な教訓を示しています。
まず、政府関与の重要性です。一度は破綻した企業が、英国・フランス両政府の支援により復活し、今や欧州の宇宙戦略の中核を担うまでになりました。宇宙インフラが国家安全保障に直結する時代において、官民連携の重要性がますます高まっています。
次に、差別化戦略の有効性です。圧倒的な規模を誇るStarlinkに対し、OneWebはエンタープライズ市場に特化することで独自のポジションを確立しています。宇宙ビジネスにおいても、「選択と集中」が成功の鍵となることを示す好例です。
おわりに
OneWebは、破産の危機を乗り越え、欧州の宇宙通信インフラの要として新たな章を開きつつあります。次世代衛星の投入とIRIS²プロジェクトへの参画により、2030年代に向けた基盤固めが着々と進んでいます。
Starlinkという巨人に対し、どのような差別化戦略で市場シェアを確保していくのか。今後の展開から目が離せません。
参考記事
〇Eutelsat approves nearly $1 billion capital boost(2025年11月19日)
〇Eutelsat OneWeb - Wikipedia(2025年11月更新)
〇British government and Bharti Global buy OneWeb, plan $1 billion investment to revive company(2020年7月3日)
〇British satellite firm OneWeb emerges from bankruptcy(2020年11月20日)
https://www.nasdaq.com/articles/british-satellite-firm-oneweb-emerges-from-bankruptcy-2020-11-20
〇OneWeb vs Starlink Comparison | How do they stack up?(2024年11月20日)
〇Airbus awarded Eutelsat contract to build OneWeb low orbit constellation extension(2024年12月11日)
〇Europe signs contracts for IRIS² constellation(2025年5月30日)
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