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「三度目の正直」はまだ先に──カイロス3号機、発射30秒前の緊急停止が問いかけること

2026年3月4日の朝、和歌山県串本町のスペースポート紀伊には、静かな緊張が漂っていた。

スペースワン株式会社の小型ロケット「カイロス」3号機。午前11時の打ち上げを前に、カウントダウンが残り30秒というところで自動安全システムが作動し、緊急停止した。歓声を待っていた人々の間に、また沈黙が広がった瞬間だった。

2月25日の天候による延期、3月1日の高層風を理由にした直前中止に続く、三度目の「飛ばない朝」。詳細については、同日午後の記者会見で説明されるとのことだ。

誰が、何を乗せて飛ぼうとしていたのか

カイロスは、キヤノン電子やIHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行などが出資するスペースワンが開発した固体燃料の小型ロケットだ。そのミッションは一言で言えば、「民間企業単独による日本初の宇宙軌道への衛星投入」である。

3号機には5つの衛星が積まれている。テラスペース(京都府京田辺市)、スペースキュービクス、東京の広尾学園、アークエッジ・スペース、そして台湾国家宇宙センター(TASA)。国内の私立高校が開発した衛星まで搭載されているという事実は、宇宙が「研究機関だけのもの」ではなくなりつつある時代の変化を静かに物語っている。

過去を振り返れば、1号機は2024年3月に発射約5秒後に爆発した。2号機は同年12月、3分7秒後に姿勢を乱して飛行中断となった。そして今回、発射前の安全システムによる30秒前の自動停止。毎回異なる形で壁にぶつかっている。

失敗にある意味がある、と言い切れるか

こうしたニュースを重ねていくと、「なぜ続けるのか」という問いが自然と浮かぶ。

一つの答えは、宇宙開発の歴史そのものにある。SpaceXが最初のロケット「ファルコン1」の軌道投入に成功したのは4回目の挑戦だった。日本のH3ロケットも試験機1号機の失敗を経て、2号機で見事な成功をおさめた。今回のように、安全システムが作動して30秒前に止まったことは、むしろシステムが正常に機能していた証左でもある。宇宙開発において、「止まれる」ことは決して小さな技術ではない。

より大きな視点で見ると、カイロスが担おうとしている役割は産業全体の地図の中でも重要な位置にある。世界の宇宙経済は2025年に6264億ドル規模に達したとNovaSpaceが試算しており、2034年には約152兆円にまで拡大するとも予測されている。

https://sorae.info/column/20260219-novaspace-report.html

日本はこの成長市場でどれほどの存在感を持てるか。経済産業省の宇宙産業小委員会は「2030年代早期に年間約30回の打ち上げ」を目標に掲げるが、現状は年間わずか数回にとどまる。打ち上げ頻度を高めるには、カイロスのような民間ロケットが実際に機能することが不可欠だ。

世界では、2026年が「月レース元年」になろうとしている

カイロスの挑戦が続く一方で、グローバルな宇宙ビジネスは別次元のスピードで動いている。2026年はまさに「月を目指す史上最大のラッシュ」と呼ばれる年だ。

NASAのアルテミスII(4人の宇宙飛行士による有人月周回飛行)が今春に予定されており、ブルー・オリジンの月着陸機「ブルームーンMK1」は月南極域への着陸を目指している。インテュイティブ・マシーンズのIM-3ミッションも準備が進む。一方で日本のispace(アイスペース)も着々と次のミッションに向けて歩みを進めており、日本から世界の月面輸送市場に参入する動きは続いている。

宇宙開発の舞台は、地球の軌道上にとどまらず、月面にまで広がろうとしている。

それでも、カイロスに期待するわけ

今回の中止を「また日本のロケットが失敗した」と切り捨てるのは簡単だが、そこには日本の宇宙ビジネスが抱える構造的な課題と、それを乗り越えようとするリアルな格闘がある。

スペースワンのような民間スタートアップが挑戦を繰り返すことで、射場の運用ノウハウが積み重なる。衛星を打ち上げたい企業が選べる選択肢が増える。宇宙産業のエコシステムが少しずつ育っていく。一度の中止でそのプロセスが止まるわけではない。

予備期間は3月25日まで設けられている。次の打ち上げ日は当日午後の記者会見では、3/5 11:10の予定。
再挑戦の機会はある。カイロスがいつか軌道投入に成功する日、それはある意味で、日本の民間宇宙産業が地上を離れて宇宙にたどり着く瞬間でもある。

「三度目の正直」は、まだ訪れていない。だからこそ、その日を待つ理由がある。


参考記事

〇小型ロケット「カイロス」3号機、4日も打ち上げ中止(2026年3月4日)

〇スペースワンが「カイロス」ロケット3号機の打ち上げを3月4日に再設定(2026年3月2日)

https://sorae.info/space/20260302-kairos-3.html

〇世界の宇宙経済は6264億ドルに 「Space Economy Report」が示す2025年の構造的転換点(2026年2月19日)

https://sorae.info/column/20260219-novaspace-report.html

〇2026年、月を目指す史上最大のラッシュ――民間と国家が競い合う新時代の幕開け(2026年1月6日)

〇2026年の宇宙開発はどこへ向かうのか? 注目ミッションで読み解く未来像(2026年1月22日)


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