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日本全国で動き出す「宇宙産業」の新潮流 〜地方から宇宙を目指す時代へ〜

宇宙ビジネスといえば、NASAやSpaceXなど海外の話と思われがちです。しかし今、日本各地で宇宙産業を盛り上げようとする動きが活発化しています。北海道から和歌山、大阪まで、それぞれの地域特性を活かした挑戦が始まっているのです。

急成長する世界の宇宙市場と日本の立ち位置

世界経済フォーラム(WEF)によると、宇宙経済は2035年までに約1兆8,000億ドル規模に成長すると予測されています。現在、日本の宇宙産業の市場規模は約4兆円。政府は2030年代初頭までにこれを8兆円へ倍増させることを目指しています。

2024年1月、JAXAの小型月面探査機「SLIM」が世界で5カ国目となる月面着陸に成功しました。しかも着陸精度は約55メートル。約38万キロメートル先の月に対してこの誤差は驚異的な技術力を示しています。こうした高い技術力を土台に、日本の宇宙産業は新たなステージへと進もうとしています。

北海道大樹町:アジア初の民間宇宙港

北海道十勝地方の大樹町では、1985年から「宇宙のまちづくり」を掲げ、約40年にわたって航空宇宙産業の誘致に取り組んできました。その成果として2021年、アジア初の民間にひらかれた商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」が本格稼働しています。

大樹町の強みは、ロケット打上げ方向の東と南が海に開かれていること、広大な土地による拡張性の高さ、そして良好な気象条件です。2024年6月には滑走路の延伸工事が完了し、全長1,300メートルとなりました。2023年度は延べ43の企業・団体が195日にわたって実験施設を利用するなど、活況を呈しています。

さらに2025年度には人工衛星用ロケットのための新射場「Launch Complex 1(LC1)」が完成予定。将来的には高頻度打上げを実現する「LC2」射場や、3,000メートル滑走路の新設も構想されています。

2024年10月には世界5大陸8つの商業宇宙港と国際協力に関する覚書を締結。射場設備の国際標準化や運用コスト削減に向けた検討が始まりました。アジアからの参加はHOSPOのみであり、その存在感は着実に高まっています。

和歌山県串本:日本初の民間ロケット射場

本州最南端の和歌山県串本町には、日本初の民間小型ロケット射場「スペースポート紀伊」があります。スペースワン社が運営するこの施設では、固体燃料ロケット「カイロス」の打上げサービスが提供されています。

2024年3月の初号機は打上げ直後に飛行中断措置が発動しましたが、同年12月の2号機では高度110キロメートルの宇宙空間への到達に成功。衛星の軌道投入には至りませんでしたが、着実に前進しています。2号機には台湾国家宇宙センターをはじめとする国内外の衛星5機が搭載されており、国際的な期待の高さがうかがえます。

スペースワンは「契約から打上げまで世界最短時間(1年以内)」「年間20機以上の高頻度打上げ」を目標に掲げています。現在、3号機の準備が進められており、地元では「和歌山ロケット応援団」が結成されるなど、地域を挙げた応援体制が整っています。 https://wakayama-rocket.com/

大阪:ものづくり技術で宇宙機製造を支える

宇宙港の話題が多い中、ものづくり都市・大阪も宇宙産業への参入を本格化させています。2024年、大阪商工会議所は「宇宙ビジネスクラスター」を発足させました。

大阪は日本有数のものづくり密集地であり、中小製造業の技術蓄積は全国トップレベルです。実際にJAXAの月面着陸機「SLIM」には、大阪冶金興業が金属部品を提供しています。流体制御機器メーカーのIBSも宇宙機向け製品を供給するなど、個社単位での参入実績はすでにあります。

宇宙ビジネスクラスターでは、JAXAなどと連携しながら、宇宙食開発のフジッコ、月面バイクを開発するRIDE DESIGN、衛星データ活用企業など、主に大阪以外の宇宙関係者を招いて地元企業との交流機会を設けています。大阪商工会議所の担当者は「大阪には技術力の高い中堅・中小企業が多く、まだ特定分野にフォーカスしていない。全国からの幅広い宇宙領域の製造需要に応えられる」と展望を語っています。

地方創生と宇宙産業の好循環

こうした動きの背景には、宇宙産業が地方創生の切り札になりうるという期待があります。大樹町では企業版ふるさと納税を活用した資金調達が成功し、2022年度には内閣府特命大臣表彰を受けました。約60年続いた人口減少に歯止めがかかり始め、飲食店や小売店の新規出店、移住者の増加といった効果も現れています。

全国の複数の自治体が「地方からの宇宙への挑戦に関する要望・提言」を国に提出するなど、宇宙を産業にしようとする動きは着実に広がっています。福井県では県民衛星「すいせん」の打上げと軌道投入に成功するなど、独自の取り組みを進める自治体も出てきました。

日本の宇宙産業、これからの展望

日本の宇宙産業には約100社の宇宙スタートアップが存在し、ispace、QPS研究所、アストロスケール、Synspectiveなどが株式市場に上場しています。2024年度からは宇宙戦略基金が本格始動し、JAXAを通じた民間企業や大学への支援体制も整いつつあります。

WEFの議論では、日本の役割として「共創」を促し、アジア地域における宇宙協力のハブとなることが期待されています。高精度な技術力、ものづくりの集積、そして各地域の特色ある取り組み。これらを組み合わせることで、日本の宇宙産業は新たな成長軌道に乗る可能性を秘めています。

宇宙はもはや、遠い世界の話ではありません。私たちの住む地域から宇宙を目指す時代が、すでに始まっているのです。


参考記事

〇大阪の「ものづくり技術」で宇宙機の製造需要に応える–大阪商工会議所がコミュニティ醸成(2025年12月1日)

〇日本が、宇宙産業の主要なプレーヤーであり続ける方法(2024年12月)

〇北海道スペースポート・滑走路の300m延伸工事が完了(2024年6月25日)

〇北海道スペースポートの滑走路延伸工事が完了。より規模の大きい実験が可能に(2024年7月1日)

〇民間にひらかれた商業宇宙港「北海道スペースポート」プロジェクトに企業版ふるさと納税で新たに22社、1億2,090万円の寄附(2025年1月22日)

〇カイロスロケット2号機が打ち上げ。宇宙空間へ到達するも、衛星の軌道投入には至らず(2025年1月6日)

〇カイロスロケット打上げ応援サイト(2025年)

〇宇宙ビジネス企業81社とゆく年くる年、2024年のトピックと2025年の展望(2024年12月)


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